天才美少女プログラマー(自称)網走蘭は東奔西走する

名苗瑞輝

網走蘭は東奔西走する


「クソがっ! 何故動かん!」


 思わず汚い言葉を口走ってしまう。

 私こと天才美少女プログラマー網走あばしりらんは、いま窮地きゅうちおちいっている。

 プログラムが思うように走ってくれないのだ。


「何故なのか。手順は完璧なはず」


 しかし無情にもそれはウンともスンとも言わないのだ。

 おっと、諸君は本当に私が天才美少女プログラマーなのかと疑っただろう。

 今日は少し調子が悪いだけだ。天才とは言え人間なのだから、不調なときもある。

 そうだ、きっと明日になれば解決するに違いない。気付けばもう0時を回っている。今日はもう、寝ることにした。


 * * *


 目覚めからすこぶる調子が良い。

 今日こそは天っ才! 美少女プログラマー網走蘭の才能を披露できよう。


 私は再びプログラムを目の前にする。

 なるほど、解らん!

 眠ったことにより、昨日何をどう直したのかが解らなかった。


 ひとまず私は考える。

 このプログラムが最後に走ったのはいつだったか。

 そう、あれは確かシミュレータで……そう、シミュレータだ!


「もしもし、師匠?」


 早速私は電話をかける。相手は私の師匠。師匠ならシミュレーション環境を持っているので検証できるはずだ。

 え、私は持ってないのかって?

 HAHAHA、3Dシミュレータが動くほどのパソコンが無いだけさ。決して環境の構築が出来ないわけじゃ無い。


「シミュレータ使わせてください」

『だから自宅に構築しろとあれほど。しょうがねぇからうちに来い』


 師匠の許可も出たので、早速私は師匠の家へと走った。

 もちろんデータの入ったUSBメモリも忘れずに。


 * * *


 インターホンを鳴らすと、師匠の声で『鍵開いてるから入ってこい』と聞こえた。遠慮無く私は師匠の家に上がる。

 師匠はキッチンでコーヒーをれていた。

 相変わらずボサボサな長い髪に無精ヒゲを生やしている。そんな冴えない見た目の師匠だが、この天才美少女プログラマーの私が師匠と呼ぶだけあって、それは天才という安易な言葉では形容できない、いわば神のようなお方なのだ。


「で、シミュレータだろ? もう準備してあるから勝手に使え」

「はい!」


 早速シミュレーション環境となるパソコンにUSBメモリを刺す。ウィルス対策ソフトによる検査が走った後、私はファイルを開き、シミュレーションを実施した。


「あっれぇ、普通に走りますね。あ、でもちょっと挙動がおかしいかも」


 私はその場でコードを修正する。こうやってちゃんと動いてさえくれれば、簡単に問題点を洗い出して修正できる。やはり私は天才美少女プログラマーだ。

 走るようなキータッチでコードを書き上げてビルドする。それを再びシミュレータに適用させて走らせると、良い感じに動いてくれた。


「ふっふっふ。完璧ですね」

「いや、その汚ぇコードなんとかしろ」

「むむっ、そうですね」


 私は師匠に言われたとおりコードを整形していく。あ、これとか絶対眠い中書いたやつだ。メソッド名がRanになっている。そこはRunでしょと。

 そうやって調子よくコードを書き直していると、師匠がたずねてきた。


「結局、シミュレーション環境じゃないと動かない理由は解ったのか?」

「はっ!」


 枝葉しように走るとはまさにこのこと。リファクタリングなんていつでもできるではないか。

 思い出したように実機に適用……実機!?


「実機置いて来ちゃいました。貸してください」

「こっちも作業中だ。自分の持ってこい」

「ふえええ」


 仕方が無いので私は再び自分の家まで走った。そして実機を担いで再び師匠の家まで戻ってくる。

 そしてすぐに実機へプログラムを適用し、走らせてみた。しかし動かない。


「あー、これハードがダメなやつだな」


 なるほどハード!

 流石に天才美少女プログラマーとはいえど、ハードウェアは専門外。なぜならプログラマーはソフトウェアを作るだけだから!

 とはいえどうしようかと考えていると、師匠がメモに何かを書いて私に差し出してきた。走り書きなので少し読みづらい。


「師匠のコードは綺麗でも、字は汚いですね」

「良いから、そこに書いたもの買ってこい。いつものパーツ屋にあるから」


 半ば追い出されるように先輩の家を後にし、パーツ屋へと走る。

 馴染みの店員さんにメモを見せ、指定されたものを無事購入──。


「うちじゃサンドイッチは売ってないぞ」

「さ、サンドイッチ?」


 メモを返して貰うと、その末尾には確かにサンドイッチの文字があった。

 あの人、私が外へ出るのを良いことに見事に使いっ走りにしようとしたわけだ。これは由々しき事態である。

 なんだか腹が立ったので、店員さんには虫唾が走るような先輩の悪評を流しておいた。悪事、千里を走るとは言いますが、この悪評がどこまで広まるかは楽しみにしておこう。


 まあそれで少し気も晴れたので、思惑通りにパシられてやることにした。

 お店までひとっ走りした後フルーツサンドを用意し、私は先輩の家に戻ってきた。


「どうぞ、サンドイッチです」

「どれ。ほう、フルーツサンド。ナイスチョイスだ」

「あ、そうですか」


 嫌がらせのつもりで食事用の普通のサンドイッチではなく、デザートになるフルーツサンドを用意したのだけれど、当てが外れてしまった。

 とにかくフルーツサンドをモグモグと食べながら師匠が指示し、その通りに私は実機のパーツを交換していく。

 それが終わると早速走らせてみた。


「おおっ、走った」

「良かったな」

「ふふん、天才美少女プログラマー網走蘭の実力です」

「そうやって才に走るところがダメなんだがな。大体お前何もしてないだろ」

「パーツ買いに行きましたよ。あ、そういえばフルーツサンドのお金ください」

「サポート代だと思ってくれ」

「えー、酷くないですか?」

「俺は利に走ってるんだよ」


 そう言う先輩はきっと、そのフルーツサンドに込められた想いが何であるかよしも無いだろう。

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天才美少女プログラマー(自称)網走蘭は東奔西走する 名苗瑞輝 @NanaeMizuki

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