第6話  地縛霊

 風船を持った僕は、地上をさまよっている。この風船は、時計屋さんが、皆さんへのお土産にと、僕にくれたのだ。


 そういえば、僕の父や母は、あの時、助かったのだろうか?


 あの時、僕の様に死んでいて、魂が、封じ込められなければ、心配させた事を謝る事も出来ない。


 もしかしたら、すでに生まれ変わって、新しい人生を歩んでいるかも。


 いくら歩いても疲れないので、住んでいた街を目指し一晩中歩いて、昼間は、途中の街の様子を知るため街を徘徊した。


 ところどころで、僕と同じ様な幽霊に出会った。時の娘によると、地縛霊というそうだ。


 僕の様に封じ込められたのではなく、死んでいる事を認めたくない人たちだそうだ。


 そりゃーそうだろう。


 今まで幸せに暮らしていて、突然水に流されて、死んだなんて、認めたくないだろう。


 知り合いは、いないかな?と注意してみていると、学生時代の同級生がいた。


「水上か?」


「霧島!霧島か」


 そう、僕の生前の名前は、霧島太郎だった。ようやく思い出した。


「水上もあの時死んじゃたのか?」


「ああ。逃げる暇なんて、無かったな」


「霧島も駄目だった様だな」


「ああ。つい最近まで、魂ごと泥の中に封じ込められた」


「それは、悲惨だったな。それなら、あれからの事は、何も知らないのだな」


「まったく。今までの記憶を全て無くしていた。まだ、全てを思い出していないので、家に、帰る前に、思い出しながら、街をブラつこうと思って、わざとゆっくり歩いている」


 僕が、家に、帰ると言った時、水上の表情が、曇ったのを見なかった事にした。


「そういえば、有馬千香の事は、覚えているか?」


 記憶を探ると、すぐに出てきた。


「今、思い出した。僕と一緒に学級委員していたあの有馬か?」


「そうだ。あいつ小学校の頃の初恋を今でも引きずっている。俺たちには、もう何も出来ないが、あいつにも会いにいってやれよ」


「初恋?」


 何で僕が、会いに行くのだろう?


「お前、死んでも鈍いな。相手は、お前に決まっているだろう。気づかなかったのか?」 

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