小話 彼の初登場シーン
前世でノイン=アンジェリックの初登場シーンをプレイした時は、衝撃的だった。
「なぜ、あなたは笑えないの!? 本当にイライラするわ! 人形みたいで気持ちが悪い!!」
ヒロインのソフィアは、ある日、体育館裏で公爵令嬢のローゼリカが華奢な男の子をいじめているところに出くわし、慌てて物陰に隠れる。
「……ごめんなさい」
「本当に、薄気味悪いことこの上ないわね。私は今でもあなたを認めていないわ。お父さまだって、私が殿下の婚約者になったから、後継者不在で仕方なくあなたを次期当主にと考えただけ。単なるラッキーづくしでたまたま今の立場にいられることを忘れないことね!」
「…………」
口をつぐんでしまったノインに、ローゼリカは額に青筋を浮かべながら容赦なく手をあげる。
「あなたって、いっつもそう。どうして返事のひとつもできないのかしら!」
いてもたってもいられなくなったソフィアは二人の間へ飛びこむように駆け出す。ノインをかばい、自らが平手打ちをくらうのだ。
「ローゼリカ様……。暴力は、いけませんよ」
打たれた頬をおさえながら、暴力をふるったローゼリカに対して弱々しく微笑むソフィア。
ローゼリカは、その殊勝な態度に怯えたように目を丸くして「……平民のあなたが、公爵令嬢である私の意見に口を出すなんて、良い度胸をしているじゃない。覚えていなさいよ!」と悪役らしい捨て台詞を吐いて、一時逃亡。
ソフィアが振り向けば、ローゼリカに虐げられていたその男の子はじいっと無感動な瞳で見ていた。
淡く光を散らしているような、輝く銀の髪。
雪のように白くなめらかな肌に、華奢な身体つき。長い睫毛は瞬きをしたら音を立てそうに長く、触れたら壊れてしまいそうに繊細な雰囲気の美少年だった。
何よりも目を引いたのは、まるで本物のガラス玉のように、なんの感情も映し出さない紅の瞳。
「なぜ、僕なんかをかばったのですか?」
ガラスよりも冷たく、無機質な言葉。
ソフィアは驚いて瞳を瞬かせるも、彼を安心させるように微笑んでみせる。
「ぶたれそうになっている人を助けるのに、理由なんていらないでしょ?」
彼は一瞬だけ呆けた後、「……あなたのその能天気さは、いつかその身を滅しそうです」とだけ淡々と言い残し、去っていく。
かばってくれてありがとう、という言葉すらもなく。
その異様なまでの雰囲気が、その華奢な身体にのしかかっている重たい闇を透けさせていて。
前世の私は、どうしようもなく、胸を締めつけられたのだ。
ああ。
なんて美しく、なんて歪な子なのだろう。
きっとあの悪役令嬢が、いたいけなあの子の心を壊してしまったに違いない。
いつか彼の満面の笑みを見てみたいと、私はゲームコントローラーを握りしめながら強く強く心に願ったのだ。
溢れ出る萌え心を押し殺しクールな悪役を演じていたのに、実は心の声を読まれていただなんて聞いていません! 久里 @mikanmomo1123
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