第26話 東の魔術③
「俺の魔術は『過程を省略し、結果だけを創り出す魔術』だ」
「過程を……省略する?」
「そうだ。たとえば瞬間移動なら、『移動する』という過程を省略し、『移動した』という結果を創り出せばいい。過程のない移動、すなわちそれは瞬間移動だろう」
「じゃあ、さっき人形を一瞬で斬ったのも……!」
「そうだ。『斬る』という過程を省略し、『斬った』という結果を創ったわけだ。防げなかったのも無理はあるまい。なにせ魔術発動と同時に、攻撃が完了しているのだからな」
即ち、東の魔術は『瞬間移動』ではなく、『瞬間行動』である。千本の剣は『剣を作った』という結果を生み出したもので、怪我を治したのは、『完治した』という結果を創り出したものである。今までの全ては、東の偉大なる魔術の一部にすぎない。
「待て! それでもレベル100はおかしいぞ! 玄翁女帝様じゃあるまいし、どうやったらそんな急成長ができ……」
そこまで言いかけて、リチャードの口は固まった。冷たい汗が滝のようにリチャードの首から流れ出す。
「まさか……修行過程までも省略したのか……⁉︎」
「ご名答。『修行後の結果』を創れば造作もないことだ。最初は一秒後の結果しか創れなかったんだけどな。毎日毎日、修行過程を省略し続け、気がついたらレベル100になり、一年後の結果を創るまで成長していたんだ」
無論、一年かけても実行できないことは東の魔術を発動させても結果を創ることはできない。たとえば、『歩いて世界一周する』や、『一人で家を建てる』といった行為がそれに該当し、これらを行うために魔術を発動させても不発に終わる。
あるいは、『ジャンプして宇宙まで飛ぶ』や、『裸で深海まで潜る』など、身体能力的に不可能なことも省略することはできない。
「そんな……そんな反則級の魔術、ノーリスクで発動できるはずない! 魔術というのは反動ありきの現象だ! 火の魔術は火傷のリスクと隣り合わせで行うものだろう! それなのに貴様だけ反動がないなど、どう考えてもおかしい‼︎」
「……安心しろ。この魔術にも反動と呼べるものはある。もっとも、俺には効かないけどな」
「なに?」
「この魔術は行動をスキップするんじゃなくて、早送りするものらしくてな。一年分の行動を省略したとしても、肉体は一年分時間が経過したことに変わりはない。当然の帰結として、魔術を使うたびに寿命が一年縮んでしまうんだ」
東は多少誤認しているが、この魔術は結果の創造、いわゆる未来への干渉といった時間の改ざんを行うものではない。魔術というものは、魔力でできていないもの——時間のような概念的なもの——に干渉することはできない。
改ざんするのは自身の肉体、すなわち体内時間の加速である。東の魔術が発動すると、術者の体内時間が加速し、肉体が一秒を一年間の長さに感じることになる。この間、行動も加速されるため、運動の始点から終点までの所要時間も一年から一秒になる。
要は、体内のみを外界の時の流れから切り離し、未来化を加速させるのが東の魔術の正体である。
しかし、いかに外界で流れた時間が一秒であっても、肉体が感じた時間は一年である。すなわち、肉体は行動した分だけ歳を取ることになるため、使う度に寿命が縮むのである。
「じゃあ、貴様はなぜそんな若々しくしていられるんだ……?」
それを聞くと、東は心底愉快そうに微笑んだ。
「俺は召喚術により、異世界から呼び出された転生者。俺の体に寿命という概念は存在しない。定命のお前なら死に繋がるような魔術も、俺ならばノーリスクで扱える」
「は……? いせか……? え?」
「お前には関係のない話だ。さぁ、最後の時間だ。
「助けて……助けてぇ! 玄翁女帝様ぁぁぁ……‼︎」
面倒くさがり屋は時間をかけすぎることを極端に嫌い、無駄な努力を激しく疎んだ。ならばこそ、無駄な行動を全て省き、効率のみを極めて最強の結果を創る。結果が同じならば過程や手段の是非は問わない。集中力の保つ限られた時間に、事の全てを成し遂げる。それこそが、面倒くさがり屋が最強になる方法に他ならない。
そんな東の信念が形となり、現実に反映させたものがこの力、『結果だけを創り出す魔術』である。
———故にその名を。
「これが俺の魔術、≪
不可視にして不可避の斬撃が、今度こそリチャードの肉体を木っ端微塵に斬り裂いた。
面倒くさがり屋が世界最強になる方法 夏野漣 @green510
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