第9話 先生、天へ昇る
風船を手にした先生は、しかし、空を登っては行かなかった。
そのかわり目に光が戻り出し、僕のことをまっすぐ見てくれた。
「霧島?霧島か。お前よく無事で」
ようやく周囲が、見れるようになったらしい。
「先生、残念ながら、僕は、死んでいます。つい最近まで、泥の中に埋まって、魂ごと封じ込められていました」
「そうか、しかし何故俺と話せる。俺には、そんな特殊能力があるのか?」
「いえ、先生もとっくに死んでいます」
「そうなのか?俺もあの時、飲み込まれたのか」
僕と、一緒だ。あまりの出来事に、霊になっても、記憶を無くしている。
僕は、もうひとつ風船を差し出しながら言った。
「先生。僕たち先生の生徒たちは、みんな先生の事が、好きでした。先生に憧れ、先生の様な大人になりたいと、目標でした。僕も生きていたら、先生の様な教師に成りたかった」
風船を先生に、しっかり結びつけた。
「じきに記憶が、戻ると思います。その時、忘れないで下さい。僕たち生徒にとって、先生は、憧れであり、目標です」
先生は、空を登っていく。
「少し恥ずかしいな。しかし、ありがとう」
「先生は、耐えられるだろうか?」
僕は、時の娘に尋ねた。
「先生しだいとしか、分からないわ」
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