三国志演義・街亭の戦い~泣いて馬謖を斬る~

@KiriyaSion02

三国志演義・街亭の戦い~泣いて馬謖を斬る~

作者:霧夜シオン


所要時間:約70分


必要演者数:12人(9:0:3)

         (9:1:2)

         (9:2:1)

         (9:3:0)


※これより少なくても一応可能です。時間計測試読の際は7人で兼ね役しました

 。

はじめに:この台本は故・横山光輝氏、及び、吉川英治氏の著作した三国志や各

     種ゲーム等に、作者の想像を加えた台本となっています。その点を許

     容できる方は是非演じてみていただければ幸いです。

     なお、武将名に漢字がない【UNIコード関連に引っかかって打てない】

     場合、遺憾ながらカタカナ表記とさせていただいております。何卒

     ご了承ください<m(__)m>


     なお、上演の際は漢字チェックをしっかりとお願いします。

     

     ある程度はルビを振っていますが、一度振ったルビは同じ、または他

     のキャラのセリフに同じのが登場しても打ってない場合がありますの

     で、注意してください。



●登場人物


馬謖ばしょく・♂:あざな幼常ようじょう。蜀の将。諸葛亮に若年の頃から才略を認められ、愛され

     ている。しかし、己の才を鼻にかけ他人を侮る所があり、蜀の先帝・

     劉備りゅうびは「彼を重要な局面で用うるなかれ。」と遺言する。それは今、

     まさに的中しようとしていた。


諸葛亮しょかつりょう・♂:あざな孔明こうめい。蜀の丞相じょうしょう。先帝・劉備りゅうび三顧さんこの礼をもって迎えた

      不世出の人物。劉備の臨終に際し子の劉禅りゅうぜんを託される。無私尽忠

      の権化で、魏を討って漢王朝再興を目指す。南蛮を平定して後、

      馬謖ばしょくの勧めに従い、司馬懿しばいを離間の計にかけ、魏の政権から遠ざけ

      ると北伐を開始する。


司馬懿しばい・♂:字は仲達ちゅうたつ。司馬の八達の次男。諸葛亮が魏において恐れる唯一の人

      物。離間の計によって官職を剥がれ、郷里に引きこもっていたが、

      再出仕の要請を受ける。魏を裏切り、蜀へ帰参しようとした孟達もうたつ

      を、魏帝ぎてい曹叡そうえいの勅命を待たずに討ち取る。魏の軍権を授けられ、

      一路前線へと急行する。


ちょうコウ・♂:字は雋艾しゅんがい。魏の五将軍の一人。武勇と胆力に優れた猛将で、司馬

      懿が軍権を預けられた際に特に乞い受けた人物。かつて漢中争奪戦

      の際には、蜀の張飛ちょうひと激戦を繰り広げた。


王平おうへい・♂:字は子均しきん。元は魏の将だったが、劉備の漢中侵攻の際に主将の徐晃じょこう

     仲違いし、蜀に降る。以後はその慎重な性格と誠実な人柄で信頼を

     得、功を重ねる。今回の魏侵攻でも馬謖ばしょくの副将として街亭がいていへ赴く。


司馬師しばし・♂:字は子元しげん。司馬懿の長男。父譲りの才略を持つ。官職を剥がれた父

      が国から再出仕を求められる事を予見し、弟と共に軍備を整えてお

      くなど先見の明を持つ人物。


司馬昭しばしょう・♂:字は子上しじょう、司馬懿の次男。兄の司馬師と共に俊才の聞こえが高い。

      父や兄と共に蜀軍の侵攻を阻止するべく従軍する。


魏延ぎえん・♂:字は文長ぶんちょう趙雲ちょううんらと並んで北伐ほくばつにおける蜀軍の武の中核を為す猛

     将。

     反骨の相【謀反人によく見られると言う人相】を持つ為、仕官時に

     諸葛亮しょかつりょうに処刑されかけた所を蜀の先帝・劉備りゅうびに取りなされた過去の

     ある将軍。この為、諸葛亮とはわだかまりのある間柄。


趙雲ちょううん・♂:字は子龍しりゅう。蜀の五虎大将軍ごこだいしょうぐん最後の一人。 

     名実共に現時点での蜀軍の武の要。豪胆かつ知勇に優れ、荊州けいしゅう流浪

     時、劉備りゅうびの子の阿斗あと【後の劉禅りゅうぜん】を抱いて、曹操軍数十万の中をただ

     一騎で駆け抜けて主君劉備の元まで辿り着き、人材収集癖の塊である

     曹操そうそうをして、配下にしたいとまで言わせた人物。

     先帝劉備曰く、「子龍しりゅう一身之肝いっしんこれきもなり。」


しょうエン・♂:字は公エン。諸葛亮に北伐の際の後事を託され、蜀の都、成都せいと

      て、後主・劉禅りゅうぜんを補佐している。


ギョウ・♂:殿軍しんがり趙雲ちょううんに討たれる武将その1。


万政ばんせい・♂:殿軍の趙雲に討たれる武将その2。


蜀部将・♂♀不問:軍隊を根底から支えている名も無き部将その1。蜀軍側。


魏部将・♂♀不問:軍隊を根底から支えている名も無き部将その2。魏軍側。


兵士A・♂♀不問:馬謖のせいで不幸な目に逢う可哀想な兵士その1。


兵士B・♂♀不問:馬謖のせいで不幸な目に逢う可哀想な兵士その2。


兵士C・♂♀不問:馬謖のせいで不幸な目に逢う可哀想な兵士その3。


民・♂♀不問:乱世に翻弄される哀れな民。


ナレーション・♂♀不問:雰囲気を大事に。


※演者数が少ない状態で上演する際は、被らないように兼ね役でお願いします。

 兵士A、B、Cと民は適宜割り振ってください。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



ナレ:諸葛亮しょかつりょう司馬懿しばいの才略を恐れ、馬謖ばしょくの献策を用いて魏国に離間りかんの計を掛け

   た。この為、司馬懿仲達しばいちゅうたつは官職を剥がれ故郷の宛城えんじょう閑居かんきょしていたが、蜀

   の侵攻を受けた魏から再出仕を請われる。

   申耽しんたん申儀しんぎの兄弟が内々に報せてきていた、元・蜀の将の孟達もうたつ謀反むほん

   未然に阻止、これを討ち取ると洛陽らくようへ赴く。魏帝ぎてい曹叡そうえいから改めて軍権を

   預けられ、西平都督せいへいととくとして前線へ向かう途上。


司馬懿:いたずらに敵を讃えるわけではないが、この仲達の見る限り、諸葛亮孔しょかつりょうこう

    めいこそは当代随一の英雄であろう。これを破る事は容易では

    ない・・・。


張コウ:まこと・・・侮りがたき強敵でございますな。


司馬懿:もし自分が諸葛亮しょかつりょうなら・・・この地方は、山は険しく谷も深い。そこに

    十数余じゅうすうよの道が縫うように通っている為、子午谷しごこくから長安ちょうあんへ入る作戦を

    立てるが・・・おそらく諸葛亮はその方針は採るまい。

    何故なら、彼の従来の戦いぶりを見ていると、いかなる場合にも敗北

    しない地を占めて戦っているからだ。


張コウ:ううむ、まるで手のひらを指すかのようなご教示。では我らがこれから

    とるべき方策は?


