第13話  決心

 僕は、千香の事が、好きだったのか。


 死んでからでは遅いが、今気付いた。だから、助けたのだろう。


 時の娘は、その事を僕自身が、気付くよりより前に、分かっていたのだ。だから泣いていた。


 母と千香が、立ち上がった。帰るのだろう。


「千香ちゃん。もう、太郎の事は、忘れて、いい人見つけないと、駄目よ。あなたのお母さんに聞いたわよ。素敵な人から、交際を申し込まれているそうじゃない」


 僕の胸は、何故か痛んだ。


「素敵な人ですよ。いわゆる青年実業家ですね。良い人だとは、思います」


「結婚を前提。でしょ?」


「その人は、そう言ってました。でも、お断りするつもりです」


「太郎のせい?」


「はい」


 千香は、いやにはっきり答えた。


「ありがとう。ごめんね」


 それっきり、二人は話さず、帰って行った。


 僕は、父と自分の名前が、書かれた墓石を長い間見ていた。


「僕の心は、決まっているのか?」


「あなたの心は決まっています。千香さんを幸せにしたいと強く思っています」


 時の娘の言う事は、正しい。死んでしまった僕より、千香を幸せに出来る男は、たくさんいるだろう。


 しかし、千香自身が、そんな男達を拒否する以上…。


 僕は、冷静になる時間が、必要だと感じた。冷静になって、まだそうしたいなら、時計屋へ、行くことにしよう。


 僕は、街を歩きまわり、津波で亡くなった地縛霊を見つけては、風船を渡していった。


 最後の風船を渡し終えた時、街の地縛霊は、いなくなった。


「もう一度時計屋へ、行きたい」


 僕は、時の娘に頼んだ。


 

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僕は、風船になった。 @ramia294

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