盗み聞きですれ違い!?⑨




豊視点



午後の授業が全て終わり放課後となった。 あれから隣のクラスの二人とは話していない。 科目の関係上休憩時間が移動にとられてしまったためだ。


「沙彩、行こうぜ」

「うん」


豊は沙彩を誘い教室を出る。 いつも正門前で明日花と涼太と合流することになっている。 廊下で待っていると邪魔になるからだ。


「・・・ねぇ」

「ん?」

「昼休み、涼太と二人で何を話していたの?」


正門で二人を待っていると沙彩が尋ねてきた。 そう言えば、涼太と話した後から沙彩の様子がどこかおかしいと感じている。


「特に大した話はしていないけど」


仲直りをしたのは事実だが、それは沙彩も分かっていると思っていた。


「本当に? いい雰囲気だったじゃん」

「何だよ、いい雰囲気って」


やはり何かがおかしい。 いい雰囲気というのは、仲直りが上手くいったことを指しているのだろうか。


「・・・涼太は私のものなの」

「言わなくても分かってるよ。 仲よきことは美しきかな、っていうことだな」

「茶化さないで。 核心を話してくれないということは、そういうことでしょ?」

「はぁ? さっきから一体何の話をしているんだよ」

「モヤモヤするのはもう嫌だからハッキリと言う。 私は、涼太のことが・・・ッ!」

「・・・何だよ?」


沙彩が溜めに溜め、その後言おうとしてることは予想がついていた。


「好きなの! だから別れてください!」


―――別れてくださいって、何の話だ・・・?


沙彩がそう言った瞬間近くから足音が聞こえた。 振り返るとそこには気まずそうにしている明日花と涼太が立っている。 涼太にいたってはこの世の終わりを見てしまったかのような表情だった。


「おぉ、二人共来たか」

「ごめん、二人共。 私はまだ豊と話したいことがあるの。 カラオケはいつもの場所だよね? 先に行っておいてくれる?」

「「わ、分かった・・・」」


二人は声を揃えてそう言うとこの場をそそくさと去っていった。 二人が離れるのを見て話を戻す。


「で、別れてくださいってどういうことだ?」

「涼太と豊は付き合っているんでしょ?」


冗談で言っているのではなく本気で言っていることは分かった。 分かったが、正直な話意味不明だ。


「はぁ!? 一体どこから聞いたんだよ、その嘘情報!」

「え、嘘!? 違うの?」

「そもそも俺と涼太は男同士だぞ? 仲がよくても流石にそれはないわ。 沙彩もそんなことばかり考えていないで、ちゃんと涼太と向き合えよ」

「いや、あの、でも・・・。 最近は同性愛とか、よくあることだから・・・」

「ないないないない、有り得ない! たとえ他の人があるとしても、俺はない。 じゃあ聞くけど、明日花とそういう関係なのか?」

「ちょ、ばッ、そんなわけないじゃない!」

「だろ? というか、俺と明日花が付き合っていて、涼太と沙彩が付き合っている状態で、俺と涼太が付き合っているってカオス過ぎるだろ」

「カモフラージュ・・・? とか・・・」

「あのなぁ・・・。 もう本気でそう思っているわけじゃないんだろ?」


正直この話題から早く離れたい気持ちだった。 何を思ったのか、流石に涼太と付き合っているなんてのは寝耳に水な話だ。


「だって昼休み、涼太に『豊と何を話していたの?』って聞いても何も答えてくれなかったんだもん。 だから豊が涼太の告白を受け入れたんでしょ?」

「今の話が本当だとしたら、どうしてそうなるんだよ。 答えない、つまりは何もないっていうことだろ?」

「でも『同性が本当は好きだった』って打ち明けるのは勇気がいりそうだし・・・」

「そもそも俺は、涼太から告白されていねぇよ」

「・・・え、そうなの!?」


沙彩の驚き様から見るに、本当に疑っていたようだ。 確かに今朝同性のアイドル云々の話をしていた。 まさかそこから繋がってカマをかけていたとは思いもしなかった。


「どうしてそんなに驚くんだよ。 つか、いつ涼太が俺に告白をしたって?」

「私は聞いたの! 涼太が豊かに『本気で好きなんだよ。 豊のことが』って言っているのを!」

「・・・ん?」


確かにそのような言葉を言っていたような気がする。 だが主語が抜けてしまっていて、完全に話がおかしい。


「あー、あれか。 いや、それは涼太の気持ちじゃない」

「どういうこと?」

「別の人から俺宛だ」

「・・・意味がよく分からないんだけど。 一体誰から?」

「さぁ? 俺もよく分からないんだ」

「豊のことが好きって、明日花以外に誰かいるのかな・・・?」


沙彩は小声で言ったため聞き取れなかった。


「何か言ったか?」

「ううん、何でもない」

「それで、涼太の告白の件については納得したか?」

「そう、だね・・・」

「俺が嘘をつく必要なんてないだろ」

「まぁ・・・」

「安心しろ。 仮に涼太から告白をされていたとしても、俺は断っているから。 俺には明日花以外考えられない」

「・・・うん、そうだよね。 本当のことを知れてよかった、安心した」

「じゃあ明日花と涼太を追いかけようぜ」


沙彩がそれに頷くと二人はカラオケを目指した。



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