時は戦国~或る老剣豪の憂鬱~

カント

本編

「我が国は優秀な武人を求めておる」


 相対する男が告げた。


「報酬は望むままだ」


「もう引退したんですよ、私」


「ならば」


 男が懐に手を入れる。直後。


 短刀を取り出――せぬまま、男は倒れた。


 私は納刀する。殺意を感じた瞬間に抜剣。手慣れたものだ。


 と、その時。


「頼もう!」


「ええ……」


 私は顔をしかめた。


 表に出る。


「いま立て込んでて……」


「主命により貴殿を登用に参った!」


「もう引退したんで……」


「逆らうか! なれば!」






「また墓造りかァ」


 玄関口で倒れた男を見つつ嘆息する。


 辞職して一週間。方々から来る強引な使者で、もう裏庭の墓の数は二十を超えた。


「隠遁生活って大変だなァ」


「頼もう!」


 新たな声の登場に、私は独りうな垂れた。


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