ⅩⅩⅩ 次の旅路へ(2)
「――ったく、海賊にならねえかって誘われて来てみりゃあ、なんだ? この
この、なんだか口の悪い、加えてお育ちも悪そうな言葉遣い……これはたぶん、〝ジュオーディンの怪物〟ことサンマルジュ村のリュカ君だ! それにその話しぶりからすると、どうやら声をかけた全員が来てくれたみたいである。
「時代錯誤とは失敬な! これこそが騎士のあるべき姿にござる!」
「そうですよ! 確かに旦那さまは時代錯誤ですが、せめて古風とか古式ゆかしいとか歪曲表現をしてください!」
そんなリュカ君に文句をつけているのは、もとエルドラニアの騎士ドン・キホルテス・デ・ラマーニャと、その従者サウロ・ポンサ君だろう。
「へいへい。そりゃあ悪うござんした……ま、古めかしい騎士と従者はまだいいとしてよ、そっちの小娘二人はどう見ても海賊なんて無理だろ? なんでこんな役にも立たねえガキまで誘ってんだよ?」
「役二立たないトハなんとも失礼な奴ネ。そんなに言うナラ、アタシの力見せてやろうカ?」
「まあ、わたしは確かに錬金術ぐらいしか取柄ないけど……あ、でもゴリアテちゃんはとっても強いよ?」
続けて小バカにするリュカ君へ抗議をしたのは、
「ごりあて? なんのことだ? そういう魔法少女ごっこかなんか設定か? ……ま、ともかくもだ。これは遊びじゃねえ。ガキは怪我しねえうちにとっとと家へ帰ん…うごはぁっ!」
それでもまるで取り合おうとせず、なおも上から目線に偉そうなことをいうリュカ君だったが、突如、ドフッ…! という鈍い音がしたかと思うと、彼の断末魔の叫び声が響き渡る。
おそらくは露華
「…うぐぅぅ……い、いきなり何しやがる!? 俺が
「アイヤー! 今の一撃二耐えるトハ、オマエ、トンデモなく頑丈ネ!」
なんとか一命は取り留めたらしく、声を荒げるリュカ君の生命力に露華
「クソ、バケモノか……その顔立ちからして東方かどっかの民らしいが、てめえ、見た目はガキでもただのガキじゃあねえな? だったら遠慮はいらねえ。
「子供扱いするから実力ヲ見せただけネ……て、なんネ!? その姿!? オマエこそバケモノだったネ!?」
いきなり殴られて文句をつけるリュカ君に、またも露華
「なっ…! 貴様、魔物の類であったか! サウロ! ヴァンパイア退治用の剣だ!」
「は、はい! 旦那さま! ……って、そんな剣はさすがにありません!」
また、ドン・キホルテスも驚愕の言葉を口にし、彼のために様々な刀剣類を持ち歩いている従者のサウロ君に無理な注文をしている。
「きゃぁぁぁーっ! 狼男ぉぉぉーっ!」
さらにマリアンネ嬢の悲鳴も聞こえているが、きっとリュカ君が大人げなくも
「ゴリアテちゃん! 助けてぇぇぇーっ!」
「ガルルル…ん? んごはあぁぁぁーっ…!」
続く助けを求めるマリアンネ嬢の声に、再びリュカ君の断末魔の叫びがドアの向こうで響き渡る。
「…ぐはぁっ……ま、マジでお花畑が見えかけたぜ……な、なんなんだ!? そのバカデケえ土人形は!? それ、動くのか!? この部屋の調度品じゃなかったのかよ!?」
ああ、たぶん、マリアンネ嬢の求めに応じ、彼女が父から譲り受けたゴーレム 〝ゴリアテ〟の巨大な剛腕がリュカ君を殴り飛ばしたのだな……。
「なんと! 今度は巨人が出おったぞ! 民草に犠牲が出る前にここで退治してくれん! サウロ、〝ツヴァイハンダー〟だ!」
「はい! 旦那さま!」
「またバケモノネ! ここハ化物屋敷カ?」
すると今度は動き出したゴーレムに、ドン・キホルテス主従は巨人が現れたものと勘違いをし、露華
「いやあ、盛り上がってるねえ! みんな来てくれてうれしいよ!」
これ以上放っておくと宿にも甚大な被害が出そうなので、僕は勢いよくドアを開けると、みんなを制止する意味も込めて高らかに声をかけた。
「・・・……………」
突然の僕の登場に、皆、そのままの格好でこちらを向いて固まっている。
リュカ君はすっかり銀毛に覆われた人狼の姿となって、鋭い牙も剥き出しに周囲の全員を威嚇し、桃色のカンフー服を着た露華
「……あぁぁぁ〜っ! マルク・デ・スファラニア!」×5
一拍の後、固まっていた彼らが僕を見て、同時に大声をあげた――。
「――というわけで、ここにいるのが新たに立ち上げる僕らの一味の団員すべてだ。いやあ、一人も欠けることなく来てくれてほんとよかったよ。じつは来てくれないんじゃないかと心配してたんだ」
