第4話 ボス、現る。

 僕は差し出された、田所の手を握っていた。 

 「でも、無理です」

田所と握手はしたが、反対の言葉を口に出した。

僕は田所の手を放した後、家に事情を繰り返した。田所は少しイラついた感で、席を外した。

 「やあ、坂本さんかね」

明るい色のスーツを着た、年配の男が僕の前に座った。

腕には金の腕輪、高級そうに光る腕時計、薄いフレームの眼鏡。

暴力的な匂いはしないが、経済的にのし上がってきた人という感じだ。

 「こんなに特なのに、どうして断るの?」

 「いや、家計的にしんどくて」

 「今なら、指輪にネックレスも付くんだよ」

男は田所から聞いた話を、初めからし始めた。時間もどんどん過ぎていき、最終電車に近づいている。

 「いやー 本当にローンは組めないんです」

 「じゃあ、このネックレスだけ持って帰って、もう一度考えてくれるかね」

 「え、そんな事したら、また断りにネックレスを持って、ここまで来ないといけないじゃないですか」

 「それも一興だろう」

男の誘いを断り、何とか開放された。ダイヤは買わずに何とか帰れそうだと安堵の息を吐いた。

 「安田君!」

男が部下を呼んだ。

 「坂本君を家まで送ってあげなさい」

駅に着く頃には終電も無くなっている時間だったので、男は部下に送るように指示を出していた。僕は迷ったが、タクシー代もないので、この申し出に甘える事にした。

安田は車中で、延々と勤めている会社の自慢話ばかりしてきた。僕は内心「危ないんだよ、おまえの会社」と毒付きながら、最寄り駅の反対側の出口で降ろしてもらい、念のため、少し回り道をして帰った。



 以上で若気の至りの話は終わりですが、みなさんも気を付けて下さい。僕はあの時にダイヤを買わずに本当に良かったと思っています。    

                                  でわでわ





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