盗み聞きですれ違い!?⑪
豊視点
―――ウーロン茶にコーラと・・・。
―――俺は何にするかな?
ドリンクバーのボタンを選んでいると、思わず溜め息が漏れていた。
―――全く、沙彩にはとんでもない勘違いをされていたな。
―――俺と涼太が付き合うって、一体どこをどうすればそんなことになるのやら。
涼太は確かに男性アイドルが好きだ。 だが、それとこれは完全に別の話。 涼太に同様に聞いても鳥肌を立てながら否定するだろう。
「豊!」
「明日花? どうした? 違う飲み物がいいのか?」
飲み物が人数分準備できたところで明日花がやってきていた。
「違うの! ・・・豊の、本当の気持ち教えてほしい」
「俺の本当の気持ち?」
「そう! 一体豊は誰のことが一番好きなの!?」
「はぁ? それ何の質問だよ。 明日花のことが一番好きに決まってんじゃん」
「え・・・」
当然のことを言って驚かれるとは思ってもみなかった。 だが明日花が涼太のことを好きならそれも有り得る。
もしかしたら自分が沙彩に心変わりをしたとでも思い込んで、涼太を選ぼうとしていたのかもしれないと思った。
「・・・それ以外に答えはあるのか?」
「で、でも! 沙彩のことも好きなんだよね!?」
「はぁ? どうしてそうなるんだよ。 俺がいつ、沙彩のことが好きだと言った?」
「だって今日、学校で聞いたんだもん!」
正直何のことを言っているのかさっぱりだ。 言った言わないは勘違いではなく事実なはず。 ただ豊自身に沙彩に好きだなんて言った憶えもなければ言う気も全くなかった。
「聞いた? 聞いたって何を?」
「『くどいことは言わずにストレートに言う。 好きだよ』って沙彩に言っているのを!」
「・・・ん?」
明日花の口から飛び出した言葉はどこか聞いたようなフレーズだ。 それも今日のような気がして記憶を遡った。
だが記憶の巻き戻しが終わり再生してはみたが、自分が言った言葉は沙彩に対してではないのだ。
「・・・あぁ、あれは沙彩が困っていたからそう言っただけだ」
「どういうこと?」
「最近涼太と上手くいっていないみたいでさ。 アドバイスしてやったんだよ。 自分の気持ちを改めて伝えてみたら? 例えばこういう風に、って。 その時に言った」
「え、それだけ!? それだけのことだったの!?」
「そうだけど?」
「な、何たる勘違い・・・ッ! 恥ずかしい・・・ッ!」
明日花は真っ赤になった顔を隠す。
「・・・そういう明日花はどうなんだよ。 本当は涼太のことが好きなんだろ?」
「えぇ!? どうしてそうなるの! 私がいつ、涼太のことが好きだって言った!?」
「俺も聞いたぞ。 『新しく好きな人ができた。 涼太には言えない』って涼太本人に言うのを」
「・・・うん?」
「涼太のことを好きになったから、面と向かって言えなかったんじゃないのか?」
明日花は考え込むような素振りを見せ、思い出したように言った。
「・・・あ! あれは豊のことを言っていたんだよ!」
「俺のこと?」
「そう! 豊が沙彩に告白しているのを見て、豊に新しく好きな人ができたと思ったの! だから涼太に相談して・・・」
そこまで言うと溜め息をつく。
「まぁそれは、私の勘違いだったんだけど」
「そういうことだったのか・・・。 俺も勘違いしていたわ」
「じゃあ、これでもう仲直り?」
「あぁ」
「よかった! 豊のこと大好き!」
そう言って明日花は抱き着いてきた。 ここはカウンター前の目立つ場所だが、豊も抱き締め返す。 分かってしまえば些細なすれ違いだっただけだ。
「あぁ、俺もだよ」
二人で四人分の飲み物を持ち部屋へと戻った。
「あ、おかえりー!」
「あれ、二人共機嫌がよさそうだね?」
沙彩の言葉に豊が言う。
「そういう二人も、さっきよりも楽しそうじゃんか。 何かあったのか?」
「誤解が解けたの!」
「俺たちは昨日よりもアツアツだぜー!」
「へぇ、よかったな」
二人の言葉に豊は微笑む。
「そういう豊と明日花は?」
「仲直りしたよ! 豊は私のことが一番好きで、私も豊のことが一番好きなの!」
「そっか。 そっちも誤解が解けてよかったな」
「うん!」
全員の誤解は解け、この後は四人でカラオケを楽しんだ。 どうやら明日以降の四人の仲の心配をする必要はなさそうだ。
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