七話 「初めての共同作業について」
調査を一緒にだって?
「いやいや、意味わかんないっす」
「意味はそのまんまだよ」
「そういうことじゃなくて……」
「まず、クラスメイトだよね?」
怒ってはいないだろうが、少し強めの口調で話し始める。
「そうですけど」
「それ! それだよ! どうして敬語なの!」
「た、確かに」
全く考えてもなかったことを言われ動揺が隠せないが、無意識に敬語で話していることに今更自分でも気づき納得する。
こんなにも人と会話をしたこと自体が久しぶりのことだったから、人との会話方法を忘れてしまったのだ。あれ? 同級生とどう話すんだっけ?
「だから、これからは敬語禁止!」
「禁止……、これって束縛ってやつじゃ」
「そ、束縛!?」
彼女は束縛というワードに敏感に反応し、顔を赤らめる。
この人はいったい何に対してこんなにも顔を赤くしているのだろうか。俺なんかまずいことでも言ったのかな。
それにしてもこの恥ずかしがる白鷺さんもかわいいな。
自分の鼻が少し伸びるのを感じる。
「と、とりあえず! ため口でいいから! あと、束縛じゃないから!!!」
「は、はい」
彼女の気迫に押され、はいと返事をしてしまう。
まあ、悪いことではないからいいんだけど。
「決まりね、それで調査だけど、どうしようか」
「いや、やるとは言って……」
「ここまで調べてあとは丸投げ?」
え、なに? これ強制参加イベントなの? しないルートはない感じのイベントなのか?
「じゃあ、」
あることを思いつく。
「調査は俺一人でやります。これなら文句ないでしょう?」
確かにここまで調べて丸投げはよくなかった。ここまで調べたなら責任をもって最後までやり遂げなければ、男が廃るってもんですよ。
「敬語。あと、私もやる。」
「調べたのは俺ですし、ここは最後まで……」
「け・い・ご!」
語気を強めて言い寄られる。
なんていい匂いなんだ。これがJKの香りなのか。目を閉じれば周りには花畑が連想できそうだ。あと……。
胸も意外と……。そこまでダイナマイトとは言えないが、この細い体からすれば十分にデカいといえるだろう。
さっきとはお話にならないくらいに鼻の下が伸びる。
「ど、どこ見てるの!」
彼女もすぐに距離を取り、胸を隠すようなポーズをとる。そして、顔を再び赤らめている。
「やっぱり、犯人は迫川君なんじゃ」
さっきよりもゴミを見るような目で見てくる。
「ご、ごめん」
いや、謝るけどね? でも、ああやって言い寄ってくるのも悪くないですか? 他の男ならすでに一線を越えていてもおかしくない破壊力だったといっても過言ではないだろう。
「まあ、本当に違うんだろうけど」
「本当に違いますよ」
「だから、なんで敬語なの?」
なぜだろう。癖づいてしまったのか、自分では意識しないうちに敬語になってしまっている。人間とは不思議なもんだ。
てか、なんで白鷺さんは本当に違うって言いきったんだ? さっきの表だけで信じてくれたってことか?
「ど、どうして、俺じゃないって思うの?」
「じゃあ、迫川君なの?」
白鷺さんって意外と気が強い人なんだなぁ。まあ、ほんの昨日知り合ったばっかりなんですけどね。
「違い、うけど、この表で信じてくれたってこと?」
「それもあるけど、制服、盗んだ犯人ならまず、今着ていることに驚かないのかなって思って」
「あー」
確かに、驚くはおろか、気付いてすらなかったからな。
名推理に感嘆の声を上げる。
「私の席に座ってるのは意味わからないけど」
「いや、それは!」
この先の言葉が出ない。
言ってしまってもいいのだろうか。今まで一人で抱えてきた悩みに、今更になって他人を巻き込んでしまってもいいのだろうか。白鷺さんにこの能力を知られてどう思われるだろうか。まず、馬鹿にされて終わるだろう。誰がこんなのことを信じるってゆうんだ。
色々なことが、頭を遮る。
今は、やめておこう。
「それは?」
「なにも、ない」
いつもの下を向くフォルムに戻る。
俺、さっきまで前向いて人と話していたのか。そんな当然なことに気づかされる。
「まぁ、いいけど。とりあえず、調査、一緒によろしくね!」
「いや、」
その時、
ガラガラガラ!
