盗み聞きですれ違い!?⑩




明日花視点



その頃明日花と涼太は浮かない顔をしながらカラオケへと向かっていた。 沙彩は豊の告白を断ったとばかり思っていた。 だがそうではなく、二人は完全に両想いだったのだ。


「・・・涼太、大丈夫?」

「あ、あぁ・・・。 そっちこそ大丈夫か?」


だが自分は朝から分かってはいたことのため、今初めて知った涼太の方が心配だった。 まるで廃人のように表情が抜け落ちてしまっている。


「え、あ、うん・・・。 大丈夫じゃないかも・・・」

「だよな。 不安だよな・・・。 沙彩が豊のことが好きだなんて知らなかった。 豊のことが好きだから明日花と別れてくださいって、それを堂々と言うなんて・・・。 

 いつから豊に心変わりしていたんだ?」

「今日私、学校で言ったでしょ? 豊に新しく好きな人ができた、って」

「あぁ、そうだな」

「それね、沙彩のことなんだよ」

「・・・ッ、はぁ!? え、ということはつまり、今頃二人は両想いに・・・!?」

「そういうことになるね・・・」

「「はぁ・・・」」


二人揃って溜め息をつくとしばらくの沈黙が訪れた。 相手を気遣う余裕などなく、寧ろ自分が気遣ってほしいくらいのところだ。 だがお互いに辛さが分かるため結局黙り込んでしまう。 

後方を確認し、二人の姿がないことを見て涼太は話を始めた。


「・・・で、それを知った俺たちは今、どうする?」

「先に辛い思いをしたんだよ? だからこれから振られる覚悟は既にできているから、ショックは少ないと思う!」

「そ、そうだよな。 確かにショックは軽減されるかも!」

「「はぁ・・・」」


二人は再び溜め息をつく。 明るく取り繕うにも心が追い付かなかった。 このままでは明日以降の四人の関係さえ危ない。 とにかく、明日花と涼太だけでも気分を上げておかないといけない。 

そんな風に思ったのか、涼太が提案する。


「早くカラオケへ行って、ストレス発散でもするか!」

「うん!」


二人はカラオケへと駆けた。 おそらく沙彩の告白を豊が受けた手前、すぐに合流してカラオケとはいかないだろうと思ったのだ。 先に部屋をとった旨をメッセージとして送り先に始めることにした。 

朝話題にしていた好きなアイドルの新曲を二人で何度も歌いまくる。 そして二十分後、ようやく豊と沙彩が到着し合流した。 何故か沙彩はスッキリした表情をしている。


―――沙彩、何その表情?

―――もしかして、豊と上手くいってウキウキなの?

―――豊は何事もなかったかのような顔をしているし・・・。


荷物を置いた豊が言う。


「俺、飲み物を持ってくるわ。 沙彩の分も持ってこようか?」


―――沙彩に優しい・・・。


「え、あ、うん。 ありがとう、私はウーロン茶でいいよ。 涼太と明日花は? おかわりはいる?」

「あ、俺はねー・・・」


涼太はメニューを開いた。


―――沙彩はみんなに優しい・・・。


豊は四人分の飲み物を取りに部屋を出た。 すると涼太が突然距離を詰めてくる。


「な、なぁ明日花。 もう本当のことを聞いてもいいか? 気まず過ぎて嫌なんだけど」

「あ、う、うん。 そうだね、この際もうハッキリさせておこうか」

「よし・・・。 あ、あのさ! 沙彩!」


覚悟を決めると涼太が口を開いた。 沙彩はキョトンとした表情で、心当たりが何もないといった雰囲気だ。


「うん? 何?」

「沙彩と豊は付き合ったのか?」

「えぇ!? 何よそれ! 涼太は私と別れたいの?」

「そんなわけがあるか! つか、そんなことは一言も言っていないだろ!」

「じゃあどうして私と豊が付き合っているとか、ふざけたことを言うのよ!」

「さっき聞いたんだよ! 沙彩は豊のことが好きだから、明日花とは別れてほしいって、豊に言うのを・・・」


それを聞くのは明日花にはできないと思っていた。 もし肯定されればしばらく立ち直れる自信がない。 だから涼太が聞いてくれて有難いと思ったのだが、沙彩は再度キョトンとした表情をした。


「一体何のこと?」

「え?」

「・・・あ!」


考えるような様子を見せると沙彩は慌てて言った。


「あ、あれは違うの! あれは私の恥ずかしい勘違いで・・・ッ! 気にしないで!」

「勘違い? じゃあ俺のことはどう思っているんだ?」

「一番好きに決まっているじゃない!」

「ッ、本当か・・・?」

「本当。 涼太のことが一番好き」

「沙彩ッ・・・!」


涼太は沙彩に抱き着いた。 何だかよく分からないが、二人は仲直りしたようだ。 昼休みの時以上にベタベタとくっついていて、そんな二人を見ながら明日花は未だに困惑していた。 

沙彩はただ単に豊の告白を断っただけなのだろうか。


―――どういうこと?

―――え、じゃあ私は・・・?


抱き合う二人をよそに明日花は一人この部屋から出た。



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