司馬懿:うむ、まずは曹真そうしん殿の手勢てぜいに一刻も早くビじょうの守りを固めさせるのだ。

    更には箕谷きこくへ伏兵を配置して、諸葛亮がこの地まで出てくるのを防がせ

    る。


司馬師:(英雄、英雄を知るとはこの事か・・・さすがは父上・・・。)


張コウ:して、都督ととく殿はどう動かれますので?


司馬懿:胸の奥深く秘めている事だが・・・泰嶺しんれいの西に街亭がいていという地がある。

    その近くにある城が列柳城れつりゅうじょうだ。

    あの地こそは蜀軍の喉元にもあたる重要な地。ここを奪ってしまえば、

    蜀軍の食糧輸送の道は絶える事になり、総退却せざるを得なくなるだろ

    う。


司馬師:諸葛亮は曹真そうしん殿を甘く見て、まだそこまでは兵を回しておりますまい。

    そこを父上と張コウ将軍で一挙に突く・・・実に愉快ですな。


張コウ:おお、正に深謀遠慮しんぼうえんりょ! それこそ一刀の元に蜀軍の心臓をえぐるような

    ものだ。


司馬師:隴西ろうせいの諸郡も、食糧を絶たればなすすべもないはず。

    父上の神のごとき謀略ぼうりゃく、誰が及びましょうか。


司馬懿:待て待て、はかりごとだけ聞いて喜ぶな。相手はあの諸葛亮しょかつりょうだ。

    孟達もうたつごとき雑魚とは天と地ほどの差がある。決して軽々しく動くな。


張コウ:かしこまりました。


司馬懿:一里進むごとに十里先に物見ものみを出し、十里進めば敵の伏兵に配慮せよ。

    大胆に、細心に、よくよく性根をすえてかかるのだ。


張コウ:仰せまでもございませぬ。


司馬懿:うむ、では出陣の準備を。師よ、曹真そうしん殿へ伝令を出すのだ。ビじょうの守り

    を固め、諸葛亮しょかつりょうの誘いに釣られて動かれぬよう、と!


司馬師:はっ、ただちに!



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



ナレ:祁山一帯きざんいったい山岳広野さんがくこうやを蜀魏天下分け目の地として、まさにその戦いの火蓋ひぶた

   はここに切られようとしていた。

   この地は諸葛亮しょかつりょうがみずから選んだ戦場であり、蜀軍が先に地理的優位を占

   めていた事は言うまでもない。

   諸葛亮は早馬にて新城陥落しんじょうかんらくの報を受けると、すぐに将たちを集めた。


諸葛亮:孟達もうたつの死は惜しむに足らない。だが・・・司馬懿しばいがこれ程早く大軍を率

    いて来たからには、街亭がいていの地が案じられる。既に彼は街亭に目をつけて

    いるであろう。

    あの地こそは我が蜀の喉にもあたる要所。一刻の猶予もない。

    すぐにでも軍を向けてこれを守らせねばならぬ。

    誰を行かせるべきか・・・。


    【少し長めの間】


馬謖:丞相じょうしょう、それがしにお命じ下さい。


諸葛亮:馬謖ばしょくか・・・いや、なんじにはまだ早い。誰か他の者を差し向けよう。


馬謖:いいえ、たとえ司馬懿や張コウが世に並び無き名将であろうと、長年兵法ながねんへいほう

   を学び、丞相じょうしょうに師事して来たのは全てこのような時に役立てんが為! 

   もはや年も三十九だというのに、何の功績も立てていないとあっては、

   世に対して顔向けできませぬ!


諸葛亮:むむ・・・。


馬謖:街亭がいてい一つも守れぬようなら、この魏征伐ぎせいばつにおいて以後、何の役に立ちま

   しょうや。

   丞相じょうしょう、どうかそれがしに行かせて下さい!


ナレ:軍隊において私情は禁物であることは、諸葛亮も十二分に承知している

   はずだった。だが、日頃から馬謖ばしょくの才を愛し、その大成たいせいを心ひそかに楽し

   みにしている彼にとって、ここらで難敵に当たらせて鍛錬を積ませるのも

   悪くはない、そんな考えにふと、心を動かされてしまった。


諸葛亮:・・・・・。


馬謖:丞相じょうしょう、なにとぞ!


諸葛亮:・・・よし、わかった。なんじに命じる。ただし、副将に王平おうへいを連れていく

    のだ。


馬謖:はっ! ありがとうございます、丞相じょうしょう!! 街亭がいていの地、必ずや守り通し

   て見せます!

   もし過ちがあった時はこの身は言うに及ばず、三族さんぞく全て処罰されようと

   も、決してお恨みは致しませぬ!


諸葛亮:陣中に戯言なし、であるぞ・・・司馬懿しばいといい、副将のちょうコウといい、

    決して甘く見てよい相手ではない。

    王平おうへい将軍、其方そなたはこれまでの作戦の中でも非常に慎重であった。

    それゆえ、副将として馬謖ばしょくを補佐する重き任を託す。布陣を終えたら

    図面にして送って参れ。


王平:ははっ! 承知いたしました。


諸葛亮:よいか。街亭がいていに着いたら街道に砦を構え、細い山道を抑えるのだ。

    さすれば魏軍がいかに大軍で押し寄せようとも落とされることはない。


馬謖:街道筋でございますな、しかと胸に刻みました。


諸葛亮:もし街亭がいていを守り通すことができたなら、長安ちょうあん攻略において第一の功績

    であるぞ。心してかかるのだ。


馬謖・王平:ははっ!!


諸葛亮:魏延ぎえん将軍、そなたにも街亭がいていへの後詰ごづめを命じる。


魏延:なんですと、それがしに街亭がいていに行けと!?


諸葛亮:うむ、街亭がいていの背後に駐屯し、魏軍来襲の折には応戦せよ。


魏延:それがしは既に先陣の大将を承った身! 先駆けし、敵を進んで破れと

   あらば死をも恐れませぬ。何故なにゆえそのような暇な所に行けと仰せられます

   か!?


諸葛亮:真っ先に進んで敵を破るは部将の役目。将軍に街亭がいてい後詰ごづめをせよと命じ

    たのは、かの地は陽平関ようへいかんに通じる重要な道であり、万一ここを敵に抑え

    られると我が軍の息の根が止まる。決して軽く考えてはならぬ。


魏延:! なるほど、言われてみれば確かにその通りでございました。

   喜んで向かいます。 


諸葛亮:頼んだぞ。なお、高翔こうしょう街亭がいていより五十里ほど先にある列柳城れつりゅうじょうへ、

    兵一万を率いて駐屯せよ。馬謖ばしょくらが苦戦の際はただちに救援するように

    。


ナレ:勇んで二万五千の精兵を引き連れ、馬謖ばしょく王平おうへい街亭がいていへと急行する。

   だが、諸葛亮しょかつりょうはなお安心しきれずに、魏延ぎえん高翔こうしょうにも兵を与えて街亭の

   後詰ごづめを命じた。

   彼が胸のうちに抱いた一抹の不安・・・それは、不幸にも的中しようと

   していた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



馬謖:ここが街亭がいていか・・・ふむ、どれ程の地形か・・・。


ナレ:秦嶺しんれいの西、街亭がいてい馬謖ばしょく王平おうへいは魏軍に先んじて到着すると、地形を見て

   回っていた。その途上。


馬謖:・・・ふっ、はっはっはっはっは!!!


