おうち時間というらしい
南雲 皋
ここ最近の話
昨日も、今日も、たぶん明日も、みんなが家にいるらしい。
普段なら朝早くに家を出るお父さん。
いつも家を出る時間に起きてきて、のんびり洗面所で顔を洗ったり、リビングで朝ご飯を食べたりしている。
それからコーヒーのおかわりをもらったりなんかして、テーブルの上に置かれたパソコンで何やらお話し合いをしているのだった。
お母さんも家にいる。
いつもだったらわたしとお父さんにご飯を出したらすぐに身支度を整えて家を出てしまうのに。
顔を洗ったらそのまま、お化粧もしないで、邪魔な髪の毛をまとめるくらいのことしかしていない。
化粧品の匂いはあんまり好きじゃないから、お化粧をしないお母さんのことは嫌いじゃない。
わたしは特にいつもと変わらない。
ずっと家にいて、たまに外に出る。
わたしは変わらないのに、お父さんとお母さんが変わってしまったのだ。
一緒にいる時間が増えたのは、鬱陶しいような、嬉しいような、微妙な感じだ。
まあ、別にどうでもいいんだけど。
布団の上で伸びをして、今日の行動を開始する。
とはいっても、今日は外に出るつもりはなかったからリビングに向かうだけ。
寝室からリビングに移動すると、テレビの音が大きく耳に響く。
「うるさいなぁ」
こんなに大きな音じゃなきゃ、お母さんには聞こえないのだろうか。
お父さんが会議をする時には音を小さくしているけど、ずっとその音量でいいんじゃないかと思う。
わたしがリモコンをいじったところでどうしようもないから、放っておくんだけど。
付けっ放しのテレビから流れてくるニュース。
どうやらお父さんとお母さんだけでなく、世界中の人たちがずっと家にいるようになったらしい。
とても強い感染症が流行っていて、外に出ると感染が拡大してしまうのだと。
わたしも気を付けた方がいいんだよね。
とりあえず、外でゲットした戦利品を家に持ち帰るのはやめておこう。
毎回戦利品をゲットしなきゃならないわけでもないし、お母さんにはあんまり歓迎されてなかったしね。
「最近は外出自粛を受けてご自宅で過ごされる時間が増えましたよねー。『おうち時間』を楽しく過ごすための方法を、いくつかご紹介したいと思います!」
テレビでは綺麗な格好をした女の人が、何人かの男女に向かって喋っている。
なるほど。
お父さんとお母さんが家にいる時間。
これをおうち時間というのか。
みんな、どうしても外に出なくてはいけない場合を除いて、家から出ないようにしている。
そのおうち時間が苦にならないように、明るい気持ちで過ごせるように、みんないろいろと考えているらしい。
お母さんはスマホをいじりながらストレッチをしている。
これもおうち時間の有意義な過ごし方なのかもしれない。
お父さんに用意されるご飯も、いつもより手の込んだものが増えているし、料理に時間を使うことができるのも、おうち時間のおかげなのだろう。
お父さんはおうちにいても基本的にはお仕事をしているみたいだけれど、時々わたしの方に来ては、わたしを撫で回していく。
たぶんそれも、おうち時間の有効利用なのだ。
わたしはキャットタワーの上で丸くなり、おうち時間を満喫することにした。
おうち時間というらしい 南雲 皋 @nagumo-satsuki
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