それから全員をなんとか円卓の席につかせ、みんな魔物でもバケモノでもなく、僕がスカウトした団員であることを説明すると、軽く各々自己紹介もしてもらった。
「ま、もう自己紹介もいらなかったくらいだけど、あらゆる刀剣を操る騎士の主従に、かつてフランクル王国を震撼させた伝説の人狼、最強の拳闘士だった東方の武術家少女に、天才少女錬金術士とその従順なる
「ま、戦闘に関しちゃあ心配いらねえことは充分よくわかったぜ……それ以外にはいろいろと問題がありそうだがな……」
全員が揃ったうれしさのあまり、やや興奮気味に僕がそう言って話をまとめようとすると、リュカ君がぽつりと呟いて、他のみんなもうんうんと頷いてみせる。
やっぱり、なんだかんだ言ってても、みんな意見が合うらしい……。
まあ、各々個性が強すぎるし、今は初対面で多少ギクシャクしているかもしれないが、さっき様子を窺ってた感じだと皆の相性は良さそうだ。
これからみんなで同じ一つの船に乗り込み、長い時間を一緒に過ごすこととなるが、一月後、新天地へ着く頃にはきっと良い
「じゃ、そんなわけで、さっそく明日の昼、必要な物資を買い出しして船に積み込んだら、夜が明ける前に新天地へ向けて出航だ。エルドラニアの衛兵や警備艇に見咎められてもなんだからね。でもまあ、今夜は新たな海賊団の結成祝いにパーっといこうじゃないか! 宿の食堂で一席設けよう」
とりあえず話がまとまると、船出の予定についてみんなに知らせた後、宴の席へ移動するため、僕は椅子から立ち上がる。
「おお! 酒か。そいつは願ってもねえ……けどよ、まあ、酒が飲めりゃあなんでもいいんだが、祝うにしても、その俺達の海賊団に名前ってのはねえのかよ? 名前がなきゃしまらねえぜ?」
すると、宴と聞いて喜びの声をあげつつも、リュカ君が一味の名前のことについて触れてくる。
「うむ。確かに。名は体を表すというからな……〝ラマーニャ騎士団〟というのはどうでござろう?」
「ああ、それいいですね! 旦那さまの家名復興にも繋がりそうです! なんならもっとストレートに〝ドン・キホルテス騎士団〟でも!」
「いや、ここはやっぱし代表的な俺様を前面に出して〝餓狼会〟とかどうだ?」
「来々軒…イヤ、〝陳来軒〟て店名ハどうネ?」
「え〜もっとカワイイのがいいなあ……〝ゴリアテちゃんと愉快な仲間達〟とか?」
それにはドン・キホルテス、サウロ主従も興味を示し、やはりみんな自己主張が強いようで、彼らをはじめとして各々から様々な意見がポンポンと出される……みんな、海賊というものをなんか誤解してそうだけど。
「いや、悪いけどもう名前は決まってるんだ。確かに名は体を表すからね。言い出しっぺの僕が決めさせてもらったよ」
だが…というか、当然、それらをすべて却下すると、後で発表しようと思っていた新たな一味の名前を、この際だからお披露目することにする。
「ああ、そうだ! 海賊旗も作ったんだ。ちょっと待ってて……ほら、これさ」
加えて海賊旗のことも思い出したので、僕は肩掛け鞄の中から畳んだ黒い布を引っ張り出すと、それを円卓の上に広げて見せる。
「これは……」
その黒い生地の表面に白で描かれた図像を見つめ、皆が息を飲んでいるのがわかる……どうやら、
そこには、額に鍵穴の開けられた髑髏の下に、交差する二つの鍵が描かれている……。
「僕らがこれからやろうとしているのは、禁書である魔導書を秘匿する権力者から奪い、それを広く世に公開する海賊だ……だから、僕ら一味の名は〝禁じられた書物を開ける秘密の鍵――禁書の
その自分達を象徴する不気味かつ神秘的な海賊旗を真っ直ぐに見つめ、僕は自らの決意を宣言するかのように、そう、新たな一味の名を仲間達に力強く告げた。
(El Príncipe Mago Errante ~彷徨の魔術師王子~・El Pirata Del Grimorio/CERO Episodios :Marc 了)
そして、彼らの本当の旅が始まる……。
〈本編〉
・『El Pirata Del Grimorio ~魔導書の海賊~』へ→
El Príncipe Mago Errante ~彷徨の魔術師王子~ 平中なごん @HiranakaNagon
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