第12話 時の娘の涙
「ワァー!」
僕の口から、恐怖で、自然に叫び声が、出た。時計屋の時よりも、もっと生々しい記憶が、蘇った。
僕は、千香を浮きにつかまらせて、自分も手近の別の浮遊物につかまろうとした時、突然、強い流れに巻き込まれたのだ。
水の流れには、横だけでなく、上下の動きもあって、僕は、下に吸い込まれていった。
慌てた僕は、浮かび上がろうとしたが、水に巻き上げられた大量の泥が、流れに乗って、僕の上に押し寄せた。
身動きの出来なくなった僕は、もがく事も出来ず…。
「大丈夫ですか?幽霊なのに、顔色が、変わった事が、分かりますよ」
時の娘が、心配そうに僕を見た。
あれは、恐ろしい体験だった。生きていたら顔面蒼白だったろう。
「思い出したのですね。その記憶が、あなたの記憶を全て蘇らせるのをじゃましていたのです。魂ごと封じ込められるというのは、今まであまり例がありません。時間を取り戻してください。生き返って千香さんと共に、生きて下さい」
時の娘は、泣いていた。
「無理だよ。僕は、地上に降りてしまった」
「あなたの魂を見つけられなかったのは、私たちのミスです。時計が止まったあなたが、天に帰らなかった事には、気づいていたのです」
時の娘の仕事は、ひとりでも多く地縛霊の様な存在をつくらず、地上の時間と空の時間を魂たちに、正しく使わせる事らしい。
地縛霊もあまり長くしていると、時の娘の姿を見ることが、出来る者もいるそうだ。
「この十年、私たちは、あなたを見つけられませんでした。私は、時の娘として、失格です」
「仕方ないよ。僕だって、まさか泥に覆われて死ぬなんて考えてなかった」
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