盗み聞きですれ違い!?⑫
豊視点
翌朝、豊は待ち合わせ場所である十字路のところまで向かう。 昨日の放課後にはどうなることかと思っていたが、きちんと彼女の明日花が立っていた。
全てが誤解だったと分かれば、喧嘩前よりも仲よくなれるというもの。 豊としては明日花が涼太と男性アイドルのことで盛り上がっても構わないと思っていた。
―――まぁ、アイドルよりも俺の方が断然にカッコ良いって言ってくれたからな。
昨日の帰り道、明日花がそう言ってくれたのだ。 嘘でも嬉しい言葉というものはある。 それに豊からしても明日花はアイドルよりも可愛いと思っていた。
「おはよ。 今日も可愛いな」
「へへッ。 嬉しい! 豊もカッコ良いね!」
二人で待っていると涼太と沙彩もやってきた。 二人同様、いつも以上に距離が近い。
「おぉ! 二人共、今日もラブラブだね!」
「そっちも朝からラブラブじゃないか」
「そりゃあ、涼太と沙彩には負けないもん!」
明日花と涼太は続けて自分たちの好きな話を繰り広げる。
「ところで、一昨日に出た新曲についてなんだけど」
「え、何々!?」
今日も四人集まって登校する。 相変わらず明日花と涼太はアイドルの話で盛り上がっているが、豊としてはそれを微笑ましく眺めていることができる。 ただ沙彩がどう思っているのかは気になっていた。
「沙彩、いいのか? 涼太を放っておいて」
「そっちこそ大丈夫なの?」
「俺は平気だ」
「私も平気よ。 涼太を信じているから」
「俺も明日花なら信じられる」
同じようなことを言って二人は笑い合った。
「昨日は色々あって気持ちも大変だったけど、色々あってよかったのかもしれないな」
「より明日花の大切さが分かったから?」
「あぁ」
「そうね。 私もそうかも」
誤解がこじれて綻んでしまう可能性もある。 だが四人はそうならずより結束を強めることができた。
「また教室に遊びに行くね、豊!」
「あぁ」
「じゃあ沙彩、また後で!」
「うん、また後で」
いつものように教室前で別れるが、昨日とは表情がまるで違う。 お互い別々になっても不安に思うことはなかった。
「そう言えば、昨日カラオケの後はどうしたの?」
「ん? そのまま家に帰ったけど」
「本当かなぁ?」
「そういう沙彩は、涼太と二人きりになった後何をしたんだよ?」
「それは秘密」
「何だよそれ」
そう。 不安など何もないはずだった。 その安心感は突如として崩れ去り、泣きながらやってきたのは明日花だった。
だが突然のことで何が何だか分からず、明日花に抱き着かれてもどうすればいいのか分からなかった。
「豊ぁー!!」
「うわッ! どうしたんだよ、そんなに泣いて」
「涼太に酷いことを言われたの!」
「はぁ!?」
明日花から事情を聞いていると涼太もやってきて沙彩に泣き付く。
「沙彩ぁー! 聞いてくれよー! 明日花がさぁ・・・」
話そうとすると涼太と明日花の目が合った。
「って、どうして明日花がこんなところにいるんだよ!」
「豊に泣き付きに来ただけだもん! 涼太こそ、私の真似をしないで!」
「真似なんかしていねぇよ! 癒しの沙彩を求めにきただけだ!」
二人の間で何があったのかは知らないが、このままではマズいと思い止めようと思った。 しかし、それを先にしたのは沙彩だった。
「ちょ、ちょっと落ち着いてよ二人共! 何が原因で喧嘩をしているの?」
「アイドルのコンサート、冬に行くって決めたんだけどさ!」
「はぁ!? それ、いつ決めたんだよ? 俺は聞いていねぇぞ!?」
明日花の言葉に豊が反応する。
「一階席か二階席、どちらにしようかって話になって!」
「もしかしてそれって、涼太と明日花の二人で行く気!?」
涼太の言葉に沙彩が反応した。 明日花がそんな質問を無視して言う。
「絶対に一階席がいいよ! アイドルと近いし!」
「明日花は背が低くて一階だと見えないだろ!? 二階は最前席だぞ!」
二人の言い合いに豊と沙彩は溜め息をついた。
「お前たち何で喧嘩をしてんだよ・・・」
「もう放っておきましょう・・・」
二人を止めずにただ眺めていることにした。 恋絡みでなければ本気で悩む必要もないと思ったのだ。
-END-
盗み聞きですれ違い!? ゆーり。 @koigokoro
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