第10話  墓地

 我が家は、跡形も無かった。


 綺麗な海が、窓からいつでも見える事が、自慢だった我が家は、それだけ海に近かったのだ。


 街ごと高台に引っ越したらしい。高台に向かって歩いてみる。


 途中墓地が、あった。


 寄り道してみる。


 墓石に我が家の名前を探してみる。数が、多いが、時間はたっぷりある。

 

 しばらく、ブラついていると、女性の親子連れがいた。地縛霊ではなく、本物の人間だ。


 見覚えが、ある様な気がして、二人が手を合わせるお墓を見る。


 墓石には、霧島とあった。


 どうやら僕の家の墓らしい。手をあわせている女性を覗き込むと、ひとりは、母親だった。


 年月が、母親にもたらした苦悩が、容姿にも現れていた。


「母さん、老けたな」


 聞こえないはずなのに、母親は、顔を上げ周囲を見回した。


「おばさん、どうしたの?」


 若い方の女性が、言った。


 この女性にも、見覚えがある。誰だろう?


「しかし、二人揃って同じ逝き方をするとはね。親子ね」


 母親は、自嘲気味に言った。墓石には、父の名前も彫ってあった。

 どうやら、父も亡くなったらしい。


「でも、おばさん。この十年寂しかったでしょ。おじさんと太郎君が、いっきにいなくなって」


「大丈夫よ。千香ちゃんが、気にかけてくれたからね。まるで、本当の娘ができたようだよ。ここだけの話、私は、本当は女の子が、欲しかったんだよ。でも、あの人は、息子が、欲しかったらしく、太郎が生まれたときは、本当に喜んでね。私は、ちょっと悔しかったよ」


 息子は、ここにいるよ。


 本人の前で、言うなよ。




 

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