王平:? 馬謖殿、どうなされた?


馬謖:ふっ、丞相じょうしょうも少し心配が過ぎる。山といってもたいした高さでもない

   し、人がかろうじて通れる程度の細道が幾つかあるにすぎない。

   こんな所に魏が大軍を差し向けるわけが無い。

   ――よし、この上は山頂に陣を構え、魏軍が来襲の折は一息に逆落さかおとしで

   殲滅してくれる。


王平:な・・・馬謖殿! 丞相じょうしょうは街道沿いに布陣し、細い山の道筋を固めよと

   仰せられた。

   もし山頂に陣取って魏軍に麓を取り巻かれたらどうされるおつもりか!


馬謖:ふん、貴公の考えはまるで婦女子のごとき軟弱なものだな。


王平:ッ!! 聞き捨てなりませぬな!

   一体それがしの考えのどこが婦女子と言われますか!


馬謖:知らぬのか? 兵法にもある。「高キニ拠リテ低キヲ視レバ、勢イ既ニ

   破竹」とな!

   (※たかきによりて ひくきをみれば、いきおい すでに はちく)

   それに魏延ぎえん将軍が街亭の背後に、高翔こうしょう将軍が列柳れつりゅう城へ向かっている。

   一体何を恐れる必要があるというのだ?


王平:それほどまでに丞相じょうしょうはこの地を重要だとお考えになられている証拠!

   ここは我らが忠実に命令を遂行するべきと存じます。


蜀部将:申し上げます! 魏軍の先鋒せんぽう隊、既に接近しつつある模様です!


馬謖:来たか! この街亭へ至るまであと幾日もあるまい。


王平:むうっ、もはや一刻の猶予も無い・・・馬謖殿、それがしは手兵てへい五千を

   もって街道沿いに布陣致します!


馬謖:ええい、私の命令に従えぬというのだな! もし私が逆落さかおとしに

   魏軍を蹴散らしたとしても、貴公の功とは認めぬぞ!


王平:ッ・・・承知、しております・・・!


馬謖:我らは山頂へ向かうぞ! 急げ!

   魏軍がやってくる前に布陣を終わらねばならぬ!!


王平:我が隊は街道沿いに陣を構える! 行くぞ!


ナレ:こうして二人は意見をたがえたまま、馬謖ばしょくは街亭山山頂へ、王平おうへいは街

   道沿いにそれぞれ布陣し、魏軍を待ち受けることとなった。馬謖はふもとの陣

   を眺めて歯噛みし、王平は不安に駆られて山頂の陣を見上げていた。


馬謖:王平め・・・大将たる私の命令に従わぬとは・・・、この上は魏軍を蹴散

   らして凱旋したのち、丞相じょうしょうの前で奴めを軍法ぐんぽうにそむいた罪にきっと問わ

   ねばならん・・・!


王平:馬謖ばしょく殿は功を焦っている・・・。

   彼の考えを変えさせるのは、丞相御自じょうしょうおんみずからの言葉でなくてはなるまい・・

   ・よし、できた。我らの布陣図を丞相じょうしょうへ急ぎ届け、直接お指図を仰ぐの

   だ・・・間に合えばよいが。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



ナレ:数日の後。魏軍の先鋒に先立って司馬懿の次男、司馬昭は父の命を受けて

   街亭の様子を偵察に来ていた。


司馬昭:なに? 既に蜀軍が布陣していると? ぬうう、父上の作戦の上を行く

    か、諸葛亮め・・・。


魏部将:はっ! 街道沿いに見える旗は王平、街亭山頂に見えるのは馬謖のもの

    らしく見えました!


司馬昭:そうか、街道と山頂・・・、む? 山頂? 今、そう申したか?


魏部将:はっ、蜀軍はどうやら二手ふたてに分かれており、主力が山頂に、街道沿いに

    布陣している方はそれに比べれば少数、五千ほどかと思われます。


司馬昭:ふ、ふふ・・・そうか、これは父上に良い報告ができそうだ・・・、

    よし、先鋒せんぽうちょうコウ将軍へ伝令! 進軍を一時停止し、父上からの次の

    命令を待つように、と!


魏部将:はっ! 承知しました!


司馬昭:我らも一度父上のもとまで引き返し、現状を報告する。撤退!



ナレ:司馬昭しばしょうは急いで父、司馬懿しばいの率いる本隊へ合流すると、すぐにその前へ

   報告に出た。


司馬懿:おお昭、ご苦労だった。して、蜀軍はまだ来ておるまいな?


司馬昭:いえ、既に蜀の防衛部隊が陣を張っておりました。


司馬懿:なに!?

    く・・・さすがは諸葛亮、既に手を打っていたとは・・・神眼、神速、

    まさに神算鬼謀しんさんきぼう、とても及ぶところではない・・・!


司馬昭:父上、さほど悲観なさるには及びません。

    私の見たところ、街亭がいていはたやすく奪えましょう。


司馬懿:昭よ、あまり大きな事を言って皆を惑わすな。

    既に街亭がいていに守備隊が来ている以上、容易には攻め落とせまい。


司馬昭:ところが父上、蜀軍は街道沿いの守りを捨てて街亭山頂に陣取っていま

    す。街道にはわずかに五千程度の兵しかおりませぬ。


司馬懿:なにい!? 道筋を抑えておらんだと!?

    それではまるで奪ってくれと言わんばかりではないか!

    ・・・信じられぬ・・・。よし、この目で確かめてみよう。

    

    【間】

   

    ふむ、あの細い山道に砦を築いて軍を置けば、いかな大軍といえど通れ

    ぬものを・・・。


司馬昭:父上、あれが敵陣でございます。


司馬懿:なに、あれか? !これはなんとした事だ。ふははははは!!

    笑うべし笑うべし、蜀軍は自ら破滅の地に陣取って敗北を待っておる

    わ!


司馬昭:更に蜀にとって致命的なことに・・・あれをご覧下さい。


司馬懿:ん? あれは・・・蜀兵か。手に持っているのは皮袋だな。

    !! そうか、ふははは、そうかそうか、山頂にはあれが無いようだ

    な!

    して、守備隊の蜀の将は誰か?


司馬昭:馬謖とのことです。諸葛亮の愛弟子だそうですな。


司馬懿:ほう、馬謖か。

    多少知恵が回るとは聞いていたが、大将の器ではないな。

    賢者にも千慮の一失というのはあるが、諸葛亮しょかつりょうほどの者が人の用い方を

    誤る事もあるか。よし、対策は立った。引き上げるぞ。


    【間】


張コウ:都督ととく、お呼びですか? ちょうコウ、召しに応じて参じました。


司馬懿:うむ、揃ったか。

    諸将よ、先ほど街亭がいていの敵陣を探ってきたが・・・山頂に陣取っている蜀

    の大将は、この上も無い愚か者であったわ。

    これは我が魏にとっては限りなく喜ばしき事だ。易々と打ち破れよう。

    ちょうコウ将軍はふもとの蜀軍が動いたら一斉に攻めかかれ。山上の本隊を

    救援させてはならぬ。


張コウ:ははっ! お任せくだされ。 王平おうへいごとき、物の数ではありませぬ!


司馬懿:申耽しんたん申儀しんぎは我と共に、街亭山頂の蜀軍の命綱を断ち切るのだ。

    そう・・・水をな!

