第28話 懐かしくて泣きそうです……!

「何度やってもこうなんだ。先生に次までに自分で考えておけって言われて、考えてはみたけどこの通りだ。……感情を歌に、どうやって乗せればいいんだろう」


 感情を歌に乗せる……言われてみれば、答えることができません。


 そもそも私がプロのボイストレーナーではないのもあるし、灯里様にどうアドバイスすればいいかも……。


「んー、そうですね。じゃあ僕も歌ってみていいですか? 何か手助けになるかも。トモリはそこで聞いていてください♪」


 紗貴様はレッスン室の中心へと移動します。そして持っていたラジオのボタンを押し、歌い始めました。


 その歌声に──思わず、泣きそうになりました。


 だってその歌い方は、ゲームでの彼そのもの。


 なんて言えばいいのでしょう……凄い、あざとく、自分の魅せ方を分かっている歌い方で、でも上品さもありかっこよさもあり、ゲームで何度も聞いた歌い方だったのです。そして何よりそのショタボ。


 曲は違うものの前世で何度も彼の、彼らの歌を聞いていたことを思い出して、思わず感動で視界が潤みます。


 歌い終えて、私達の拍手を受けた紗貴様は、私を見て困惑した顔になります。


「え、なんで泣きそうになってるんですか」


 いつもの彼らしくない、思わず素が出てしまったみたいな言葉に、また涙腺が緩みそうになりました。


「あの、その、なんというか……感動して……」

 

「えぇ……?」


 紗貴様も困惑している様子です。まぁ普通はそうでしょう。


 バラードでもなく、かなりポップな曲調で、泣けるタイプの曲じゃなかったのですから。


「紗貴もそんな反応するんだな」


 灯里様のそんな何気ない言葉に紗貴様はハッとなりました。


「……やだなぁ、ボクも驚くくらいしますよっ。それよりも、どうでした? ボクの歌」


 一瞬焦った様子ですが、さすが紗貴様。本当に一瞬で普段通りの様子に切り替えて、灯里様に抱きつきました。

 

 かわ……っ! カメラ! 誰か私にカメラを!! あ、スマホで撮ればいいですね!?


 思わずスマホを構えそうになる腕を抑えながら、二人の様子を眺めています。


「どうって……上手かった。嫌味か? そんなに上手いのに僕に聞くなんて」


「そんなことないの、トモリが一番分かってるでしょう? どうって言葉には気づくことがあったかって意味も入ってますよ」


 紗貴様の言葉に、灯里さまはうーんと首をひねります。ちなみに抱きつかれたままです。かわいい。


「そろそろ離れろ、暑い」

 

 そう紗貴様は引き剥がされてしまいましたが。


 あぁ、シャッターチャンスがぁ……!


「気づくこと、か。そうだな……綺麗だった。真っ直ぐで、揺らぐことがなくて、上品さもあって。紗貴は凄いな。」


 その言葉に、紗貴様は顔を下にそらします。


「……ありがとうございます」


 その乳白色の耳は赤く染まっていて……もしかして、照れていらっしゃる!?


 いつもあんなに可愛く余裕有りげで、そんな表情見せたりしないのに!? ギャップですか!?


 はわっ、可愛すぎませんか……!?

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