第7話  風船

 有馬千香は、免れたらしい。


 時間を失ってしまった僕と違い、順調に

年齢を重ねている。

 大人の年齢になっているだろう。


 再び僕の家に向かって歩き出す。


 出発前に、水上に、時計屋さんから、貰った、お土産の風船を渡した。


 すると、水上は、ゆっくりと空に登っていった。どうやらこの風船は、地縛を解き、魂を天に帰すらしい。


 水上は、嬉し涙を流して、僕に感謝した。


「次の世界も同じ時間に生まれよう。そしてやっぱり友達になろう」


「そうしよう」


 僕は、こたえたが、それは、どうなるか分からないだろうと思った。


 しばらく歩くと、やはり知った顔が、現れた。


「先生、先生。熱海先生じゃないですか!」


 僕の小学校の時の先生だった。明るく、正義感が強く、人気者だった先生だ。


 しかし、今は、ボゥッとして、焦点の合わない目で、こちらを見ている。


「先生、どうしたんですか?」


 そういえば、何故、先生が、地縛霊になんかなっているんだ。


「霧島か?お前、ずいぶん長い間行方不明だったが、遺体を発見してもらえたのか?」


「はい、ずいぶん長い間泥の中に埋まっていたようです。魂ごと封じ込められたので、こちらに戻って来たのもついさっきです」


「そうか、お前は、本当に苦労ばかり背負い込むのだな。しかし、お前は、助けることかが、出来た。おれは、自分の生徒たちを助けることが、出来なかった」


 僕を見る先生の目は、焦点が合っていない様だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る