電話越しの、君の心は。

花空

なんて思ってるのかな。

『ねえ、ちーくん』

『電話しよーよ』

 僕の元に毎晩届く、同じ内容のメール。

 会えない君と、心を満たし合う時間。


 ***


 ここまで可愛いと思っているのは僕だけ。

 君は、それにいつ気づくかな。

 もしかして、気づかないかな?

 まだ少し、君には早いかもしれないね。

 それでもいつか、僕の心を知ってくれるかな?

 なんて、欲を出すのは悪いことなのだろうか。


 ***


 僕たちは、もう何ヶ月も家にいることを要求されている。

 そろそろたくさんの人々が痺れを切らしている頃だろう。

 そんな現実から逃れるために、少しでも寂しい思いをしないように、と充実し始めた技術。リモートだ。

 元は、会議や学校の授業などを家から出ずに可能にするように改良されていたものが多かったのかもしれないが、ここ最近では、僕のような学生が会えない時間を埋めるために使う人も多い。

『ねえ、ちーくん』

『電話しよーよ』

 寝る一時間前の決まり文句。

『ちーくん』と言うのは僕で、幼なじみの月南るなだけがあきをそう呼んでいる。

『いいよ』

 そう返すのも、いつも同じ。

 一分一秒、少しでも長く、月南の声を聞きたいと思っているから。

 君のことが好きだから。


『もしもし、ちーくん?』

「うん。こんばんは」

『こんばんはあ』

 少しだけ眠そうな声が、電話越しに聞こえてくる。

 その声がとても可愛らしいし、癒される。

 眠いなら眠ればいいのに、とは思っても口には出さない。というか本能で出せない。

 もっと聞きたいと思うからね。

『あのね、聞いて! 今日のお母さんがおかしかったの』

「おかしかったって?」

『なんか急に朝歌い出したと思ったら、ソファに寝っ転がって寝ちゃった』

「……きっとまだ眠かったんだろうね」

 月南は抜けてるところがあるから、お母さんが手助けしているところはよく見る。

 さすがに頑張りすぎて疲れていたのかもしれない。

『ちーくん、今日の授業はどれが一番楽しかった?』

「僕は英語かな」

『ええ!? 英語?』

「そう、月南が嫌いな英語」

 少しからかってみると『うぐっ』と何かが詰まったような声が聞こえた。

『き、嫌いじゃないもん。苦手なだけ、だからね?』

「ふっ、そういうことにしておくよ」

『あー! 今、鼻で笑ったでしょ。ちゃんと聞こえてるからね!』

「ごめんごめん」

 そう謝ってはいるものの、彼女をからかうのはどうにも止められない。

 反応が可愛いからかな。

「今度、また教えてあげるよ。その代わりに僕には数学を教えてくれる?」

『えっいいの? でもなあ、ちーくん私より頭いいじゃんか』

 ぷくー、と頬を膨らませた顔が想像できる。

「でもさ、人に教えた方が自分のためにもなるって聞いたことがあるんだよね」

 あえて直球な言葉は使わない。

『へえ。初めて聞いたよ』

 そして少しの間を空けて

『あれ、それって私のためってこと? ちーくん、そういうことなの!?』

 気づく。

「うん、そういうことだよ」

 この時の反応も、いつも可愛い。

 だけどまだ、

「ずっと月南が一番だよ」

 という言葉には

『えー、何の?』

 気づかないみたいだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

電話越しの、君の心は。 花空 @popflower

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