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katatsumuri
第1話 夜間面接
ドアを開けると身の丈2メートル近くある巨漢の白人が仁王立ちしていた。目は綺麗なブルーで端正な顔立ちだが体格がプロレスラー並みだ、体重150kgはあるだろう。右腕にはポルトガル語と思われる紫色のタトゥーが入っている。意味は不明だ。時間はもう夜8時を回っていて事務所は女のいつき1人だ、普通なら中に入れることはないがこの仕事はそんな事を言ってられない。
「どうぞ」
いつきはその白人を手招きした。小さな事務所の応接の部屋へ通した。
「ありがとう、すいません遅くに」
白人は流暢な日本語で答えて中に入り安物のソフアに腰掛けた。体重でスプリングが軋む音がした。
「日本語上手ですね」
いつきは半分お愛想で言った。確かに日本語は上手だが日本語が上手な外国人には慣れっこになっている。
「ブラジルの人ですか」
いつきは笑顔で尋ねた。白人でこの事務所に来るのは90%がブラジル人だ。
「そうです、遅くにすいません」
いつきはコーヒーも入れずに白人の前に座った。
「お名前は」
「マルコス、マルコスです」
「マルコスさん、在留カード、できればパスポートも見せて頂けますか」
今日面接する3人目のマルコスだ、ブラジル人に多い名前だ、日本でいう太朗、二郎みたいな感じだ。
在留カードは日本に住む外国人に携帯を義務付けられている身分証明書だ、パスポートは旅券 在留カードは就労が許可されている外国人かどうか確認するのに重要なポイントだ。在留期間もチェックできる、これが超過しているとオーバーステイで就労どころではなくなるがいつきはまだオーバーステイに出会ったことはない。
パスポートは単なる旅券なんで期限切れは特に就労には問題ない。渡航出来ないだけだ。こちらは補助的な証明手段だ。
「日本に来てどのくらいですかか」
いつきは相手の顔を覗き込むようにして尋ねた。
「14年、14年ずっと浜松で働いてきた」
やや恩着せがましい言い方にいつきには聞こえた。在留カードとパスポートをキャノンでコピーし終わったいつきはマルコスにそれらを手渡した。マルコスは大事そうに茶色の皺くちゃな紙袋に仕舞い込むとゆっくりといつきの顔を見た。いつきはマルコスの正面にすわり、百均でいつも買っているノートを広げた。
「永住者ですが奥さんや子供はいっしょですか」
「サンパウロにいる、3年前までいっしょに浜松でいたけど、お母さんが体悪くして看病に2人帰った」
「そう、それは心配ね」
いつきはお付き合い程度に心配顔をして見せた。
「今度帰国の予定はいつになりますか」
「そうね、当分帰れないね、お母さんは心の病気なのですぐには良くならないね」
「うん、そう、バイオデータ(簡単な履歴書)を見ると電子部品の組立が多いですがうちの派遣会社はほとんど自動車部品ばかりで油をたくさん使いますよ、簡単に言うと汚いです、オイルのアレルギーの方も無理です、その点大丈夫ですか、それと富山に来た理由はなんですか、雪多くて住みにくいですよ」
いつきはずけずけと遠慮なく話す、この仕事を始めて半年だがいつの間にかこんな無遠慮な話し方になってしまった。
「富山の高岡で昔働いたことがあるよ、日本に来たばかりの時に、雪は嫌いじゃないよ、オイルも何でもない」
マルコスは早口で捲し立てた、明らかにイラついたようだ。
「アパートは1DKで大丈夫ですか、うちでお貸しできるのは1Kか1LDKです、はっきり言うとアパートは派遣会社の用意したアパートに入ると10%家賃上がります、問題ないですか」
いつきは相手を試すように次々とネガティブな質問を投げかける、嫌なところを隠すのが苦手なんで最初にまとめて言ってしまうのがいつきのやり方だ。
「時給はいくらだ」
マルコスも立て続けに聞いてきた。
