あー外に出たいわね(棒)

常陸乃ひかる

外に出られません

 宣言します。

 私、今日は――今日から、外に一歩も出ません!


   ♯ ♯ ♯


 なぜ、そんなことをするかと?

 いや、理由はよくわからないんですが、政府がそうしろって言うんで。

 あっ、私は別に外出したくないわけじゃないんですよ? 本当ですよ?

 決して慢性的な引きこもりってわけでもないんですよ?


 人混みが苦手とかあ、人との会話が苦手とかあ、そもそも人間が苦手とかあ、そういうのじゃないんです。あっ、本当ですよ? か、彼氏も居ますしー!

 え、彼? 居ました、さっきまで! い、今は……どっかに居ます! まあ居るんじゃないんですかね? というか、それはプライベートですっ!


 なに? 人が苦手じゃない証拠を出せ? 

 あぁ……そうですねえ。では、先ほど最寄の商店街の金物屋へ行った時の話をしましょう。不思議に思われるかもしれませんが、私どうやら先天性の、

『人と目が合わない性質』

 みたいなんですよ。

 タイミング悪く、みんなが別のところへ目線をやっちゃうんですかねえ。あるいは、私の放つオーラが激しすぎて、目を合わせないようにしている、みたいな?

 代わりと言っちゃなんですが、敷かれたタイルの色は完璧に覚えましたけれど。ホラホラ、商店街を歩けるんですから、人混みなんてへっちゃらです!

 ぐっ……ずっと、うつむいていただけだろって?

 ち、違いますー! 私は、こう……伏し目がちなだけで、それで……そもそも視野が広いから、下を向いてても歩っ……ぶつからないんです!

 別に人間なんて怖くな――え、次はなんですかあ……。あぁ、人との会話? 


   ♯ ♯ ♯


 はあ? なに言っているんです、現にこうして会話しているじゃないですか。いや、まあ……確かに、面と向かって話しているわけではありませんが……。でもでも、文字での会話も、立派なコミュニケーションではありません?

 知らないんですかあ? 今はオンライン会議ってやつが色んな会社で行われているんですよ。だから、こうして文字のみで己の意志を伝える技術だって、社会的には必要なスキルだし。

 もしかしたら近い将来には、事情聴取とか取り調べとかも、そうなるかも!


 ま、まあ……さっき金物屋の店主とのやり取りは、ちょーっとだけ……ほんの少しだけ、上手くいかなかったかもしれませんが? なんか……成り行きで、よくわからない、高い商品を買わされ――買ってしまいましたけれど。

 でも、でも、でも! 目当ての物は買えました。

 カレーを買いに行って、シチューを買ってくるようなバカな真似はしてません!


   ♯ ♯ ♯


 なっ、私が対人恐怖症だとでも? 普通、そんな単刀直入に聞きますか……もっとこう婉曲えんきょくに言うとか……だ、だーかーらー、違いますって!

 人間なんて怖くない! ないっ!

 だったら、私の家に上がりたい? ダ、ダメですよ! 今……こう、ちち血、散らかっているんで! というかレディの部屋ですよ? 普通、そんなズカズカと――

 あー、もう! しつこい! 今は忙しいのでこれで失礼します!


   ♯ ♯ ♯


 ――遠くから、町内の時報が聴こえてくる。

 メロディは、七つの子か。


「さっき金物屋で買った包丁、高いだけあって切れ味が良いわね。これなら、この男の死体を解体するのに、そこまで時間はかからないかしら」


 さて、これから私のおうち時間が始まる。

 まあ、最悪――牢獄おうち時間でも良いのだけれど。

 どちらにしても長い時間になるのだから。

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あー外に出たいわね(棒) 常陸乃ひかる @consan123

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