    食わずとも数日は持ちこたえられるが、水が無くば死、あるのみ

    よ・・・。

    では諸将よ、行動に移れ!


司馬懿役以外魏側役全員:はっ!!



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



ナレ:魏軍はただちに蜀軍を包囲すべく動きだした。申耽しんたん申儀しんぎは蜀軍の水汲み

   場を、ちょうコウは王平おうへいが山頂の馬謖ばしょくを救援するのを阻止すべく布陣、司馬懿しばい

   の本隊は街亭山麓を幾重いくえにも取り囲んでしまった。ときの声とかね、太鼓は

   空気を震わせ、大地に響かせた。


蜀部将:申し上げます! 街亭山の麓、全て魏軍に取り囲まれています!!


馬謖:ふん、来たな魏軍。目にもの見せてくれるわ! 紅の旗が動いたら一斉に

   掛かり、登ってくる魏兵を皆殺しにするのだ!


蜀部将:ははっ! 出陣の合図を!!


ナレ:馬謖は自ら有利の地形を占めていると思い込み、必勝の意気は天を

   つくものがあったが、魏軍はときの声ばかり上げて、山上へは攻め上って

   こなかった。


馬謖:怯んだと見えるわ、この上は我が方から逆落さかおとしに攻め下って皆殺しにし

   てくれる! かかれ!!


司馬懿・馬謖役以外全員:【喚声を上げる】


司馬懿:ふっ・・・来たか、愚か者め。固く守り損害を抑えよ! 敵は既に自ら

    破滅の地へ身を置いているものだ! こちらから攻めのぼる必要などない

    わ!

    矢の雨を浴びせよ!!


司馬師:弓兵ゆみへい隊、構えぇッ!! 


司馬懿:よし、十分に引き付けて放てぃ!


司馬昭:射よ! 射よッ!! 蜀軍を残らず射倒いたおすのだ!!


ナレ:馬謖は功にはやりきっていた。山の小道こみちから逆落さかおとしに駆け下り、矢の雨

   をかいくぐって魏将二人を討ち取った。

   だが、蜀軍は序戦において勝ったものの、山上へ戻る頃には体力を使い

   果たし、魏軍の追撃に討たれるその数はおびただしかった。

   それでも馬謖ばしょくは目の前の勝負にとらわれ、大言壮語たいげんそうごを吐いていた。


馬謖:はっはっは! どうだ魏軍め、初戦に将二人の首をあげたわ!

   戦は勝っているぞ!!

   明日も山を駆け下って魏軍を散々に打ちのめしてくれるわ!


ナレ:だが、魏軍は山麓包囲と同時に蜀軍の水汲み場も抑えてしまった為、

   たちまちその日から水に苦しむこととなった。


蜀部将:申し上げます。将軍、水の貯えがもはやありませぬ。


馬謖:水だと? ならば汲みに行けば良いではないか。


蜀部将:それが・・・どうやら魏軍に包囲された際に、水汲み場も奪われて

    しまったようです。


馬謖:なにい、水を絶たれたというのか!? ふ、ふん、狼狽うろたえるな!

   こんな時の為に丞相は、街亭がいていの背後に魏延ぎえん将軍を、列柳れつりゅう城には高翔こうしょう将軍

   を入れているのだ! それより、何としても水汲み場を奪回するのだ!! 

   夜には決死隊をつのって水を汲みに行かせよ!!


蜀部将:はっ!(あの時、王平おうへい将軍の言葉に従っていれば・・・我々はこんな思

    いをせずとも済んだのでは・・・?)


ナレ:馬謖ばしょくは愕然と気づいたが、時すでに遅かった。以来、幾度となく水汲み場

   を奪い返そうとするが、その度に無惨なまでの損害をこうむった。


馬謖:くっ・・・おのれ、こんなはずでは・・・!


ナレ:水が無い為、食糧を煮炊きする事も出来ず、生のままか焼いて食べざるを

   得ない。

   また、こんな時に限って空も意地悪く、待てど暮らせど一滴の雨も降らな

   かった。


馬謖:ぬうう、雨はまだか! まだ降らんのか・・・!!


ナレ:更には決死隊を何度もつのり、夜の闇に紛れて水を汲みに行かせたが、

   それらは誰一人として戻らなかった。水汲み場で待ち構えていた魏軍に

   捕らえられ、蜀兵達は皆、降伏してしまっていたのだ。


蜀部将:将軍、このままでは兵達の士気は下がるばかりです。

    なにとぞ、励ましのお言葉を・・・。


馬謖:ええい、わかっている・・・!

  

   【短い間】

  

   聞け、皆の者! もうすぐ魏延ぎえん将軍や列柳れつりゅう城からの援軍が来る。それまで

   耐えるのだ!!


兵士A:(ふざけるな! お前が素直に丞相じょうしょう閣下の命令通りにしてりゃ、こん

    な事にはなってねえんだよ! この無能!)


兵士B:(来る来るって、いつ援軍が来るんだよ!水が無いせいでどんだけ仲間

    が死んだと思ってやがる!! もう喉の渇きが限界だ!!)


兵士C:(もう駄目だ。こんな奴に従っているよりは、いっそのこと魏

    に・・・)


ナレ:馬謖ばしょくのこの激励も、既に戦意を喪失していた兵達にとっては何の役にも

   立たなかった。その日の夜、ついに全軍の約半数が密かに山を下り、

   魏軍に降伏してしまったのだ。


蜀部将:将軍! 一大事でございます!!

    

    【息切れ】


    ・・・っ、兵の約半数が・・・逃げ出しました・・・!


馬謖:なんだと!!? ・・・くっ、やむを得ぬが援軍は待っておれん。

   明日にでも山を下り、敵軍の手薄な部分を突破し、列柳れつりゅう城へ向かうのだ!


蜀部将:はっ・・・。(我が身の武運も、これまでか・・・。)


ナレ:その頃、ふもとの魏軍本陣では蜀兵達の降伏を受け容れた後、司馬懿が諸将を

   集めてそれぞれ作戦を授けていた。


司馬昭:父上、これほどの数の蜀兵が降ってきたという事は、山頂の蜀軍の渇き

    がついに限界に達したという事ですな。


司馬懿:うむ、馬謖ばしょくがこのまま踏み止まろうとしても、明日には更に残った兵達

    の半数が降伏してくる。その程度の事は馬謖も計算できるであろう。


司馬師:では、今日か明日には必ず山を下りて、我が軍の包囲を突破しようと

    するに違いありまぬな。


張コウ:突破を許して魏延ぎえん高翔こうしょうらの援軍と合流させるのは防がねばな・・・。


司馬懿:まず、包囲網の西南の方角をわざと一か所、手薄にしておくのだ。

    馬謖ばしょくめは必ずそこを突破しようとするだろう。

    ある程度通らせ、蜀軍が山を下りきったら一斉に包囲し、徹底的に殲滅

    するのだ。


張コウ:それがしは引き続き、王平おうへいらが馬謖ばしょくを救援できないようにすれば良いの

    ですな?