「1300円です、残業は月80時間から90時間程度、社会保険はどうしますか」
いつきは早くもフィニッシュにかかる。
「時給はOKだ、残業は80時間じゃ困る、社会保険はNOだ」
残業が不満のようだ、多すぎるのでは無い、少なすぎるのだ。
「市内にある自動車部品工場なら管理者がゆるく、90時間は目を瞑るでしょう、ただ100時間超過が何ヶ月も続くと目を付けられる、そうなると一気に80時間も越えられなくなります」
そこまで聞くとマルコスは少し黙り宙を見ている。少し迷いがあるようだ。
「工場を見ますか、工場見学どうします」
工場見学は実際には採用の現地面接になる、もちろん本人の現場確認の意味もあることはあるがほとんどは現場の工場の課長が見学者の能力を見定める為のご対面だ。どう見ても面接なのだが派遣法では派遣労労働者の面接は認められてはいない、変な法律だが法律は法律であからさまに面接と言えないのだ。
マルコスの顔は少し赤みを帯びている、アルコール好きなのか。いつきにとってはアルコール好きは減点対象だ、アルコール好きは朝の遅刻が多い、勤怠を乱すと工場の課長から苦情が毎朝のように来るので出来れば避けたい所だ。だがあれこれ言ってると工場に投入する人材がいなくなってしまうので多少の事は目を瞑る。
「少し、考えてからまた電話します」
マルコスは心が決まったようだ、また電話しますの返事で面接者から電話がかかってくることはまずない、少し先を急ぎすぎたようだ。いつきの悪い癖だ。もっとも日本人面接者のようにいつまでも考えこんでいられてもまた困る。
マルコスは席を立った、いつきに軽く手をあげ挨拶をして薄い鉄製の事務所のドアを開けて戸外に出、白いトヨタのセダンに乗って事務所の駐車場から消えた。いつきの夜間面接は失敗だった。採用できない面接は全て失敗である。人材派遣会社の面接は余程の人間以外は来たもの拒まず全て採用する。特にいつきの勤務している人材派遣会社は90%外国人、その外国人のうちのそのまた90%は日系ブラジル人であった。日系ブラジル人で仕事の出来ない人間はほとんどいない、投入すれば大体それなりに工場の戦力になる。
日本の産業は構造的な少子化の入り口に差し掛かっており人手不足が深刻化し始めていた、どの業界でも人手不足で喘いでいたがとりわけ製造業は若者に不人気で皆に敬遠されがちであった。イメージが地味で他のサービス業から比べると暗い印象があったのかもしれない。その為製造業は日本の若者から敬遠され各社の採用枠は埋まらないままであった。採用が滞るのも当然で日本の生産人口は減ってゆく一方なので無いものは採用出来るわけがないのだ。求人広告などの採用経費は上昇し製造業、もしくはそれに関わる人材供給ビジネスにも影響を与え出した。製造業の海外移転はさらに加速してゆく。
そんな折、1990年に入管法改正により定住者の在留資格が新たに創設された。これにより海外にいる日系3世までは日本での自由就労が認められた。。事実上の半移民政策が1990年の入管法改正であった。過去政府のとった海外への移民政策の失敗の贖罪の意味も含まれていた。これにより主に日系3世までの人間は日本で制限のない就労が可能になり永住権への道も開かれた。為替相場の円高も相まって海外からの出稼ぎの日本国内への流入が始まった。その中でも際立って数が多いのは日系ブラジル人だった。最初彼らは恐る恐る、やがて雪崩をうって日本に来日した。彼らを採用するのに一役買ったのは日本国内の人材派遣会社だった。大手の人材派遣会社はもちろん中小企業、零細の人材派遣会社が雨後の筍のように日本各地に出来た。大した設備投資も入らずに立ち上げる事が出来る人材派遣会社は業界で2.3年の経験のある者たちが先を競って独立して新規参入を開始した。そしてそれらが需要の大きさもあって急激に売り上げを伸ばし黄金期を作り出していった。簡単な事務所に事務員一人、営業数人で年間10億、20億の売り上げをあげる20代、30代の経営者が続出、中には株式公開も果たす企業もで始めている。開業を果たした各人材派遣会社の経営者は自身の思惑を超える金額が会社に転がり込むのを驚愕し、半ば呆れながら眺めていた。普通の会社が経験する立ち上げてから軌道に乗るまでの塗炭の苦しみを全く経験せずにいきなり成長軌道に乗ってしまったのだ。各人材派遣会社の経営者達は最初は恐る恐るそれを傍観し、やがてそれに慣れてしまいもっぱら税金対策を税理士達と講じる毎日になっていった。
