第8話  先生の絶望

 記憶を探ってみるが、先生の言っていることは、分からなかった。

 時の娘に頼み、先生の記憶を教えてもらった。


 あの時、先生は、地区の学年主任会議に出かけていたのだ。


 先生の留守中、あれは、起こった。


 先生の性格なら、自分を犠牲にしてでも、生徒を助けたかっただろう。


 しかし、実際は、出かけていた自分だけが助かり、生徒たちは、そのほとんどが、犠牲になった。


 先生の奥さんと、まだ幼かった娘さんも犠牲になり、自分ひとりが、助かってしまったのだ。


 先生は、絶望して、自ら命を絶った。それから今まで、この土地を離れられず、家族と生徒たちに、謝罪し続けている。


 先生の魂は、自らこの土地に、自身を縛りつけたのだろう。うつろな目のままでは、霊となった今でも、まともなこと話し合いすら成立しない。


「どうぞ」


 僕は、風船を渡した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る