司馬懿:いかにも。救援を成功させてしまったのでは獲物は少ない。師は高翔こうしょう

    通る道筋に兵を伏せて、これにあたれ。


司馬師:はっ、お任せください、父上。


司馬懿:昭は魏延ぎえんが街亭山に近づいたら伏兵をもって襲いかかるのだ。


司馬昭:心得ました。必ずや蜀軍に目にものを見せてやります。


司馬懿:魏延ぎえん高翔こうしょうらが街亭がいていに救援に駆け付けるという事は、列柳れつりゅう城は空き家

    同然であろう。守備の兵も大して残ってはいまい。

    一部の兵を回して城を奪うのだ。


ナレ:魏の将達は作戦を行動に移すべく、各々の隊へと戻っていった。

   いっぽう馬謖ばしょくは、街亭山頂から魏の陣を見下ろしていた。


蜀部将:将軍、西南の方角の魏軍が幾分手薄なように思われますが。


馬謖:よし! 皆、一気に駆け下りて列柳城を目指せ!


   【短めの間】


魏部将:都督、蜀軍が山を下り始めました!


司馬懿:うむ、適当に通せ。網の中に入ったら、合図と共に一斉に襲い掛かるの

    だ。


    【短めの間】


    ・・・・・うむ、頃合いだな、掛かれッ!!


魏部将:はっ!! 合図を!!


馬謖:!!ぬうう、おのれ! 伏兵とは・・・誘き寄せられたか!!

   逃れられぬ所、もはやこれまで・・・!


ナレ:この十数日、水を断つ計略にあって半病人も同然の馬謖の兵は、

   魏軍にとって手頃な餌食となってしまう。更に魏軍は山に火を放ち、

   その燃える様は他の蜀軍の陣からも臨まれた。

   蜀の将軍達は直ちに援軍に向かおうとしたが、既にその道のすべてには、

   司馬懿の伏兵が待ち構えていた。


蜀部将:王平おうへい将軍! 街亭山に火の手が!!


王平:(くっ・・・結局、丞相じょうしょうからの使者は間に合わず、馬謖殿に布陣を変え

   させる事もできなかったか・・・)いかん! すぐに本隊を救援に向かう

   のだ!


張コウ:待ちかねたぞ王平おうへいよ! 魏の張儁乂ちょうしゅんがい、これにあり!

    ここを通りたくば、その首を置いていけィ!!


王平:むむむ、既に伏兵が・・・!


張コウ:それッ、蜀軍を皆殺しにせよ! 王平おうへい、そこを動くなッ!!


蜀部将:将軍、このままでは三方から囲まれます!!


王平:くっ・・・この少ない兵では本隊の所までは進めぬ! 一旦引き返し、

   陣を守り固めよ!!


張コウ:待てィ! 逃げるか王平!! 返せッッ!!

    者ども、掛かれッ、掛かれェェェッッ!!!


   【短めの間】


蜀部将:魏延ぎえん将軍!! 馬謖ばしょく将軍の軍が包囲されているとのことです!


魏延:ちっ、青二才め・・・大口を叩いておきながら、結局このざまか! 

   まあいい、すぐに馬謖ばしょくを助けるのだ!! 列柳れつりゅう城の高翔こうしょうにも伝令を

   出せ!

   我に続けィ!!


司馬昭・魏延役以外全員:【喚声】


魏部将:司馬昭しばしょう様、蜀軍です!!


司馬昭:ふふふ、魏延ぎえんめ、やはりこの道を来たか! よし、かかれ!!


魏延:なにい、左から敵が! 伏兵か!! おのれ、突破するのだ!!


司馬昭:今だ、合図を送れッ! 


蜀部将:ッ将軍! 右からも魏軍が!!


魏延:ぬうっ、蹴散らしてくれるわ!! おおおおおッ!!!!


司馬昭:ははは、猪武者いのししむしゃめ! それッ、魏の将兵達よ、引ッ包(ひっつつ)んで

    殲滅するのだ!!



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



ナレ:魏延ぎえん軍の決死の働きにより、馬謖ばしょく軍はかろうじて全滅を免れた。

   更には列柳れつりゅう城から高翔こうしょうが駆け付け、ここに蜀魏入り乱れての大混戦とな

   る。

   激戦は三日三晩続き、蜀軍のどの部隊も傷を負っていない者はないという

   有様であった。そして四日目・・・。


魏延:王平おうへいよ、なんじの隊はどうだ。


王平:はっ、ほとんどの兵が負傷しています。


魏延:そうか、我が隊も大分戦死した。無傷の者などおるまい。


王平:魏延ぎえん将軍、今の我々の兵力ではこの大軍を打ち破るのは容易ではないと

   思われますが・・・。


魏延:うむ、確かに・・・このままでは我らは幾重いくえにも包囲され、いずれ全滅

   の憂き目に逢うだろう。


王平:ここは列柳れつりゅう城へ退いて、善後策を講じてはいかがでしょうか。


魏延:わしもそれを考えていた。我らの役目は魏軍を打ち破ることではない。

   食糧補給路を守ることだ。今この街亭がいていを完全に敵の手に委ねれば、

   我が軍は命綱を断たれることになる。

   ・・・よし、列柳れつりゅう城に立て籠もって守ろう。


王平:はっ、では夜明けと共に引き上げましょう。


ナレ:翌朝、魏延ぎえんらは兵をまとめて列柳れつりゅう城へと向かった。

   だがその途上、意外な敵と遭遇した。司馬懿しばい一人の功になるのを妬み、

   列柳れつりゅう城を奪うべく魏軍大都督ぎぐんだいととく曹真そうしんつかわした、副都督ふくととく郭淮かくわいあざな

   伯斉はくせいである。


魏延:ぬうう、この新手に傷ついた軍で戦いを挑むのは、自殺も同じだ。

   無念だが、陽平関ようへいかんへ入ってそこを守るしかあるまい。


王平:そうですな・・・急いで道を変えましょう。


ナレ:一方、既に列柳れつりゅう城を奪い本陣をそこへ置いていた司馬懿しばいは、やって来た

   郭淮かくわいと面会すると、彼に諸葛亮しょかつりょう退却の際の追撃を命じ、ちょうコウを

   呼んだ。


司馬懿:ちょうコウ将軍、街亭がいていは無事我らの手に落ちた。これで蜀軍も退却せざるを

    得まい。


張コウ:では、次は魏延ぎえんらがこもる陽平関ようへいかん攻めですな。負傷兵も多い事ゆえ、

    さして落とすのに力は要しますまい。


司馬懿:否、それはならぬ。陽平関ようへいかん迂闊うかつに進んで攻めると、先の敗北を挽回ばんかい

    せんと諸葛亮しょかつりょうは我らの背後へ回るだろう。そうなれば勝敗がくつがえる恐れ

    がでてくる。

    兵法にも「帰ル師ヲ掩ウ事勿レ。窮マル寇ヲ追ウ勿レ。」と厳しく

    戒めている。

    (※かえるいくさを おおうことなかれ。 きわまるあだを おうな

    かれ。)


張コウ:恐れ入りました。確かにおっしゃるとおりですな。

    ならば、いかがなされますか?


司馬懿:うむ、そこでだ。我らはかえって蜀軍の背後に回り、西城せいじょうを奪おうと

    思う。田舎の小城こじろながら、あそこも蜀軍の食糧庫だ。

    これを手に入れてしまえば、遠征の蜀軍は確実に漢中へ退却せざるを得

    なくなる。我が軍が多くの犠牲を払う必要も無い。


司馬師:西城せいじょう南安なんあん安定あんてい天水てんすい三郡さんぐんに通じる交通の要所でもあります。

    かの城を奪れば、三郡さんぐんは再び我らの手に返りましょう。


張コウ:心得ました。では早速に。


    【短い間】


    我らは西城せいじょうへ向かうぞ、出陣の準備をせよ!!