あるものは従業員の寮と称してアパートを建設、あるものは経理上全額損金処理できる生命保険への大口加入、社有車と称してほとんど経営者のプライベートのメルセデス、家族への役員報酬、まず従業員達が利用することが出来ない従業員用の福利厚生名目のクルーザー、使えるものは何でも使った。保険営業会社や建設会社、外車ディーラー達にとって俄か成金の人材派遣会社の経営者達は絶好のカモだった。しかしそんな彼等人材派遣会社の経営者達にも悩みがあった。各社が争って移民労働者、とりわけ良質の労働者である日系ブラジル人を求めるので採用競争は激烈であった。彼らの賃金は上がり続け人材派遣会社の経営者達は会社運営のコスト削減に迫られ始めた。そんな時一部の人材派遣会社の経営者達はあることに気が付き始めた。移民労働者達は社会保険の加入を嫌がり皆手取り早く手取り金額が多い社会保険未加入のもぐりに近い人材派遣会社を選ぶ傾向が強かった。彼らにとり何十年も後の年金のことなどどうでも良く社会保険料の納付は無用のものでしかなかった。それを良いことにコスト削減に迫られた国内の人材派遣会社経営者たちの中から本来強制加入の社会保険を未加入のまま雇用する人材派遣会社が増始めた。そしてそうした人材派遣会社は日系ブラジル人達に人気があり人も集まりやすかった。本来雇用主が負担しなければならない社会保険料の半分がそのまま利益になり人材派遣会社は潤った。おまけに日系ブラジル人達は皆クチコミで集まった。賃金が良く社会保険が要らない人材派遣会社は人気で全国から日系ブラジル人労働者が集まった。その為求人広告も不要になりダブルで利益が上がるようになった。強制保険未加入は立派な犯罪行為だがまだ若く、無知な経営者達は気にする事もなくまたそれを取り締まる社会保険事務所の調査も甘いものであった。流石に大手の製造会社はこの犯罪行為に自ら参加することはしなかったが自社の工場に出入りする人材派遣会社の雇用がどうなっていようが気にも止めなかった。彼らは必要な時に都合よく人を集めてくれて不要な時に契約を解除できる人材派遣会社は誠に便利な存在であった。
日系ブラジル人達は月に150時間の残業を平気でこなし土日も工場で嬉々として働いた。そして日本に来て数年で母国でマンションを購入する。その為彼らは定時で終わり土日も休む会社は全く相手にしなかった。1日に15、6時間も働き毎月社会保険の控除も無い恐るべき金額が派遣会社から彼らの銀行口座に振り込まれる。とても単純労働の工場労働者の賃金ではなかった。そして残業が減りだし、休日出勤も減少しだすと彼らは簡単に別の会社へ移動して日本各地へジプシーの様に散ってゆくのであった。安定した職場など彼らは求めてはいない。日本人の働き方、価値観とは全く違った。しかし彼らの存在は人手不足に苦しむ日本の製造業にはなくてはならない存在になっていった。
いつきの勤務する人材派遣会社は北陸富山の創業3年目の小さな会社だ、経営者は大手の人材派遣会社を5年務めた営業員が立ち上げた会社だ。事務員1人と営業4人、部長1人、 最後に社長1人のこじんまりした会社だが年商は14億円で立派なものであった。従業員は99%外国人でそのほとんどは日系ブラジル人だ。通訳さえもいない。給与は女性の割には良い方だが労働はきついし、ノルマもある。いつきは大手の印刷会社に勤務し東京で暮らしていたが先のことを考えて実家のある北陸富山に帰ってきた。いつきは片親でいずれは母親の面倒を見なければならない、特に経済的に支えなければならない訳ではないが自身ではそういうもんだと小さい頃から考えていた。しかし実際の所はよくある都会疲れっていうやつもかなりの部分あったことは確かだ。帰郷してすぐにハローワークへ行き、その時たまたま見つけたこの会社の営業管理という職種に興味を覚え応募してその日に採用された。
