画面の向こう側
蒼空苺
募る思い
「ねぇ。聞こえる?」
「うん。聞こえてるよ。」
今日も問題なく接続できたようだ。
画面をのぞきこむ顔がお互いににやけてしまうのは、もう仕方がない。
彼との付き合いはもう3年ほどになる。
けれども触れあった回数はまだ数える程度しかない。
味噌汁も冷めない距離とはよく言ったものだが、本当はそのくらい近いのが理想的な距離感なのかもしれないな、と最近とみに思う。
距離もそうだが、この世情が私と彼を離していって、余計にそう感じるのかもしれない。
触れられそうで、触れられないこの画面の距離が恨めしい。
けれども今日も変わらずにこうして、自室のパソコンの前に座り込む。
もはや習慣といってもいいかもしれないが、これも愛の重さというものが支えているのだろうか。
でも今日はなぜだか外が寒くて、寂しさがざわざわと私を縮こまらせる。
冷たくなった足をすり合わせながら、人肌の恋しさを思った。
「ねぇ。今度いつ会えるかな?」
恋しくなってついこぼれだした言葉に、自分でも少しびっくりする。
「いつでもこうして会っているじゃない。」
「……そうじゃないのよ。」
まさかの返答に、不満げにつぶやく。
伝わらな過ぎて悲しさすら湧きおこる。
「……そうじゃないのか?」
そのつぶやきをしっかり拾われ、さらに不満が増す。
しかし顔が近くで見えている分、恥ずかしくて言うのをためらう。
隣に座っているよりも近い距離。
けど実際には遠い距離。
鈍いあなたには全然伝わらないのかな。
この空気感も、嫌なんだけど嫌じゃない。
「本当はわかっているでしょ?」
「ふっ。 かわいいな。」
いきなりそんなこと言うから、言葉に詰まる。
顔をうずめて、カメラに映らないようにする。
心臓がどきどきして苦しい。
「えっ。どうかした?」
心配そうな声が響く。
めちゃめちゃどうかしましたけど。
あなたのせいなんですけれど。
ねぇ。あなた、分かってます?
いつでも私をこうしてからかって遊んで。
私がどんなにあなたを思っているのか試してみているの?
「いじわるね。」
「はは。好きだからね。」
「いじわるが?」
「ふふ。そう思う?」
「はぐらかすのね。」
「そんなことないよ。」
「私は好きよ。」
「いじわるが?」
「ほんっとに、いじわるっ!!」
もう、嫌になるくらいにそう思う。
毎回のことなのに、毎回そう思うのは仕方ない。
それでも、あなたにされるそのいじわるも嫌いじゃない。
重症かもしれないな、と思う。
「はは。ごめんね。冗談だよ。
かわいくて仕方がなくって、ついね。」
「もうっ!!」
「愛してるよ。」
いつになく真剣に彼がそうささやく。
「…………もうっ!!!!!」
不意打ちをくらってしまった私は、赤面した顔を隠せない。
もうどうにもあなたに溺れているんだ。
「ははは。本当にかわいい。すぐに会いにいくから。」
愛おしそうにこちらを見つめるから、いつでも許してしまうのよ。
会えない分もこうして言葉をくれるから。
「……待ってるわ。」
触れられない距離がもどかしい。
けれど、それすらも愛しい。
距離の分だけ募る思い。
もうすぐ、愛しいあなたに会える。
画面の向こう側 蒼空苺 @sorakaraichigo
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