司馬昭:(勝てば勝つほど、父上の兵法は堅実を加えていく・・・。)


司馬懿:申耽しんたん申儀しんぎなんじらはこの列柳れつりゅう城を守れ。師、昭は我に従って斜谷やこくから

    西城せいじょうへ向かう。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



ナレ:諸葛亮しょかつりょうが敷いた万全の布陣。だがそれは魏軍を、司馬懿しばいを甘く見た馬謖ばしょく

   一人の為に、もろくも崩れ去った。一方、それより少し前、蜀軍本陣に

   て。


蜀部将:申し上げます!

    街亭の王平おうへい将軍より、布陣図が届きましてございます!


諸葛亮:うむ、これへ。


    【短めの間】


    うっ、これは!!? 馬謖ばしょくの馬鹿者めッ!!!

    あれほど言い含めたのに・・・この布陣では、敵が山麓を包囲して水を

    断てばそれまでではないか! なんたる愚か者だ・・・いくら若いにせ

    よ、こうまで浅慮者あさはかものとは思わなんだ。 

    急ぎ布陣を変えさせねば・・・! だが、敵は司馬懿仲達しばいちゅうたつ、恐らく

    は・・・・・


蜀部将:【↑の語尾に被せるようにして】申し上げます!! 街亭がいてい列柳れつりゅう

    が・・・落ちました・・・!!


諸葛亮:!!!ッ・・・やはり・・・落とされたか・・・! ああ、我が過ち

    だった! 大事は去った! 長安ちょうあんを落とし、洛陽らくように攻め入る事など、

    夢となった・・・。

    かくなる上は、魏の追撃の手をおさえて撤退せねばならぬ。


    【短めの間】


    関興かんこう張苞ちょうほうは各々三千騎を率いて武功山ぶこうさんへ行き、魏軍を見たら太鼓を

    轟かせ、ときの声をあげよ。敵は逃げ走るが、追うな。捨て去るであろう

    軍需物資ぐんじゅぶっしを収めて陽平関ようへいかんへ入れ。

    張翼ちょうよく剣閣山けんかくざんの道を修理せよ。

    姜維きょうい馬岱ばたい後詰ごづめとなって谷間に潜み、逃げてきた味方は保護し、敵が

    来たらば防げ。頃合を見計らって、陽平関ようへいかんへ入れ。

    馬忠ばちゅう曹真そうしんの軍を攻め立てよ。敵はその勢いを恐れ、思い切った行動

    には出まい。

    ・・・余は、これより漢中かんちゅうへ帰らん。

    兵五千を率いて西城せいじょうに向かい、南安なんあん安定あんてい天水三郡てんすいさんぐんの民達を漢中に

    逃がし、あわせて食料も輸送させる。急ぐのだ!


諸葛亮役以外全員:ははっ!!


ナレ:諸葛亮しょかつりょうは退却への万全の手配を整えると西城せいじょうへ向かい、食料を急いで

   輸送させていた。その矢先。


兵士A:も、申し上げます!! 魏軍が・・・司馬懿しばいが十五万の大軍を率いて

    この西城せいじょうへ迫っております!!


蜀部将:な、何!? 既に兵の半数は食糧輸送の為に漢中かんちゅうへ向かってしまって

    いるぞ・・・!


諸葛亮:!!!・・・うろたえるな!


    【短い間】


    むうう、さすがは魏、さすがは司馬懿しばい。寄せも寄せたり。敵ながら見事

    よ・・・。

    四方の門を開け放て。門の入口には水を打って掃き清めよ。

    将達は己の持ち場を守り、立ち騒ぐ者や声を出す者はその場で斬れ。

    部署ごとに旗の下を動くな。

    門を守る兵達は、敵兵がたとえ近づいてきても居眠るかのように長閑のどか

    にしているのだ。・・・琴を持て。


ナレ:配下への命を伝えると、諸葛亮しょかつりょうは衣服を変えて童子二人を連れ、

   やぐらの一番上へと登った。

   そして香を焚き、琴を据えると弾き始めた。


魏部将:申し上げます! 西城せいじょうの四方の門は開け放たれて清められ、敵将諸葛亮

    はやぐらにて琴を弾いております! 


司馬懿:な、なにっ? そのような事、信じられぬ・・・!

    ・・・よし、この目で確かめよう。


    【短い間】


    おお・・・あれはまさしく、諸葛亮しょかつりょう・・・!


ナレ:琴のは風に乗り、地上へとこぼれてくる。全ての門は開け放たれて、

   いざ、通られよとばかりに八文字に開かれている。司馬懿しばいは何故とも

   なしに背筋に寒気を覚えると、やにわに味方へ向けて叫んだ。


司馬懿:退けっ、退けっ!! 退くのだ!!


司馬師:ッ父上、何故退けと仰せられますか!? あれは敵の計略に違いありま

    せぬ!


司馬懿:これは諸葛亮しょかつりょうの罠だ。彼奴きゃつめ、我を誘き入れんとする策に違いあるま

    い。


司馬昭:しかし、多少の策などこの大軍の前には通じますまい。


司馬懿:かつて諸葛亮しょかつりょうは、荊州けいしゅう新野しんや城でわざと城を空にして曹仁そうじん様をおびき寄

    せ、城ごと火計で焼き払ったことがある。

    また、先の西羌せいきょうとの戦いでは、敵の鉄車てっしゃ隊を空の陣に誘い込み、落とし

    穴をもって打ち破っている。

    諸葛亮しょかつりょうは用心深く、危険な真似はせぬ男だ。あの有様は我を怒らせ、

    城内に誘き寄せて殲滅せんとする罠に違いあるまい。ここは退くのだ!


ナレ:司馬懿しばいの命を受け、魏軍は馬首ばしゅを返して続々と退いていく。諸葛亮しょかつりょうはこれ

   を見て、手を打って笑った。


諸葛亮:司馬懿しばいほどの者も、自分の知恵には負けたか。もし、十五万の兵がこの

    小城こじろに入ってきたら、一張りの琴の力など、何の役にも立たなかったろ

    う。

    

蜀部将:し、しかし、司馬懿しばいは人も知る魏の名将。なぜ急に退いたのでしょう

    か?


諸葛亮:司馬懿しばいは余が用心深く、危険な策を用いないと思っている。それを逆に

    利用したのだ。

    こちらはわずかに二千五百、城を捨てて逃げたとしてもすぐに追いつか

    れ、今頃は捕らわれていたろう。それゆえ、やむなく用いた計略だ。


蜀部将:恐れ入りました。我らなら真っ先に城を捨てて逃げ出していたでしょ

    う。


諸葛亮:彼は今頃、ここを退いた後は武功山ぶこうさんに向かっているだろう

    から、あの地に伏せておいた関興かんこう張苞ちょうほうに襲われて痛い目に逢っている

    に違いない。これで退却に必要な時を十分稼げる。

    すぐに撤退するのだ!


