盗み聞きですれ違い!?⑧




明日花視点



明日花は涼太が豊のもとへと向かった後、心配になってしまい隣のクラスを訪れていた。 だが残念なことに既に二人の姿はない。 沙彩に話を聞くとどこか他の場所で話をするそうなのだ。


「いいよね、二人は仲よさそうで」


明日花は二人が戻ってくるまで沙彩と話をすることにした。 正直、豊と沙彩がどうなったのかあまりよく分かっていないが、告白がどうなったのか気になって仕方がないのだ。


「まぁ、長い付き合いだからね。 明日花の知らないようなこともたくさん知っているから」


―――・・・え、何それ。

―――クラスが一緒だから私より豊のことが詳しいって言いたいの?


そう言われてしまえば明日花としても対抗心がメラメラと燃えるというものだ。


「へ、へぇ・・・。 そんなことはないと思うけどなぁ? じゃあ、寝る時に熊のぬいぐるみを抱き枕にしているって沙彩は知ってる?」

「嘘!? あの木彫りの熊を・・・?」

「いや、木彫りじゃないんだけど・・・。 ほら、やっぱり沙彩が知らなくて私が知っていることの方が多いよ」

「そうかな・・・。 じゃあ、中学生までお姉さんとお風呂に入っていたということは?」

「ええぇぇ!? 嘘でしょ・・・?」


豊の姉はかなり年が離れている上に化粧濃いめのギャルをしている。 明日花も家に上がる時はかなり恐縮してしまい、カタコトの敬語になってしまう程。 

中学生の時といってももうお姉さんは二十歳を超えていたはずだ。 少し想像ができなかった。


―――というか、どうしてそんなことを沙彩に話しているのよ!

―――あの馬鹿ッ!


クラスが一緒なら一緒にいる時間も多くなるのは当然だ。 だがそれでも世間話でするような話題ではないと思った。


「ごめん! ちょっとお手洗いに行ってくるね」


沙彩は水回りの話をしたためか、突然そのようなことを言い出した。 モヤモヤとしたものは残るが、明日花もそれを快く送り出した。 一緒に行くことも考えたが、今は流石にそんな気分にはなれなかった。


―――そう言えば涼太、豊と仲直りすることができたかなぁ?

―――豊の恋愛事情が何であれ、四人がバラバラになるのは嫌だなぁ・・・。


その時だった。


「明日花ー!」


突然沙彩が泣きながら戻ってくる。


「沙彩!? 一体どうしたの?」

「私、二人の会話を聞いちゃった・・・! いや、聞く気はなかったんだけど・・・」

「どういうこと? うっかり聞いちゃったの?」

「うん、廊下を通る時に・・・」

「何を聞いたの?」

「明日花に話してもいいのかな・・・。 でも同性だから構わないよね? 涼太の一方的な愛情かもしれないし・・・」

「?」


沙彩は覚悟を決め頷くとハッキリと言った。


「涼太が豊に告白をしているところを聞いちゃったの!」

「・・・えぇ!?」

「反応遅いよ!」

「ご、ごめん。 思ってもみなかった言葉だったから・・・。 それって本当に? 聞き間違いじゃなくて?」

「『本気で好きなんだよ。 豊のことが』って! 確かにそう言っていたの!」

「嘘!?」

「どうしよう・・・。 豊は困った表情をしていたから振ったと思うけど、涼太が豊に告白をしたのは事実。 私はもう立ち直れない・・・」

「涼太が同性が好きだなんて知らなかった・・・」

「それには薄々気付いていた」

「え、そうなの!?」

「うん。 だってあんなに男性アイドルが好きなんだもん」

「た、確かに・・・。 男性ファンももちろんいるけど、涼太みたいな熱狂的ファンってなかなかいないかも・・・」

「でしょ!?」


確かに豊が全然興味を持たないところを見れば珍しいのかもしれない。 

明日花としてみればどちらかと言えば豊に興味を持ってほしいところだったが、それで同性に興味を示し出すなら興味を持たなくてよかったのかもと思った。 もっとも人の好みに文句をつけるつもりはない。

だがそれが身内や恋人であったなら話は別だ。 涼太と豊がくっつくなど、考えるだけで頭が痛くなりそうだった。


「で、でも大丈夫だよ! まだ沙彩たちは別れていないんでしょ?」

「うん・・・。 でも私が振られるのも時間の問題じゃ」

「戻ったぞー」


話をしていると涼太が戻ってきた。 振られたにしてはあまりに清々しい態度だ。


―――何というタイミングだ!


見計らったかのようなタイミングに心の中で突っ込みを入れる。 それに明日花から見て涼太の雰囲気は晴れ晴れとし過ぎていた。


―――もしかして、豊も・・・!?


だがそのようなことを考えているうちに、泣いている沙彩と涼太の目が合っていた。


「ちょ、沙彩!? どうして泣いているのさ!」

「ううん、何でもない」

「何かあったらいつでも話を聞くよ?」

「うん、ありがとう・・・。 でも私は大丈夫だから」

「大丈夫じゃなさそうだから聞いているんだって・・・」

「・・・ねぇ、涼太」

「ん?」

「私に何か、隠していることはない?」


―――言った!


躊躇うことのないストレートな質問に明日花は驚いていた。


「いや? 何もないけど?」


―――・・・あれ、あっさり?


「そ、そう・・・」


そして沙彩も意外とすんなりと身を引いた。 もっともあまり追及する気力すら沸かなかったのだろうと思った。 自分が沙彩の立場なら豊に追及する気は起きないだろう。


―――大変だな、沙彩も・・・。

―――でも今のところは振られる感じではなさそう?


そう思っていると豊がケロッとした表情で戻ってきた。


―――・・・何だろう、その表情。

―――豊は涼太のことを振ったのかな?

―――豊も涼太も、普段通り過ぎてよく分からないや・・・。

―――豊が男好きっていうのは聞いたことがないけどなぁ。


豊が言った。


「そういや、今日の放課後は結局どうするんだ? 四人でカラオケへ行きたいとか言っていたけど、止めておく?」

「ううん! 行きたい!」


明日花が速攻で答えた。


―――とりあえず二人が仲直りしたのは間違いなさそう。

―――放課後で今度こそ、豊の本当の気持ちを確かめてやるんだから!



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