盗み聞きですれ違い!?⑦
豊視点
昼食後、自分たちの教室へ戻った豊は沙彩とスマートフォンを見て盛り上がっていた。 涼太が明日花の告白を断ったのなら複雑な気分ではあるが、まだ気持ちは軽い。
本当はだからこそ直接聞くチャンスではあるのだが、やはり明日花の口からそれを聞くのは辛いのだ。 自分が気付いていないフリをしていれば、このまま明日花は自分のところへ戻ってくる可能性がある。
「この二人、電撃結婚とか凄くない!?」
「まぁ、美男美女だから有り得そうだけどな」
今見ているのは芸能人のSNSで、盛り上がってはいるがやはり頭の片隅から明日花と涼太のことが消えることはない。 そんな時、隣のクラスの涼太が割って入ってきた。
「豊、話したいことがあるんだけど」
「何だよ?」
「ここだとあれだから、二人で話さないか?」
「・・・分かった」
チラリと横を見ると沙彩が気まずそうに視線をそらした。 それに気付いた涼太が慌てて言う。
「沙彩、楽しんでいる最中にごめんな。 大事な話があるから、豊を借りてもいいか?」
「え? あ、うん、もちろんだよ」
「ありがとう。 じゃあ豊、行こう」
二人は他の空き教室へと移動する。 辺りには誰もおらず、聞かれている心配はなさそうだ。
「何だよ、急に呼び出して」
「謝りたかったんだ。 さっきは悪い、言い過ぎた」
「・・・あぁ。 いいよ、別に」
―――明日花を振ったならまぁ、うん。
「ただ俺は、明日花の気持ちをもっと考えてほしかったんだ」
「・・・明日花の気持ち? どういう意味だ?」
「意味は自分の心に聞いてみたら分かるんじゃないか?」
「・・・いや、特に思い当たることは・・・」
涼太が何を言わんとしているのか正直何となく分かっていた。 だが正面からそれを受け止めると涼太に当たってしまいそうだったのだ。
―――どうして涼太に心変わりをしたのか、っていうことだろ?
―――四人行動するのを拒み過ぎたせいか?
だがそれを当の本人である涼太に言われるのは気に食わなかった。 『何故明日花が俺に心変わりしたのか分かるか?』 そう言われているのと同じだからだ。
―――元々明日花は涼太のことが好きだったから、一緒に行動しようとしていた?
―――それで涼太は振って、俺たちを仲直りさせようとしている?
―――あれ、よく分かんねぇ・・・。
一人考えていると涼太が言う。
「そんなに難しい顔をしてどうしたんだ?」
「いや、考えてもよく分からなくて」
「とにかく明日花に悲しい思いをさせないでほしい。 言いたいのはそれだけだ」
「ふーん・・・。 悲しい思いはさせないでほしい、ねぇ。 それは涼太に言える言葉だけどな?」
―――さっき明日花を振って泣かせたんだし。
「え、俺?」
今も一人隣のクラスで泣いているのかもしれないと思うと腹立たしくなる。 だからといって、明日花と付き合えとも言えない。
結局わだかまりは自分で消化するしかなく、どこか話題をそらすように聞いた。
「涼太の恋愛事情はどうなんだよ?」
「いや、どうって・・・。 どうして急に俺に振るんだよ?」
「涼太こそ、女の気持ちをもっと考えろ。 ちゃんと向き合ってんのか?」
―――明日花にも沙彩にも。
真剣な眼差しで涼太を見た。
「・・・あぁ。 沙彩とも明日花とも、真剣に向き合っているよ」
「・・・そうか。 ならいい」
涼太の顔は真剣そのものだ。 茶化すわけでもからかうわけでもない。 もしかしたら、明日花と沙彩に好かれて優越感に浸っているのかもしれないが、何となくそれも違う気がした。
―――真剣に向き合った結果がこれか。
―――その結果泣かせたのか。
―――ならもう何も言わねぇよ。
豊の中では涼太は今も大切な友達、親友だ。 明日花が好きになったことは事実だが、涼太は全く悪くない。
豊から見ても涼太はいい奴で、明日花を他の誰かに取られるくらいなら涼太に任せた方がいいとまで思っている。 とりあえず心を落ち着かせようとしていると、涼太がポツリと言った。
「・・・アイツは、好きなんだよ」
「ん?」
「本気で好きなんだよ。 豊のことが」
自分のことを本気で好きと涼太は言った。 明日花は涼太のことが好きとなると、誰になるのだろうと思った。 “もしかして沙彩?”
とは思ったが、先程の昼休みの二人を見ているととてもそうとは思えない。
―ガタン。
混乱する頭で考えていると廊下で物音が聞こえた。
「誰かいるのか?」
「廊下から聞こえたな」
豊が率先して廊下へ出るが、誰かがいた形跡はなかった。
「・・・誰もいないな。 気のせいか?」
「・・・そうか」
窓が開いているため風でも吹いたと結論付け、教室へと戻った。 涼太にはまだ聞くべきことがあるのだ。
「で、俺のことが好きって誰が?」
「・・・!」
涼太は驚いた顔を見せる。
「何だよ?」
「え、分からないのか?」
「そりゃあ、言ってくんねぇと分からないだろ」
「・・・豊はやっぱり鈍感だ」
涼太は溜め息をつくと空き教室を出ていった。 豊も荒々しく溜め息をつく。
「ったく。 ・・・さっきから何なんだよ」
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