ⅩⅩⅩ 次の旅路へ
ⅩⅩⅩ 次の旅路へ(1)
それより約一年の間、僕は世に埋もれた魔導書を探しつつ、エルドラニア領内をはじめ、隣国フランクル、神聖イスカンドリア帝国内の領邦や自由都市…と方々を巡り、僕の野望に賛同してくれそうな幾人かの人物に声をかけると、もしも一緒に海賊をする気がある場合は、一年後の四月の新月の夜、ガウディールにある宿屋〝宝島亭〟に集合するよう伝えておいた。
そして、今日がまさにその日なのだ。
「――さあて、どれだけ来てくれてるかなあ……」
その日の夕刻、一年にのぼる長旅からガウディールへ戻った僕は、ドキドキしながら港に面したその宿屋へと向かった。
待ちに待ったこの日の到来に、期待に胸が躍る反面、誰も来ていなかったらどうしようという不安も感じてしまう。
「確かここでよかったよな……」
軒先に下がる〝ガレオン船〟の描かれた木の看板を見上げ、僕は曖昧な記憶とそれを照合する。一年前に一回訪れただけなので、さすがに自信がないのだ。
「うん。たぶん合ってる……ごめんくださーい!」
「ああ、いらっしゃーい」
そして、カランカラン…とドアに付けられた鈴を鳴らしながら中へ入ると、併設の飲み屋となっているその入口フロアのカウンターで、ずんぐりむっくりなオヤジさんが挨拶をした。
まだ時間が早いためか他に客はおらず、ガランと静まり返った店内にはオヤジさん一人だけだ。
「あのう…一年ほど前に予約したマルクという者なんですけど……憶えてますか?」
そのなんとなく見憶えのある宿の主に、僕はおそるおそる尋ねてみた。
やはり、いかんせん一年前だ。オヤジさんの方もすっかり忘れている可能性だってありえる。
「ああ、もちろんだ。兄ちゃんほど歳の若けえ
すると、オヤジさんはパッと明るい笑みを浮かべ、大仰な身振り手振りを交えてそう答えてよこす。
よかった。ちゃんと部屋を取っておいたのを憶えていてくれたようだ……ああ、僕が海賊であることは向こうにバレバレだが、何も問題はないので心配はご無用だ。
この〝宝島亭〟、新天地の海賊業界ではよく知られた店で、海賊や盗賊、お尋ね者なんかの脛に傷を持つ輩御用達であり、エルドラニアに用のある時は密かに利用する宿だったりするのだ。
僕もその話をキッドマンやメジュッカ一家のルシアン親分から聞いており、今回、先達に倣って使わせてもらった次第である。
「もう、連れのお客さん達なら来てるぜ? 言われてた通り、部屋に通して待ってもらってる。一番奥の〝龍の
続けてオヤジさんはそう言うと、カウンターの横にある、客室へと通じる廊下の奥の方を立てた親指で指し示す。
……そっか。それを聞いてさらに安心した。少なくとも声をかけた内の誰かは来てくれているようだ……。
「しかし、変わった連中だねえ。なんだい? 旅芸人の一座でも始める気かい?」
重ねて僕が内心安堵していると、オヤジさんがどこか怪訝な顔をしながら、今度はそう尋ねてくる。
旅芸人……いったい誰と誰が来てくれているのだろう? まあ、言われてみれば確かにみんな、ちょっと変わった人物達ではあったけど……。
「まあ、そんなところです。じゃ、さっそく僕もお邪魔させていただきます」
仔細あってスカウトした新しい一味の団員です…と一々説明するのも面倒だったので、僕はそうはぐらかすと、自身も廊下を奥の方へと入ってゆく……。
蝋燭の仄かな明かりが灯る、薄暗い夕闇に包まれた廊下をゆっくりと進みながら、いったい誰が来てくれているのか? と、またも僕は心臓をドキドキさせる。
この宿屋は屋号の〝宝島亭〟にちなみ、〝骸骨島〟だの〝遠眼鏡の山〟だの〝髑髏の右目〟だの、宝の隠された島の地図に記されていそうな、象徴的地形表現っぽい名前が各部屋に冠されているらしく、廊下を一番奥の突き当りまで進むと、オヤジさんの言っていた〝龍の
と、その部屋へ近づくにつれ、何やら幾人かの話し声がその部屋の中から聞こえてくる。
「どれどれ……」
いきなりドアを開けるにはまだ心の準備ができていなかったので、僕はそのドアに耳をつけると、室内の様子を探ってみた――。
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