ご当地アイドルの非日常的日常<脅威の侵略者!?>

中田もな

脅威の侵略者!?

 近頃の世界情勢から、「おうち時間」が主流になった。ある者は室内での新しい趣味をつくり、またある者は料理や掃除に凝り始めたりしたが、……そんなことはどうでも良い。これらは全て、敵の罠だったのだ。我々の注意を散漫させて、虎視眈々と我々を討つ機会を狙っていたのだ。

 

「みんな、揃ったか」

 パソコンで展開される、オンライン会議。私は今夜、ある作戦を遂行するために、メンバーを秘密裏に会議室へと招いていた。

「……どうしたんですか、リーダー? そんな深刻な顔して」

 新米の百村もむらが困ったような顔をしている。きれいに巻かれた髪を見るに、おそらく仕事帰りだろう。緊急招集となってしまって申し訳ないが、それほどに由々しき事態なのだ。

「忙しい中での出席、本当に感謝する。さっそくだが、本題に入らせてもらう」

 画面に映った他のメンバー四人の顔が、一斉に私の方を見る。

「単刀直入に言おう。……敵が動き出した。それも、凄まじい勢いだ」

 ――私のその一言で、場の空気が一気に張り詰めた。ただ一人、状況が呑み込めていない百村だけが、画面上をきょろきょろと見回して困惑している。

「え? え? 敵ってなんですか? 新しいご当地アイドルの出現とか?」

「百村ちゃん。あなたの言う通り、最近現れた群馬のアイドルは手ごわいけど、問題はそこじゃないわ。敵は、もっともっと強大なの」

 フォローに入ってくれたのは、副リーダーの長田だ。彼女は感性五が豊かで、我々のグループの作詞作曲なども手掛けている。

「リーダー、敵はいつものパターンを取ってるんすか?」

 フランクな口調で、小山おやまが会話に割って入ってきた。ショートの髪の毛と小動物のような可愛い顔を、画面いっぱいに近づけている。

「それが……」

 ……私は、思わず言いよどんでしまう。全くの不覚だが、今回の件は想定外だったのだ。

「リーダー、まさか……!」

 言葉を濁す私に対して、川上が驚いたように目を見開いた。バラエティー番組で本領を発揮する彼女だが、このような鋭い反応を見ると、あれは演技なのでないかと勘ぐってしまう。

「……鋭いな、川上。そのまさかだ。……第三勢力の台頭だ」

「佐野ちゃん、それって本当なの!?」

「ええっ!? マジっすか!?」

 同世代の長田のため口と、小山の仰天した声が、画面内で絶妙なハーモニーを奏でる。

「ああ。新たな刺客は、近頃の『おうち時間』に便乗して、我々の座を脅かそうとしている。我々の永年のライバルも、この勢力の存在を非常に危惧しているようだ」

「何てことなの……!?」

「おうち時間を利用するなんて……、なかなかやるっすね……!」

「リーダー、私たちも早急に動くべきです!!」

 ざわざわとし始めた会議室の中、ついていけない様子のメンバーが一人いた。言わずもがな、百村だ。

「ちょっと! みなさん何なんですか? ちゃんと説明してくださいよ!」

「すまない、百村。一から説明しよう」

 すっと右手を挙げた私は、起こった百村の顔を見た。

「百村。突然だが、餃子は好きか?」

「へ? 餃子?」

 彼女は首をかしげて、「いきなり何だ」と言いたげな表情を浮かべる。

「ま、まぁ、嫌いじゃないですけど。私たち、栃木のアイドルですし、宇都宮で餃子のロケとかしましたよね」

「そうだな。その餃子に関して、宇都宮市は浜松市と熾烈な戦いを繰り広げてきた。だが……、我々がライバルの浜松ともども、世界情勢の波に吞まれている間、新たな敵は水面下で動き出していたのだ……!」

 体が徐々に熱くなってくる。この衝動は、最早誰にも止められない。

 「その敵の名は……!!」

 「「「敵の名は!?」」」

 「――宮崎市だ!!」

 「「「うわああああああ!!」」」

 調和の取れたような、見事なリアクション。百村だけが、口を開けてぽかんとしていた。

「……え?」

「いいか、百村。餃子消費量一位の座は、今や宮崎市に渡ろうとしているのだ!! 浜松でも京都市でもなく、宮崎市に!!」

「いや、別にいいじゃないですか。私たちが騒いでも、どうにもならないことですし」

「百村ちゃん、諦めちゃダメよ! 何かまだ策はあるはず!」

「長田の言う通りだ。栃木のアイドルである我々が諦めてしまったら、それこそ武士の名折れだ」

 すっと椅子から立ち上がり、私は高らかに宣言した。

「メンバー諸君!! 宇都宮に永遠の王座を約束するために、綿密な作戦を立てようではないか!!」

「「「おーっ!!」」」

 盛り上がる我々とは裏腹に、百村は「勘弁してくれ」と言いたげな瞳を向けていた。

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ご当地アイドルの非日常的日常<脅威の侵略者!?> 中田もな @Nakata-Mona

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