01.「その子は彼の生まれ変わり?」 ⑤怨み

「ハハハハハ、ハハハハハ……私、そう私なのね、ハハハハハ……」

 大声で笑い続ける冴子。


 その声を心配して絵里子がやって来た。

「おかあさん、どうしたの、ねえねえ、どうしたのよ……」


 だが冴子は答えず笑い続けた、その目には涙が溢れていた。


 ◆  ◆


「それでは冴子に止めを刺しに帰るわ、冴子がキーワードを裕也に言えば終わりだな」

 そう直人は言うと裕也を連れて家に帰って行った。


「お父さん、家の電気点いていない、なんか暗いよ?」


 確かに家に電気が点いていないのを不審に思った直人は裕也を街灯の点いた外で待たせ、急いで家に入った。

 家の中では絵里子の泣き声が響いていた。


「冴子、冴子、何処だ?」

 返事は無かった。


 暗い中、照明を付けながら絵里子の泣く方向に向かった。

「絵里子、絵里子、そこに居るのか?お母さんはどうした?」


 奥の和室に入ると絵里子が泣いていた。


 傍には冴子が倒れていた。


 冴子を抱きかかえると体を揺するようにして声を掛けた。

「冴子、冴子、しっかりしろ!!」


「わたしが、ひろし……さんを……突き落とした」

 そう言うと冴子は、微かな笑い声を残してまた意識を失った。


 直人は直ぐに義姉に電話をした。

「うまい具合に、記憶が戻ったみたいだ、自分が博を突き落としたらしいよ」


「それは好都合ね、そうそう、後で証拠にするんだから、ちゃんと録画しておいてね」


「大丈夫さ冴子の状態が異常だったから抱きかかえる前に、絵里子が持っているタブレットを偶然撮ったように録画モードで動かしていたんだ」


「準備は万全と言うことね、明日、決行しましょう」


「そうだな、準備するか……会社の人間はみんな冴子が精神的に病んでいることは知っているからな、急に休んでも怪しまないだろう」


「後でまた段取りを電話するわ」


「分かった」


 そう言うと直人は電話を切った。


「しまった裕也を外に放ったらかしだった」

 急いで裕也を連れに外に出た。


「裕也待たせたな、もう大丈夫だ家に入ろう」


 その時直人には小さな声で何かが聞こえた。


「冴子に手を出すな、これは警告だ」


「えっ?、裕也何か言ったか?」


「僕何も言ってないよ」


「気のせいかな?」


 だが直人は一晩中、その言葉が気になっていた。


「何なんだ、幻聴か・・・」


 眠ろうとする直人、だが今度は、聞こえるのではなく、頭の中に響いて来るのだった。


「あの時のことは忘れない」


「苦しい、痛いん、体が引き裂かれる、痛いよ、お前にも味合わせてやるよ」


 そんな恨めしい言葉が何度も頭の中で響いた。


 頭の中で響く言葉に眠れない直人はそのまま起きて酒を飲みテレビを見ていた。


「何なんだよ、一体、冴子が思い出すから、こっちまで思い出すじゃないか」


 ◆   ◆


 姉の方は机に向かって、パソコンを使い段取りを始めていたが、照明が点滅し始めた。

「なに、こんな時に調子が悪くなるなんて」

 そう呟くと、そのまま隣の部屋の照明を点けると作業を続けた、隣の部屋は和室であり、座椅子に座った。


「えっ、背中が冷たい」

 座椅子の背もたれがびしゃびしゃに濡れているような感じだった。

 なにかで濡れているのだろうか?そう思い背もたれを手で拭った。

 なるほど湿っていた。


「なんだろう?」

 そう思い手を見た瞬間悲鳴をあげ、直ぐに立ち上がって座椅子を見た。


「血、血、血が付いている・・・」


 自分が立ちあがって誰も座っていなかった座椅子に影が浮かんできた。


 やがてその影から声が聞こえて来た。

「やぁ、お義姉さん、あの時は冴子と世話になったね、俺、帰って来たよ」


 聞き覚えのある声、間違いなくその声は博の声だった。


 その瞬間その部屋の照明が一気に消え、辺りは真っ暗になった。


「えっ停電なの?」


 低く怨みの籠った恐ろしい声が聞こえて来る。


「何も見えないから居ないと思っていたら大間違いですよ、間違いなく闇の中に居るのですよ」


 姉はそのまま気を失い、その場に倒れた。

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