教室の扉が開き、クラスメイトが入ってくる。
とっさに慌てるようにして、彼女に背を向ける。そしてそのまま距離を取り、自分の机にへと戻っていく。まるでさっきまで話していたのが嘘であるように。
後ろを振り返ればきっと、白鷺さんは顔を真っ赤にしているだろう。さっきまでとは違う理由で。
それがわかっていても白鷺さんの方を見ることはできなかった。そうしてでも俺は目立ちたくない、リスクを犯したくないのだ。
それに、白鷺さんとこんなクラスで名前も憶えられていないようなクラスのオブジェと会話しているのを見られて噂でも立ったら、白鷺さんにも迷惑が掛かる。
そんな言い訳じみたことも交えつつ、一限目の授業の準備を始める。
教室の雰囲気的に噂は立っていないだろう。この自慢の空気鑑定眼を持ってしても問題はなさそうだ。空気なのに眼はおかしいだろ、とかいうツッコミは置いておいてだ。
こんな状態で放っておいてはくれないだろう。しっかり話して分かったが、結構気が強い。昨日の感じだと全然そんな風には感じなかったけど、ため口強要してくるあたりを見ても気が強いのは間違いないだろう。これがギャップ萌え?
さて、逃げるか。
ゲスの極みではあるだろうが、逃げても俺一人ではしっかりと調べるつもりだ。白鷺さんが言うようにこんな中途半端なところで投げ出すつもりはない。
そうとしているうちにあっという間に一日のカリキュラムを終え、放課後になってしまう。
昼休み中や授業中に、何度かものすごい視線を感じた気はするのだが、それも華麗に無視をした。昼もいつもなら教室だが、校舎裏の花壇があるところでボッチ飯を堪能したりなんかして今に至る。
さて、逃げますかと。
帰宅してよしの合図が片岡先生から出されたことを確認して、教室を出ていく。
そもそも調査は続けるけど、一緒にやるだなんて一言も言ってないんだ、これは妥当な逃走だ。
妥当な逃走とは? という疑問を抱えつつも、いつもより早歩きでなるべく目立たないように廊下を進んでいく。
よし、付いてきてないな。後はここで靴を履きかえれば俺の勝ちだぜ!
すぐに追いかけてくると思ったが、意外にも追いかけてこなかったな。これも俺の逃走スキルが優秀が故なのかもしれないがな!
完全に勝ち誇った気分に舞い上がる。
余裕の風格で上靴から外靴へ履き替えて、今度はいつもと同じ速度で歩き始める。
完全勝利だ、と確信していたが、まぁそんなことは実際ある訳もなく、校門を出ようとしたタイミングで引き留められる。
靴を履き替えるまでは完全に逃げ切ったと思ったのだが、校舎を出たくらいで白鷺さんが猛ダッシュで来るのが見えたので、諦めたのだ。だから、いつもと同じ速度で歩いたのだ。変に逃げて家の方までつけられる方が面倒だ。
「どうして、先に帰るの?」
「いや、やるとは言ってない……」
「犯人じゃないんだよね?」
「違いますよ」
「だよね」
なにかを企んでいるよだ。
「大きな声で叫んじゃおうかな」
「え」
ここにきて、一番されたくないことを言い出されてしまい、思考が停止してしまう。
「大きな声で叫ばれるの嫌だよね? 目立ちたくないんだよね?」
俺が彼女を知っていくのと同時に彼女も俺を知っていっているということか。俺のされたくないことを完璧に把握してやがる。
「嫌です、ごめんなさい。叫ぶのだけはやめてください」
「よろしい。じゃあどっか行こうか」
「公園とかでお願いします。あと、人があんまり通らないところでお願いします」
カフェとか連れていかれたらたまったもんじゃない。見られて変な噂を立てられても最悪だし、そもそも人が多すぎる。
ってか、友達多そうだけど暇なのか?
ブラックな世界で君はどう人を愛しますか? セセラギ ダイキ @dk18
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