人材派遣という言葉は聞いた事があるが実際のところはいつきのまわりに人材派遣会社に勤めているものは皆無であった。特に富山の田舎ではそんな業種が存在している事自身知らなかった。入社して初めて気がついたのは工場での製造現場への派遣がメインの会社らしいことに気がついた。なんとなくいつきの頭の中には事務職をイメージしていたがのっけからあてが外れた。富山は製造業が集約している、YKKを筆頭にアルミ製造会社、製薬会社、機械部品会社、電子部品会社が密集している、下請けを入れるとかなりの数だ。当然、それに伴い製造会社に労働者を提供する人材派遣会社も多い、最初大手の人材派遣会社の出先機関が多かったが最近になって地元の人材派遣会社も増えてきた。
人材派遣会社の特徴は何と言っても雇用主と就業場所が違うといった点だ。雇用主は人材派遣会社、つまり人材派遣会社が派遣労奏者の給与を支払う。しかし、勤務先は雇用主とは全く違う別の場所になる。しかし、作業指示は全部作業現場の会社従業員の指示に従う。それならなぜ最初から就業場所の従業員として直接雇用しないんだと言うといくつか理由があるが、最も大きい理由は生産量が減少したときに雇用主責任なしに労働者を削減出来るからだ。派遣会社に1ヶ月前までに通告すれば自由に派遣労働者の数を調整出来る、煩わしい労働争議にもならない、これは大手になればなるほどこの傾向は強い。簡単に言えばいつでもクビに出来る便利な従業員を手にすることが出来るのが理由だ。あとは、外国人の雇用に不安があり、その辺の煩わしい外国人の労務管理を人材派遣会社に任せることができるのも大きな理由だ。外国人労働者の中でも日系ブラジル人は取り扱いが非常にデリケートだ。彼らは権利意識が高くプライドも高い。自分が気に入らないと簡単に仕事場、派遣会社を替える。その辺のさじ加減は慣れないと本当に難しく大方の派遣先労務担当者はお手上げだ。決断の早い日系ブラジル人があっという間に辞めていなくなってしまう理由が彼らには理解できないのだ。しかし、型にハマると彼らほど戦力になる人間達はいない。絶えず監視が必要な中国人労働者と違い仕事にプライドを持ち丁寧で迅速な作業が彼らの持ち味で、特に給与に反映されないのだが不良品の発生を嫌う。賃金以上の働きをする者は多い。最も中国人でも優秀な労働者はいるし、日系ブラジル人でもだめな者もいるがこの傾向は間違いなくそうだ。じゃないとここまで日系ブラジル人は工場に浸透しないだろう。フィリピン人もいつきの人材派遣会社には少数いることはいるが男性オペレーターは別として女性オペレーターはとにかくフィリピン人同士仲が悪い、いつも彼女たちは喧嘩が絶えずいつきはあまり好んで採用はしない、ハローワークの採用基準からすると明らかに国籍差別だがそれはフィリピン人女同士の泣く、喚く、嫌がらせ、殴り合い、しまいには昼食の弁当に人糞を入れられと言った騒動をを目にすれば誰でもそうだろう。3人いても必ず派閥を作り2人対1人に別れる、300人いたら無数の敵味方入り混じり日本の国会の派閥争い並みの複雑さだ。男性は概ね従順で言葉は悪いが扱いやすい。彼らはファミリー単位で行動し良い仕事があれば日本全国どこへでも行く日系ブラジル人と違い土地に土着しその土地でで暮らす。ある意味安定した労働力になる、問題はフィリピン人のほとんどが車の免許を持たず送迎が必要なことだ。送迎ドライバーのコストで人材派遣会社の利益がほとんど吹っ飛んでしまう。