ナレ:諸葛亮しょかつりょうの予見通り、退却した司馬懿しばい関興かんこうらに襲撃され逃げ走った。

   また、祁山きざんにあった曹真そうしんも、蜀軍の退却を知るや追撃しようと行動を

   起こしたが、馬岱ばたい姜維きょういにしたたか不意をうたれ、大将・陳造を失った。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



ナレ:蜀の国境において最も険しい道、箕谷きこく

   蜀の趙雲ちょううんとトウ殿軍しんがりを果たすべく、他の味方がすべて漢中かんちゅうに引き上

   げたのを諸葛亮しょかつりょうからの伝令で確認すると、おもむろに退却の準備にかか

   った。


趙雲:トウよ、味方は全て無事に漢中かんちゅうに向かったようだ。我らも退くぞ。

   まず、我が旗を立ててお主が先に退け。勝ちいくさの軍は勢いに乗るゆえ、

   一泡吹かせておかなければしつこく追ってくる。


ナレ:トウは、言われるままに趙雲ちょううんの旗を立てて先発した。趙雲ちょううん退却の報は

   すぐさま魏軍副都督ぎぐんふくととく郭淮かくとくの知る所となり、彼は猛然と追撃を開始。

   まず先陣にギョウが軽騎兵けいきへい三千を率いて追いすがってきた。


趙雲:ふふふ、さっそく現れおったな。


   【短い間】


   常山じょうざん趙子龍ちょうしりゅう、これにあり!! そこへ

   来た者は何奴なにやつか!!


蘇ギョウ:な、何っ! 趙雲ちょううんだと!? すると先に退いたのはおとりか!!


趙雲:それっ、一気に片付けろ!! 九泉きゅうせんへの土産に趙雲ちょううんの武者ぶりを目に

   焼き付けていけィ!!


蘇ギョウ:お、おのれっ、くっ、ぬぐっ、ぬうううっ!!


趙雲:ふん、そんな腕でわしを討てるとでも思ったのか! それっ!!!


蘇ギョウ:ぐっ、ぐあああ!!!


趙雲:口ほどにもない奴よ・・・退くぞ。


ナレ:ギョウは部下を励ましつつ趙雲ちょううんと渡り合ったが、ついに討たれてしまっ

   た。何事もなかったかのように静かに後退を続ける趙雲に、今度は万政ばんせい

   いう魏の将が、先の兵力を超える軍を率いて迫ってきた。


趙雲:また来たか。お前たちは先に退け。ここは大軍が一度には通れぬ絶好の

   足場だ。わし一人で十分ゆえ、三十里ほど先の峰で待っておれ。行けい!


蜀部将:はっ。将軍・・・どうかご無事で。


万政:ぬうう、趙雲ちょううんめ、あのような所に・・・しかも一人だと? 侮りおっ

   て・・・! 者ども、かかれぇ!


趙雲:さあ、この趙子龍ちょうしりゅうが相手をしてやる!

   九泉きゅうせんへ旅立つ覚悟のできた者からかかって来いッ!!


ナレ:道の左右は絶壁がそそり立ち、その上、趙雲ちょううんが細く狭い道を塞ぐようにし

   て立っている為、大軍もまるで役に立たなかった。

   討ち取ろうと駆け上がり当たる者、皆、趙雲ちょううんの槍を血に染めて倒れてい

   く。

   やがて魏の兵たちはひるみ、辺りは日が暮れかけた。


趙雲:なんだ、もう来ぬのか。張り合いの無い奴らよ。

   ならば引き上げさせてもらうぞ。


万政:うっ、趙雲ちょううんが動いたぞ! それっ、後を追えっ!


   【短い間】


   ええい、どこへ行った!

   まだ遠くまでは行っておらんはずだ!

   追え、追うのだ! 逃がすな!!


趙雲:【↑の語尾に被せて】

   わずらわしい魏のハエ共め! それほど死に急ぎたいか!!


万政:な、なに!? いつの間に!!? うっ、うわああああああ!?


趙雲:ふん、うろたえたあまり谷へ落ちたか。

   ・・・そこまで命を取りに行くのは面倒ゆえ、生きて陣に戻れたら郭淮かくわい

   伝えィ! いつかきっとまた会うぞ、とな!!


ナレ:趙雲ちょううんはついに味方を一兵も失うことなく、悠々と漢中かんちゅうへ引き上げた。

   一方、曹真そうしん郭淮かくわいは追撃を断念すると、蜀軍の捨てた南安なんあん安定あんてい天水てんすい

   三郡さんぐんを取り返して自分たちの手柄とした。

   司馬懿しばいは蜀軍全てが漢中へ引き上げた後、あらためて西城せにじょうへ軍を移し、

   蜀軍に付いて行かなかった民たちを呼び集めて訓戒を与えていた。


司馬懿:敵を慕って漢中へ移っていった民達は我が魏の仁徳を知らぬのだ。

    民あっての国だ。それは蜀でも魏でも変わらぬゆえ、お前達は先祖伝来

    の地を動かず家業に精を出すがよい。

    ・・・ところで、なんじらに聞きたいのだが、先に我らがこの城に迫った

    時、蜀軍はどれほどいて、城内に何か仕掛けがあったか?


民:へえ、あの時、城には二千あまりの兵しかおりませなんだ。


司馬懿:ッ!! ・・・では、武功山ぶこうざんにはどれ程の兵力がおった?


民:あれは関興かんこう様達がそれぞれ三千ほどの兵を率いていただけで、戦う気は無

   かったようでごぜえます。

   わしらは都督ととく様がなぜあの時引き上げられたのか、

   不思議に思っておりました。


司馬懿:そうか・・・、いや、よくわかった。

    こちらにも色々と事情があったのでな。

    なんじらは今まで通り暮らすが良い。家族にも安心するよう伝えよ。


民:へえ、ありがとうごぜえますだ。


司馬懿:・・・皆も下がってくれ。


   【短い間】


   空城くうじょうの計・・・・そうか・・・そうであったか・・・。

   此度こたびいくさは勝った。しかし我が知略、ついに諸葛亮しょかつりょうに及ばずであっ

   た・・・!



