第11話  千香の気持ち

「おばさん。私の命は、太郎君に助けられた命。太郎君がいなかったら。私は、この世には、いないわ。だから私の命は、太郎君の命と一緒。本当の娘だと思ってね」


 ということは、この女性が、有馬千香か?

あれから十年ということは、今、22か、23歳。


 綺麗な女の人だと思っていてのが、千香だったとは思わなかった。いつまで子供のままの自分が、悔しかった。

 もっともこの姿も、ただの自分の記憶に過ぎないけど。


 それにしても僕が、千香を救ったというのは、本当だったのか。確か水上が、そんな事を言っていた。


 そういえば、僕は、何故死んだのだろう?

津波に、襲われたのは、思い出した。泥に埋もれるまでに、何があったのだろう。


「私が、逃げ遅れさえしなければね。お父さんは、助かったのに。私を屋上に押し上げるために、自分が逃げ遅れるなんて…」


 そうか、母さんを助けようとして、父さんは、逃げ遅れたのか。


「仕方ないわよ、おばさんだって、怪我した人を助けていたんでしょ」


 人助けをしていて、逃げ遅れたのか?両親揃って何というか、お人好しだね。


「太郎君だってそうよ。学校の屋上まで水が来て、流されたとき、私の手をつかんで、浮いていた発泡スチロールか何かに、しっかりしがみつけと言って、抱きつかせられた」


 千香は、泣いている。


「自分は、泳ぎが得意だから大丈夫だって、駄目だったじゃない。それに、泳ぎは、私の方が、得意だったわ」


「スイミングスクールで、選手コースに上がれたばかりだったからね。あの子の唯一の自慢だったのよ」


「私より、ずいぶん遅れて、選手コースに上がったのにね。でも、上がったのは、コーチたちが、太郎君のガンバリに根負けしただけだったと思うわ。だって、太郎君身体硬かったもの」


 千香は、可笑しそうに笑った。

 そういえば、千香とは、小さい頃から一緒にスイミングスクールに通っていたんだっけ。


 その時、突然思い出した。

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