2011/3/11 その参

 最近寒さが暖かさに変わってきた。まあそれが普通なんだけどね。春だし。私は春は…嫌い。花粉が辛いのと、寒暖差のせいで体調崩すのが嫌だから。

 ただ…この年の春は本当に大っ嫌いだ。けど思い出したくない気持ちより腹立たしい気持ちの方が強いから、タイムスリップとかいうよく分からん提案に乗ってここに来たんだ。


(何食べようかしら)

 昼時になった。いつもは愛おしいお家にある3分ではいできあがりのカップラーメンで済ませているが、たまにはと思い近くの外食店を探すことにした。

(…浜通りなんだし、海鮮モノとかいいわね)

 取りあえず、いつもの上着を着てどこかないか探す。

(………なんか、寒気がすごいな…風邪?)

 もう冬も終わり、暖かくなってくる頃なのだが、なんか肌寒い。春といって嘗めてないで、もう少し厚着してくるべきだったか。

(もう1時になりそう…あ、この店いいかも)


「ご馳走さまでした、また来ます」

 店の店主はいい人で、可愛らしい笑顔でありがとう、と言った。

(まだ2時半…今日はしたいこともないし暇なんだけど)

 特に何かするわけでもなく、ただ浜通りの街を適当に歩いていた。…歩いていただけのはずだった。

(…?)

 スマホが鳴った。…電話?スマホを取り出そうとした瞬間、地面が揺れだした。

(あー…地震か)

 日本に住んでいるから、慣れたくもない地震に慣れてしまった。少し強いから震度4くらいか?と呑気なことを考えていると、いきなり激しい揺れが襲った。

「うわっ!?!?」

 取りあえず近くにあった建物の柱に掴まった。

「ぐ…うわ……」

 その建物にはガラスが無いので助かったが、他の店や一軒家のガラスは次々に飛び散っている。

(ヤバいわね…………というか、長いわ…)

 揺れている時間が異常に長く、地震ではない何か?という考えも浮かんできた。

(こんな強い地震…)

 やっと揺れが収まってきて、安心したのもつかの間。近所の少年が私を見て叫んだ。

「…!?何してるんだ!!!津波がくるぞ!!!」

「え…津波?」

「そうだ!宮城の県北の方でうんと大きな地震が起こったんだ!!!早く!!!!!!」

 宮城の県北……嫌な予感が脳裏を過った。とにかく、ここは浜通り。海が近いので急いで高台に登らなければ津波に呑み込まれてしまう。

「す、すみません!今行きます!!」

 私はザバーンという音が響く後方は振り向かずに走った。向こうの山まで、必死に、必死に…


「だ、大丈夫ですか」

「ええ…なんとか」

 一緒に逃げてきた少年も何とか先ほどよりは落ち着いたようだった。ここは山の上の公園。階段が長く、普段なら登るのはキツいが今はそんなことどうでもよかった。

「まさかこんな地震が起こるなんて…」

 少年は妹を連れていて、妹はきっと4歳くらいだろう。少年に「母さんは?父さんは?」と繰り返し聞いている。

「あれ、津波ですよね…」

 一気に押し寄せる津波が、防波堤を越えようとしていた。そして、その後すぐに防波堤を越え、福島県沿岸部を襲った。信じられないスピードでこっちに近付いてくる。

 記憶の処理が上手くできず、呆然とした脳内をぶっ飛ばすかのように、衝撃的な音が聞こえた。

「今度は何よ!!!」

 津波のザアーっていう音と、遠そうで近くから聞こえるドーンって音で、今にも頭が狂いそうだった。

「これってまさか…」

 音は間違いなく、双葉町…原子力発電所からだった。

「あの、これって、」

「そんなわけない…そんなこと、起こるなんて」

 周りの、友人とのやり取りで事を知った人が教えてくれた。


「津波で原発がやられました…」


 もう、気が狂ったのかその後はあまり鮮明に覚えていない。ただ、怖かったのと、悲しかったのと、目の前で流されていく建物や車や人が未だ心に残っている。思うことはこれだけ、護ってあげられなくてごめんなさい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大切なあなたへ 猫田 @kantory-nekota

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