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



ナレ:その後、司馬懿しばいは洛陽へ戻り、魏帝ぎてい曹叡そうえいに拝謁。戦果を報告し、各所の

   要害の守りを固めた。

   一方、諸葛亮しょかつりょう漢中かんちゅうへ退いた後、かつてない程の敗戦の後始末を整えて

   いた。

   そこへ趙雲ちょううん、トウ殿軍しんがり部隊が帰還したとの報が入り、彼は自ら出迎

   えてその労をねぎらった。


趙雲:丞相じょうしょう、ただいま戻りました。


諸葛亮:おお、趙雲ちょううん将軍! よくぞ無事に戻られた。 聞けば将軍はトウ

    先に進ませ、自分は後に残って常に敵に当たり、これを退けてきたそう

    な。

    将軍のごとき人こそ、真の大将軍というものであろう。その労にむくい

    て、将軍に黄金と絹を賞として贈ろう。


趙雲:いや、お待ちくだされ。

   皆がこうして引き上げてきたからには、誰にも功績はありませぬ。

   なのに、それがしだけが賞をたまわったとなれば、丞相じょうしょうは不公平であると

   批判のもとになりかねませぬ。

   それよりは、これから冬を迎えた時に、これらを皆に少しずつ分かち与え

   てくだされ。さすれば兵達の心も温まり、敗北の傷も癒えましょう。


諸葛亮:そうか・・・将軍がそう言われるのならばそうしよう。まずはゆっくり

    と体を休められよ。


趙雲:ははっ。


ナレ:諸葛亮しょかつりょうは心の中で深く感嘆した。亡き先帝・劉備りゅうびが、趙雲ちょううんを自分や二人

   の義兄弟と同じくらい深く信頼し、重く用いていた事をあらためて思い返

   すと同時に、馬謖ばしょくの罪も決して軽いものでは済まされない

   と強く感じた。

   数日後、ついに意を決して軍法会議を開き、まず王平おうへいが呼び出された。


諸葛亮:王平おうへい将軍、そなたは副将の立場にあった。前後の事情を詳しく申し述べ

    よ。


王平:はっ。街亭がいていの布陣については、出発の際に丞相じょうしょうから再三にわたって

   入念なお指図もあり、細心の注意を払って事に臨むつもりでありました。

   ところが街亭がいていに着くと、馬謖ばしょく殿は何と思ったのか山頂に陣を構えると言い

   出しました。それがしは口を極めていさめましたが、馬謖ばしょく殿には聞き入れら

   れませんでした。

   そこへ魏軍が近づきつつある報が入りました為、それがしの隊のみ、街亭がいてい

   山麓西さんろくにしの十里ほど先に布陣した次第です。

   しかし、魏の大軍が迫った時、五千程度の兵力ではとても歯が立たず、

   また山頂の本隊も水を絶たれて士気を失い、最後には半数あまりの降伏者

   を出す結果となりました。魏延ぎえん将軍、高翔こうしょう将軍が救援に駆けつけて下さっ

   たものの、ここまで防御を崩されてしまっている状態では、ほとんどどう

   することもできませんでした。

   それ以後の悲惨な状況は、他の諸将へお聞き願いたく存じまする。

   ただ、それがしは最後まで丞相じょうしょうのお指図に従い、また最善の忠義をもっ

   てこの度の作戦に臨んだ事だけは、天地に誓って恥じるものではございま

   せぬ。


諸葛亮:よし、下がれ。・・・・・・・馬謖ばしょくをこれへ。


蜀部将:はっ。馬謖ばしょく殿、入られい!


諸葛亮:・・・馬謖ばしょくよ。なんじは幼き頃より兵書に親しみ、よく兵法をそらんじてい

    た。

    それゆえ、なんじならばやり遂げるであろうと期待し、街亭がいていへ向かわせ

    た。

    街亭を守り通すことは、長安ちょうあん攻略における最大の功績

    とまで言ったはず。

    しかし、があれほど細部に渡って指図しておいたにもかかわらず、

    ついに取り返しのつかぬ事態を招いたのはいかなるわけか。


馬謖:面目次第も、ございませぬ・・・・・。


諸葛亮:なんじも少しは成人しているかと思うていたが、案外なる愚か者であった

    わ・・・。


馬謖:!! 王平おうへいがなんと申したかは知りませぬが、あれ程な魏の大軍が来たの

   では、誰があたっても防ぐことは難しいでしょう!


諸葛亮:だまれ! 王平おうへいの戦いぶりとなんじの敗北は、比較にすら値せぬほど違う。

    彼は街亭山麓がいていさんろくに小さい砦を築き、全軍が総崩れとなっても整然と進退し

    ていた為、敵も王平おうへいに伏兵や何らかの策がある、と一時は疑ってあえて

    近づかなかったという。

    それにひきかえ、なんじは陣を敷く際に王平おうへいの注意も聞かず、山上に登る

    過ちをあえて犯しているではないか!


馬謖:ですがッ、兵法にも「高キニ拠リテ低キヲ視レバ、勢イ既ニ破竹」

   とありますから・・・

   (※たかきによりて ひくきをみれば、いきおい すでに はちく)


諸葛亮:【↑の語尾に被せるようにして】馬鹿者ッッ!!! なんたる生兵法なまびょうほう

    か・・・正になんじの為にある言葉だ。・・・馬謖ばしょく、功を焦り、全軍を退却

    させたその罪は重い。・・・なんじの家族は、死後もが面倒を見る。

    ・・・なんじは、なんじは・・・・・死刑に処す・・・・・!

    速やかに軍法ぐんぽうを正せ。この者を引き出して、斬れ・・・ッ!


馬謖:死罪は・・・覚悟しておりました。 丞相じょうしょう! もし私を斬る事が大義を

   正す事になるのでしたら、わたくしは死すともお恨みは致しませぬ。

   ・・・今までおしえていただき、ありがとうございました・・・!


蒋エン:しばし待て。・・・丞相じょうしょう閣下! この国家多難こっかたなんの時に馬謖ばしょくのごとき

    優れた者を斬るのは、国の損失ではありますまいか。


諸葛亮:しょうエン、君のごとき人物がそのような事を言うのか。

    孫子そんしも言った。「勝ヲ天下ニ制スル者ハ、法ヲ用ウル事明ラカナルニ

    依ル」と。

   

    (※かちを てんかにせいするものは ほうをもちうること あきらか

    なるによる)


    天下は三つに分かれて争い、人の道が乱れている時に、法をないがしろに

    して、何をもってこの世を正そうというのだ。


蒋エン:しかし、馬謖ばしょくは惜しい・・・そうはお思いになりませぬか。


諸葛亮:それに囚われる私情こそ大きな罪である。惜しむべき者であるからこ

    そ、斬らなければならぬのだ。

    ・・・・・まだ斬らぬのか。早く、首を見せよ。


   【間】


蜀部将:丞相じょうしょう閣下、処刑を終えましてございます。どうか、ご検分を・・・。


諸葛亮:!!! 馬謖ばしょくよ、許せ・・・!! 本当の罪は、にあるもの

    を・・・!!【号泣】


ナレ:蜀の建興けんこう六年五月。馬謖ばしょくは敗北の責を負い、死罪となった。三十九歳の

   若さであったという。

   首は各陣にさらされたのち、糸をもって胴に縫い付けてあつく葬られた。

   馬謖ばしょくの処刑の様を伝え聞いた二十万の兵は、皆、涙を流し、将軍から兵の

   一人に至るまで士気を高めたという。

   諸葛亮しょかつりょうが涙と共に馬謖ばしょくを斬った事は、彼一人の死を万世ばんせに活かした。

   後世にいう、“泣いて馬謖を斬る”故事となったのである。



END



●あとがき

はいはいはいおはこんばんちわー、作者であります。

・・・まさか、自分が好きだとはいえ、友達との談議の果てに書く羽目になると

は思わなかった今日この頃です、ええ(;^ω^)

間違いなく初心者向けの台本ではないですね、ええ(;´Д`)

多分、台本的には蛇足となる部分が多いと思います。別にそこいらなくね?と思う場面も多いと思います。しかし、個人的には諸葛亮の空城の計と、趙雲の撤退

戦は必ず入れたいと思っていたのであえて書きました。原作ご存知の方は知って

いると思いますが、趙雲はこの戦いを最後に病に倒れ、帰らぬ人となってしまうのです。

なので、彼の最後の花道のつもりで書きました。(作者は趙雲、カク昭推しです、ええ。)

もしツイキャスやスカイプ、ディスコードで上演の際は良ければ声をかけていた

だければ聞きに参ります。録画・録音は残していただければ幸いです。

ではでは!

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三国志演義・街亭の戦い~泣いて馬謖を斬る~ @KiriyaSion02

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