盗み聞きですれ違い!?⑥




明日花視点



四限目が終わると早速涼太のもとへと向かった。 先程始まる前に話を聞きたいとは思ったが、何となく怒っているようで聞けなかったのだ。 

時間を挟めば落ち着くと思い授業を受けてはいたが、正直四限目が何の授業だったのか憶えていない。 それくらいに明日花は豊のことが気になっているのだ。


「涼太! 豊とはどうだった?」

「あー、明日花ごめん! 豊にガツンと言おうとしたんだけど、喧嘩になって・・・」

「そっか。 ううん、大丈夫だよ。 私のためにありがとうね」


そうは言ったもののやはり胸の内に残る気持ちは沈んでいる。 それが分かったのか涼太は首を横に振った。


「今からの昼休みで、もし四人の空気が悪くなっていたらそれは俺のせいだから、豊に謝ることにするよ」

「うん。 豊と涼太には仲よしでいてほしいな」

「じゃあ行こうか、二人のもとへ」


明日花と涼太は空き教室へと向かった。 いつもそこで四人揃って昼食をとっているお気に入りの場所だ。 もしかしたら豊と沙彩は来ないのではないかとも思ったが、拍子抜けする程あっさりとやってきた。

ただ二人の間に和気あいあいとした空気が漂っているなんてことは一切ない。 それに座る位置も豊と明日花が隣り合い、涼太と沙彩が隣り合ういつも通りの位置だ。 

もちろんそれは涼太と沙彩が自然にそうしたからそうなったのだが、明日花も豊も何となく腑に落ちないといった表情。 食事中も頭の中がぐるぐると回り上手い言葉が出てこない。


―――・・・どういうこと?

―――豊は沙彩に告白をしたんだよね?

―――どうして気まずくなるの?

―――・・・もしかして、沙彩は豊の告白を振った!?

―――それはそれで嬉しいけど、何と言うか・・・。

―――豊が少し可哀想な気もする。


考えていると隣にいる豊と目が合った。


「何だよ、さっきから。 人の顔をジロジロと見て」

「わわわッ! 見ていないから!」

「そうか」

「そういう豊こそ、私を見ていたよね!?」

「・・・悪いかよ?」

「べ、別に・・・」


好きな人に見られるのは悪い気がしない。 それが自分がまだ豊のことが好きだという証拠だ。 ただ気になっているのが涼太と沙彩がいつも通りなことだ。


「沙彩! 何だよ、その唐揚げ!」

「昨日作ったの」

「マジで!? 沙彩の手作り!? 美味そう!」

「よかったら食べる?」

「え、いいのか!? 沙彩はやっぱり女神! ありがとッ!」


そう言って一口食べる。


「んー、めっちゃ美味い!」

「本当? よかったぁ」


―――いいなぁ、二人共。

―――凄く仲よさそう・・・。


だが明日花からしてみれば、大好きな豊を振った沙彩に僅かながら敵意が生まれているのを感じていた。 

もちろん振ったからこそ涼太と仲よくできるのだが、まるで豊かに告白されたことなんて些細なこととでも思っているようにも見える。


―――もうちょっと申し訳なさそうにしても、いいんじゃないかな・・・?


そんな二人の姿を見て落ち込んでいるのではと、豊を横目で見たのだが、何故か二人を見て嬉しそうに笑っていた。


―――え、どうして笑っているの!?

―――豊は明日花のことが好きなんじゃないの!?

―――この光景を見たら普通は嫉妬しない!?

―――あぁもう、豊の気持ちがよく分からないよ・・・。


沙彩と話し終えた正面にいる涼太が小声で尋ねてきた。


「明日花、大丈夫か?」

「あ、うん・・・」

「全然箸が進んでいないけど」

「ちょっとね」

「食欲ない?」


チラリと豊を見る。 豊と沙彩は携帯で一緒に動画を見て笑っていた。


―――あれ、今度は二人共楽しそう・・・。

―――一体どっち?

―――豊の告白は成功したの!?

―――していないの!?


昼食を終えても二人は動画を楽しそうに見ていた。 どうやら動物の面白シーンみたいで、明日花も少し気になったがそこに混ざる勇気はない。 涼太がそれに気付き寄ってきて言う。


「・・・もしかして、妬いてる?」

「まぁ・・・。 そういう涼太は妬かないの?」

「俺? まぁ、あの二人が仲いいのはよく見る光景だし今更かな」

「あぁ、そっか・・・」


その先を口にしそうになり慌てて噤んだ。 絶対に言ってはいけない言葉がある。


―――豊は沙彩のことが好きって、涼太は知らないもんね。

―――知らない方がいいこともあるよ、うん。

―――私は言わないから安心して。


豊と明日花の間に何かしらあり、ギクシャクしているのを涼太も当然感じている。 そして恐らくは簡単に関係は修復できるような気もしていた。


「・・・やっぱり、こんな雰囲気だと駄目だよな」

「え?」

「早く空気を前のように戻さないと。 豊ともう一度話し合ってみるよ」

「あ、うん・・・。 行ってらっしゃい」


涼太は覚悟を決めた様子を見せ、この場を離れていった。



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