盗み聞きですれ違い!?⑤
豊視点
三限目が終わるや否や、糸の切れた人形のように豊は机に顔を突っ伏していた。 もう三限目が何の授業だったのかすら頭に残っていない。 それくらいに豊は明日花のことが本気で好きなのだ。
―――あー、本当に意味が分かんねぇ。
―――いつからだよ?
―――いつから明日花は涼太を好きになった?
―――もしかして今日から?
―――いや、それだとあまりに突然過ぎるか。
―――そうなるとかなり前から・・・。
四人でいつも一緒ならそういうことになってもおかしくはない。 豊も沙彩に対して何の感情もないと言えば嘘になる。 一緒にいて楽しいと思えば、相手のことを好意的に思うのは人として当然だ。
だが豊にとっては明日花に対する感情の方が大きく、かつ付き合っているという事実が頭で否定させているというだけのこと。
―――くそッ、どうして気が付かなかったんだ!
―――つか、涼太に告白をするならまず俺を振れよ!
―――俺は一体何だ!?
―――涼太に振られたら俺でもいいや、っていうキープ的な存在か!?
―――たとえそうだとしても、素直に理由を言ってきたら俺は応援するし!
と、考えてみたものの今そうなったところで応援などすることはできないと思った。 あくまで付き合う前なら、という条件付きだ。 だがそのようなことを考えるだけで涙が出そうになってしまう。
―――・・・でも涼太はどうなんだ?
―――明日花のことをどう思ってる?
―――あの二人、かなり仲がいいからな・・・。
考えていると教室のドアがガラリと大きな音を立て開いた。 そこから涼太が姿を現す。
「豊! たのもう!!」
「涼太!? どうしたんだよ?」
涼太は豊に近付くなり仁王立ちのまま言った。
「お前、明日花を泣かせたな!?」
「泣かせ? いや、何を言って・・・。 って、明日花が泣いてんのか!? 何お前、明日花を泣かせてんだよ!!」
「はぁ!? 泣いたのは俺が理由じゃねぇし! 豊のせいだろ!!」
「いや、どう考えても涼太のせいだろ! 俺は全てを知っているんだぞ!? このまま別れるのは当然嫌だけど、明日花が悲しむのだけは絶対に駄目だ! 明日花を泣かせんなよ!!」
「それはこっちの台詞だ! 明日花を泣かせるな!!」
言い合っていると注目を集め、更に喧嘩に発展しそうだと思ったのか沙彩が駆け寄ってきた。
「ちょ、ちょっと二人共! 落ち着いて!」
「ッ、沙彩・・・」
沙彩を見て涼太は冷静になる。 沙彩は流石操縦に慣れているのか落ち着かせるようゆっくり尋ねかけた。
「ねぇ、涼太。 明日花を泣かせるなってどういうこと? 何かあったの?」
「あ、いや・・・。 悪い、沙彩は巻き込みたくないんだ。 大丈夫だから心配しないでくれ」
そう言うと涼太は力なく笑い教室から出ていった。 正直何が何だか分からないが、明日花が泣いたというのだけはグサリと胸に刺さっていた。
―――明日花が泣いたということは、告白はもう終わったのか?
―――涼太は明日花を振ったということだよな?
―――それはそれで安心だけど、少し複雑なような・・・。
―――うわ、だったらもうどんな顔をして明日花と会えばいいのか分かんねぇわ。
豊は両手を机に叩き付けた。 だがそれでは収まらずもうどうすればいいの分からず放心してしまう。 そんな豊を見兼ねたのか落ち着かせようと思ったのか沙彩が豊の腕を引いた。
「ちょ、ちょっと!」
そのまま廊下まで誘導され肩を叩かれる。
「大丈夫? ボーっとしているけど」
「あぁ・・・」
「全然大丈夫じゃないじゃない」
「・・・」
「さっきの話だけど、明日花が泣いたってどういうこと? 涼太が何かをしたの?」
「いや」
「涼太が何かをしたなら私が代わりに謝る! ごめん!」
そう言って両手の平を合わせてくる。
「涼太の保護者かよ。 大丈夫だ、沙彩が謝る必要はない」
「でも・・・」
「だから大丈夫だって。 それに明日花が泣いた件については、涼太がちゃんと沙彩のことが好きだっていう証拠だから」
「・・・本当? どうしてそれに繋がるの?」
「俺は全てを知っているから。 俺を信じろ」
「でも、私を巻き込みたくないって・・・」
豊からしてみれば四人全員の関係が壊れバラバラになってしまうのが一番怖い。 最悪、明日花と別れることになってもそれだけは避けたかった。
―――それはそうだろ。
―――明日花は涼太のことが好きなんだから修羅場になるに決まっている。
―――涼太が明日花を振ったなら涼太と沙彩はもう大丈夫だと思うけど、俺たちはどうしよう・・・。
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