第27話 問題点発見です?

「紗貴様は……」ここまで出てきて詰まってしまいます。


 この先は完全に私の好みの問題かもしれないので言っていいか迷ってしまうんですよね。


 ……でも。


「その、我流すぎる気がしました。あの、紗貴様らしい良い味は出しているんです!!あの踊り方は紗貴様しかできないと思います!

……けど、曲調がポップなので、ダンスとちょっとミスマッチだった気がするというか……もっとはっちゃけていいと思いました」


 言っているうちに何様なんだお前って気がしてきて、思わず紗貴様から目をそらしていってしまいます。


 けれど、紗貴様は空色の目を私に合わせて、真剣に話を聞いてくださっているようでした。


「……へぇ、たしかにこれはトモリに……──」


 ボソッつぶやかれた言葉は聞き取れませんでしたが……トモリって聞こえたような……?


「分かりました。次からはもっとはっちゃけるよう意識してみます。

……それでトモリ! ボク達は言ってダンスはあと、細かい所の修正ぐらいじゃないですか。だからどちらかといえば歌とダンスを合わせたり、歌の練習の方が必要なんじゃ?」


「……ああ、そうだよな」


 灯里様はどこか苦みを含んだ声で返しました。

 

 いえ、普通を装ってはいたのでしょうが……。


 紗貴様はきょとんとしたあと「どうかしたんですか?」と返します。


 ……どうしたんでしょう?


 灯里様が歌が苦手とかいう描写はゲームでは全くされていませんでした。


 むしろ声優さんの歌の上手さもあって、歌の面でもかなり人気があったのですが……。


「……いや、なんでもない。やろう」


 そう言って、灯里様がラジオのボタンを押すと伴奏が流れ、歌い始めます。


 彼の綺麗な声がレッスン室に響き渡り──その歌声に違和感を覚えました。


 あー……これは……。

 

 音程はあっていて声も出ています。


 けど固いというか、微妙。棒読みみたいで歌詞が入ってこないというか、思いがこもってない……?


 歌っていた途中、灯里様はチラリと私を見て、歌うのをやめました。そしてため息を吐きます。


「だから聞かせたくなかったんだ……。自分でも分かってる。……何度やっても、思い通りにならない」


 私の微妙な表情を見てのことでしょう。灯里様は完璧主義の気があります。自身で納得できない歌を私達に見せたくなかったのでしょう。彼の顔は先程踊っていたときとは打って変わって沈んでいました。


「す、すみません! 灯里様の歌が下手だったわけじゃ……」


「取り繕わなくていい。素直に言ってくれ。僕の歌はどうだった?」


 その真剣な眼差しに私の心は揺さぶられました。ああ、やっぱりこの人はどこまでも真っ直ぐだ。本気なんだ。


「灯里様は……」


「トモリの歌には抑揚が足りないと思いました。ずーっと真っ直ぐだから物足りないのかもしれませんね」


 紗貴様は私の言葉を遮り、ニコッと笑いながら言いました。抑揚は……確かに足りないと思います。でも何より……。


「あの……感情が乗ってないような、棒読みみたいに感じました」

 

 「あぁ……」と、やっぱり、といった表情で灯里様は頷きます。


「それは先生にも言われた。思いが乗ってない、それはただ歌詞を読んでいるだけだ、って。だけど……僕はこれでも感情を込めて歌っているつもりなんだ」


 感情を込めてあれなのかぁ……と、失礼にも私は遠い目をしそうになりました。


 いや、だって、正直に言えば、抑揚も全くつけずに機械みたいにただ真っ直ぐ歌ってるだけに聞こえたんですもん……。

 



 



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