そういえば、パラダイスにないお菓子のこと
「あっ、美弦! おきてー!」
突然、大きな声で呼ばれて、美弦は驚いた。その拍子に。
「むっ! げほっ、げほげほげほっっっ……!」
「きゃああ、マンマ! パーパ! 美弦が大変!」
大騒ぎする綺音と咳き込んで苦しむ美弦の傍らに、すぐさま両親は駆け寄ってきた。
「うえっ、うぇええー……」
「美弦? 美弦、どうしたの」
「喉に何か詰まったのか?」
はあはあと肩で息をする美弦の顔を、両側と正面から家族が見つめる。両目は涙で潤んでいるものの、もう、それほど苦しくはない。
「だいじょうぶ……」
ゆっくりと言葉を押し出すと、母に抱きしめられた。
父と姉の、ほっと安堵する吐息が聞こえて、美弦自身も大きく息を吐く。
悲しみに満ちた、ひどく痛ましい音をした声が、姉の口から絞り出された。
「ごめんなさい。美弦がねむっちゃったから、あぶないと思って」
「ああ……何か口に入れたまま眠ってしまったのか……」
「そう。キャンディ。りんごの」
「まあ……!」
母の腕に力がこもった。
「ごめんなさい。綺音のせい」
美弦は一生懸命、手をのばす。そして、ぐっと拳を握った綺音の手を覆った。冷たくなった小さな手。
「ちがうよ」
「そうだな。気をつけていなければならなかったのは、僕たちだ。綺音も美弦も、悪くない」
「ええ、そうね。二人とも、ごめんなさいね。もう大丈夫よ。綺音、美弦が危ないと気づいてくれて、ありがとう」
両親の言葉を聞いた途端、綺音が泣き出した。わんわんと、感情が自分では、どうしようもなくなったように。父が抱きしめて優しく背中をぽんぽんと軽くたたいても、しばらく泣き止まなかった。
そして、それ以来、榊原家のリビング・スイーツ・パラダイスでは、キャンディを見ることはなくなった。ちなみに、チューイングガムも、とばっちりをくらっている。
おうちでスイーツ・バイキング(通年開催) 汐凪 霖 (しおなぎ ながめ) @Akiko-Albinoni
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