盗み聞きですれ違い!?④




明日花視点



時は少し遡り、二限目の終わった時の話になる。 明日花も豊と話の途中遮られてしまったことを気にしていた。 四人でカラオケへ行きたいという気持ちはあるが、豊の機嫌を損ねてまでのことではない。 逆の立場ならどうか? そう考えると、確かに自分も嬉しいとは思わないだろう。


「よし! 今から、豊と仲直りをしてくる!」

「おう、行ってこい! 明日花と豊なら絶対に大丈夫だから」

「うん、ありがとう!」


涼太に見送られながら豊のいる教室へと向かった。 だが、着いた途端目に入る光景に思わず隠れてしまう。


「わわッ!?」


豊と沙彩が真剣な表情で何かを話していたのだ。 距離も近い上にクラスメイトがただ談笑しているという雰囲気ではない。


―――あんなに近付いているから驚いたじゃん!

―――何の話をしているのかな?


悪いとは思いつつも、気になったまま離れることはできずこっそり聞き耳を立てる。 しかし、それが失敗だった。


「くどいことは言わずにストレートに言う。 好きだよ」


豊がハッキリとそう言ったのだ。


―――ッ・・・!?


その言葉を聞いた瞬間、思わずこの場から逃げ出していた。 廊下を走りながらも涙が溢れてくる。


―――豊は沙彩のことが好き?

―――え、嘘、いつの間に!?

―――私の何がいけなかったの?

―――我儘過ぎたから?

―――だからいい子の沙彩を好きになったの!?


思えば今朝から様子がおかしかった。 多少の不満を漏らすことはあっても、あそこまで四人での行動を嫌がることはない。

もしかしたら明日花から涼太と二人で行きたいという言葉を引き出すためだったのかもしれない。 そう思ってしまい、教室へ戻ると涼太に泣き付いていた。


「涼太ぁー!」

「うわッ!? そんなに泣いてどうしたんだよ? 仲直りはできたのか?」

「それ以前の問題だったの! だって、だって豊に・・・」

「・・・豊に、何?」

「新しい、人・・・」

「え、何?」


先程の光景が今でも頭に浮かんでしまい、それを振り払うように言った。 もちろん豊のことが嫌いになったわけではない。 今でも好きなのは豊であり、だからこそ真剣に涼太に聞いてほしかった。


「だから! 新しく好きな人ができたの!」

「はぁ!? 一体誰!?」

「そんなの、涼太には言えないよぉ・・・」


その時廊下から何か聞こえた。 二人の視線は自然とそちらへ向かうが何もない。


「うん? 今何か、物音がしなかった? ちょっと行ってきてよ」

「あぁ、見てくる」


明日花が泣いているのは気になったが、明日花に行ってほしいと言われれば断ることはできない。 時間もまだ大丈夫そうなため、涼太は廊下へ出て確認しにいった。


「特に不審なものはないな」

「そう、気のせいだったのかな・・・」


涼太が異常なしと判断し戻ってきて、まだ治まってない明日花の前に座った。


「それで、新しく好きになった人は言えないんだっけ?」

「うん」

「それはどうして?」

「・・・」


―――言えない。

―――言えるわけがない。

―――だって豊の好きな人は、涼太の彼女の沙彩なんだよ?

―――そんなの、本人を前にして言えるわけ・・・。


静かに泣いていると涼太が隣に来て背中をさすってくれた。


―――涼太、優しいなぁ・・・。


これで心移りなどはしないが、今はその優しさが有り難かった。 だが沙彩と豊が今何をしているのかと考えると気になって仕方がない。


「ねぇ、私はこれからどうしたらいいのかな?」

「でもまだ、新しく好きな人ができたって確定したわけではないんだろ? 聞き間違えの可能性もあるだろうし」

「そうだけど、でも、告白の現場を見ちゃったんだよ?」

「こ、告白!? そこまでいっていたのか? ・・・で、相手の返事は?」


その言葉に首を横に振る。


「分からない。 返事を聞く前に、逃げてきちゃった・・・。 というか、返事なんて怖くて聞けないよ!」

「んー、まぁ、そうだよなぁ・・・」

「ねぇ、私が振られるのも時間の問題だよね!? どうしよう!」

「落ち着けって。 とりあえずまずは、俺がガツンと豊に言ってやるから!」

「本当?」

「あぁ。 次の休み時間に俺は行ってくる。 明日花を放ってはおけないからな」

「ありがとう! 涼太大好き!」

「ッ・・・」


その言葉に涼太が頬を染めたのは、生物としての条件反射のようなものだったのだろうか。



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