01.「その子は彼の生まれ変わり?」 ⑥森の中に

 直人は一睡も出来なかった、外は明かるくなって来ていた。

「そんな馬鹿なことが有るか、俺は霊など信じては無いからな」


 結局一晩中飲んでいたため、酔いが醒めていなかった。

「冴子は立ち上がることが無かったな。しかし本当に眠いな、少し寝て後で様子を見に行くか、どうせ今日は会社は休みだからな」


 そして冴子の姉も窓から覗く朝日を浴びて目が覚めた。

「どうしたのかしら寝てしまったのね、悪い夢だわ」


「冴子、冴子、起きるんだ冴子」


「博さん!!」

 博に声を掛けられたような気がして起き上がる冴子。


「ごめんなさい、私が、私が貴方を」

 冴子はそれ以降、言葉が出なかった。


 だが起き上がった冴子を見て絵里子が駆け寄ってきた。

「お母さん、大丈夫、昨日から病気だったの」


「大丈夫よ、心配しないで」

 冴子は心が既に折れているのだが、娘には強がりを言っていた。


(何か食べさせないといけない)

 娘を見たからか少し力が出てきた、


「絵里子は無いが食べたい、そう言えばお兄ちゃんは?」


「お兄ちゃんは服を着たままベッドで寝ていたよ」


「じゃあ起こしてきてくれるかな?」


「うん!!」

 元気に絵里子は裕也の所に走って行った。


 いつもなら起きている直人も起きて来ていなかった、様子を見に直人の所に行った。


「直人さん、朝よ」


 直人は、泥酔に近い状態なのか、酒臭い息を吐きながらいびきをかきながら眠っていた。


「直人さん会社は?」


 冴子が何度もそう言うと、直人はうるさそうに


「今日は、野暮用があって会社は休みなんだ」と直人は答えた。


「野暮用?」


 だが返事は無かった、直人はそのまま大いびきをかいて眠ってしまった。


 子供達のパンケーキを焼きながら冴子は考えて居た。


(私は私の犯した罪を認識した、そうだ、子供たちの母親である資格はない。

 博さんに合わせる顔もない私はこのまま消え去りたい)


 そんな考え事をして作ったパンケーキはきつね色ではなく少し狸色であった。


「なんか黒いパンケーキだ」

 絵里子は楽しそうにそして美味しそうに食べていた。


 だが裕也は感情の起伏が無くなっている。

「どうしたの裕也、どこか調子が悪いの?」


「大丈夫」

 裕也はぶっきらぼうに答えると、さっさとパンケーキを食べて自分の部屋に籠ってしまった。


「幼稚園に行く準備してね」


 そう言うが、感情の無い声で「今日は休みたい」と言うのだった。


 冴子は本当に体の調子が悪そうなのではと思い、休ませることにした。


 いつもの様に始まった一日、でも昨日までと全く違う、自分を消し去りたいという願いが何をしていても浮かんでくる。


(このパンケーキを切っているナイフで、道路に飛び出して、踏切で……幾らでも考えることが出来る)


 冴子も記憶の断片しか思い出せなかった。

 ただ、時間が経つほどの、少しずつだが霧が晴れて行く行くように何かを思い出せそうになっていた。

 けど大事なところが思い出せなかった。


 昼過ぎになると姉がやって来た。

 すると直人も眠そうな顔をしているが起きてきた。


「冴子、お義姉さん来てくれたから、一緒に行こうか?」


「どこへ?」


「昨日、冴子自身が言っていただろ、博さんを突き落としたってね」


「えっ」


「警察へ行こう」


「でも子供たちが……」


 驚いている冴子に姉が説明しだした。


「冴子の心は限界を超えたのよ、そう罪の意識に耐えられないで、罪を黙っていられなくなったのよ。直人さんから電話を貰ったわ、昨日、自分が状態だったか覚えてないでしょうけどね。貴方は罪悪感から、いつもの発作どころでは無かったらしいわ。罪を償わないと子供に危害を加える可能性もあるわ」


「悪いことは言わん、罪を償って来るんだ、俺たちは待っているから」


 冴子は頷くしかなかった。


 その日絵里子が昼寝したところで、絵里子は残して、冴子は姉と直人に連れられて車で連れ出された。

 途中で裕也を病院へ連れて行くため、裕也も同乗していた。


 だが車は、警察に葉行かなかった、見覚えのある道を進んで行った。


「何処へ行くんですか?」


 直人はドスの利いた声で一言

「博さんに謝った方が良いかなと思ってね」


「どういうことですか?」


「博は俺の親友だったからな、ちゃんと詫びないとね」


 後ろの席では裕也が姉の膝の上で眠っていた。


(博さんに詫びる、そうか博に会いに行ける)


 そう思うと不思議と今の沈んだ気持ちが晴れる気がした。


 車は事故のあった現場へ走っていた。

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ウロボロスの輪が消える時 茶猫 @teacat

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