盗み聞きですれ違い!?③
豊視点
二限目が終わってもやはり気にかかるのは先程の明日花とのこと。 もちろん四人での行動が嫌なわけではない。 今まではそうしてきたしそれが当たり前だった。
だが一度気になってしまうと、二人での時間が少ないことが目に付いてしまう。
―――あー、意味が分かんねぇ。
―――涼太と歌いたいなら、俺が付いていく意味がないじゃないかよ。
―――沙彩はどう思っているんだ?
―――四人行動が多過ぎる件についてずっと考えていたから、さっきの授業はまともに受けられなかったし・・・。
微妙な感じで話が終わってしまい余計モヤモヤとしている。 あれから当然ながら話す機会はないし、今なら隣のクラスへ行けるが何となく気が重い。
行って明日花と涼太が楽しそうにしていたなら、そこに割って入っていく気になれなかった。
「ねぇ、豊」
考え事をしていると沙彩がやってきた。
「どうした?」
「数学の課題、難しくてよく分からないの。 教えてくれない?」
「あぁ、分かった」
沙彩の席へと行き前の席に座って向かい合わせになった。 数学は得意なためこういった風に教えるのは珍しくない。 逆に暗記系科目は沙彩が得意なためテスト前に対策をしてもらったりする。
だが教えている最中、沙彩はどこか上の空で集中できていなかった。
「おい、大丈夫か?」
「え、あ、うん・・・。 さっき、明日花と言い合っていたけど平気?」
「え? あ、まぁ・・・。 そういう沙彩こそ大丈夫なのかよ? 人の心配ばかりしていないで、自分のことも考えろって」
「うん・・・」
「沙彩はどう思っているんだ? 四人で遊びに行くの。 本当は涼太と二人きりになりたいんだろ?」
「そりゃあね。 でも涼太は明日花といると凄く楽しそうだから。 涼太がいいなら、私もそれでいいかなって」
沙彩はいつもこんな感じだ。 自分の気持ちよりも他の人のこと優先する。
豊としてみればそんな複雑なことではなく、自分がそうしたいから沙彩がそう思ってくれたら単純に別行動できるというだけなのだが。
「だから自分の心配をしろって言っているだろ・・・。 あ、そういや朝に言いかけていたことは何なんだよ?」
「あ、うん・・・。 少し気になることがあってね」
「何だ?」
「凄く言いにくいんだけど・・・。 もしかしたら涼太は、男性も恋愛対象に入るのかなって」
大真面目な顔をして突然そんなことを言うため、豊は大袈裟に驚いてしまった。
「はぁ!? どうしてそうなるんだよ!」
「だって、あんなに男性アイドルを好むから」
「アイドルは別物だろ」
「それは、そうかもしれないけど・・・」
だがあまりにも深刻な表情をしているため、豊も不安になってくる。 もしそうなら自分も、と考え首を振った。
付き合っているからこそ分かるということはあるのかもしれないが、少なくとも自分はそんな風に思ったことはない。
「そんなに心配なら改めて自分の気持ちを伝えてみたらどうだ?」
「どういう風に?」
「くどいことは言わずにストレートに言う。 『好きだよ』 ・・・とか?」
沙彩が深刻そうにしているから豊ももちろん大真面目に言った。 沙彩は自分の気持ちを押し殺している可能性がある。 だがその時廊下から物音が聞こえ、目を向けると明日花が背を向け走り去っていた。
先程のことをもう一度話すいい機会を逃すわけにはいかない。
「明日花!? あんなに焦って一体何があったんだろう。 悪い、俺見てくる!」
「あ、うん・・・」
沙彩を置いて明日花を追いかけた。
「あす・・・。 うわッ!?」
隣の教室へ着いて中を覗き込んだ瞬間、明日花が涼太に抱き着いているところを目撃してしまったのだ。 何故か分からないが見てはいけないものを見てしまったという罪悪感に駆られ慌てて身を潜める。
―――って、どうして俺は隠れてんだよ!
二人の会話に聞き耳を立てた。 そこでとんでもない言葉を聞くのだ。
「だから! 新しく好きな人ができたの!」
「はぁ!? 一体誰!?」
「そんなの、涼太には言えないよぉ・・・」
―――ッ・・・。
その言葉を聞きこれ以上ここにいられなくなり教室へ走って戻った。 その様子に沙彩が駆け寄ってくる。
「豊? どうかした?」
「え、あ、いや・・・」
―――新しく好きな人ができた・・・?
―――涼太には言えない、って・・・。
―――それはそういうことだろ!?
―――そういうことだよな!?
―――完全に明日花の心は涼太に移ったということじゃねぇか!
―――そりゃあ確かに涼太には言えないよなぁ・・・。
―――もちろん沙彩にも。
沙彩が覗き込んでくる。
「明日花に何かあったの?」
「まぁ、色々と・・・」
「それは大丈夫?」
「・・・」
―――畜生。
―――明日花の心を知ってしまった俺は、これからどうしたらいいんだよ。
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