人材派遣会社の営業管理職の給与は何人工場へ投入して、何人管理しているかで決まる。30人程度で十分会社は利益が出るが会社は50人要求してくる。本当は
20人でも利益が出るはずなのにといつきは思うのだが。中には1人で100人近く管理している営業職もいるが給与は月120万貰っている、彼の発言にも重きを置かれている。ほぼ同期に入社した彼は明らかにいつきのことは軽く見ているし同じ会社内でも有益な情報は決していつきに回してこない。これはどこの営業職でも同じだが彼の場合は露骨である。いやそれどころかいつきの営業妨害も平然と行う。いつきも闘志を燃やすが今の所全く歯が立たない。内藤という名の彼には家族もあり守るものも多いのだろうがあまりにも協調性がないので部長にも注意をされた事がある。しかし彼も部長の言うことはほとんど耳をかさなかった。この世界では数字が全てで数字を出せる営業職はある意味経営者より立場が強い。簡単に高待遇で転職されてしまうと会社としても困るわけだ。そういう意味では人材派遣会社は厚みのない薄っぺらな存在である。
いつきの人材派遣会社でも他の外国人専門の人材派遣会社と同じに外国人労働者を集めるのは口コミなので自分が担当している工場の労働条件が良くないとクチコミに乗らないのだ。当然中小企業が人材派遣会社へ提示してくる条件は単価も安いので派遣労働者の条件も悪くなる。大手の製造業担当は条件も良く、人も集まりやすくなる。当然担当の貼り付けによって売上も大きく変わるのでいつきには不満もあるがそれは自身で大手の生産工場を新規開拓するしかないのだ。しかし大手の製造工場はがっちりとこれまた大手の人材派遣会社が入り込んでおりつけいる隙がなくお手上げだ。銀行の紹介でもあれば別だが流石にいつきには社長に銀行の紹介を頼む気には慣れない。悪い人ではないのだがとつっきにくく、話しづらいのだ。年齢も60歳を超えており何を話して良いのかさっぱりわからない。株の取引が好きなようだがいつも損しているらしい。以前は大手の人材派遣会社の営業所長をしていたらしい。口数の少ない人なのでこれで営業所長がよく務まったと思う。そんな社長と従業員達の間の意思疎通は部長が一手に仕切っている。古くからの友人らしいがいつきは全くこの男を信用していなかった。最初会った時からヘラヘラとした感じがいつきには気に入らず、実際入社してしばらく付き合うと第一印象全く変わらず信用の置けない男であった。営業会議での進行役をするのだが言ったことがコロコロ変わり、そのことを本人は全く自覚がないようだ。ある意味一つの才能とも思える。彼は会議で自分が責任を取ると明言したことを次々と翻してゆくのを目の当たりにした他の従業員も全く信用してないようだ。しかし部長は部長なのであからさまに無視することも出来ず、勢いこちらも表面上の軽い付き合いになってしまう、いつきは女性であるが上に尚更こういう男は虫がすかないのだが宮仕えの常でほどほどの距離感で接触していた。
土日もなく採用活動しているいつきは今日の様に夜間面接も常であった。しかし夜間8時を過ぎてからの面接ではあったが不調に終わった。最近採用の方は特に不調だ、地元のライバル会社の攻勢が激しく根こそぎ持っていかれてします。相手は同規模の地元の人材派遣会社なのだが経営者が日系ブラジル人なのでレスポンスが良く、当然だが母国語のポルトガル語も通じるので致し方ない点もある。しかし到底普通は提示できない賃金を提示してくるのでいつきの会社には手の打ちようがなかった。最もいつきの会社もそうして大手人材派遣会社のシェアを荒らしていったのだが。
ただ1人しかいない事務所の施錠を終えるといつきは自分のホンダの黒のハッチバックに乗り込みエンジンをスタートさせた。時間はもう夜の9時を回り初秋の夜は肌寒かった。
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