初めての贈り物④




20年経った春の頃、すっかり大きくなった優弥は墓参りへと来ていた。 聳える石柱に刻まれる名前は仄かに母を感じさせられる戒名。 

幾度となく合わせた手を、今日も擦り付けるように合わせていた。


―――無事、今日をもって二十歳を迎えられたよ。

―――俺をここまで育ててくれて、本当に感謝をしている。

―――最近のことを言えば、大好きな彼女ができたんだ。

―――いつかここへ連れてきて、紹介してやるからな。

―――とても優しくて凄くいい子なんだ。

―――きっと気に入ると思う。


墓参りを終えると、丁度彼女の美咲(ミサキ)から電話がかかってきた。


『もしもし? 優弥ー? 今どこ?』

「今丁度、墓参りを終えたところ」

『じゃあ今から会える?』

「あぁ」

『分かった! でも、私も優弥のお母さんのお墓参りに行きたかったなぁ・・・』

「今日はごめんな。 どうしても一人で行きたくて。 次は連れてってやる」

『その日を待ってるね。 今日は優弥を私がエスコートするから、任せておいて! 大学で待ち合わせでいいんだよね?』

「あぁ、今から向かう。 そうだ、大学を適当に歩いているから見つけたら声をかけてよ」

『了解!』


彼女との通話を切ると、もう一度墓石に視線を向けた。


「母さん、また来るな」


そう呟くと彼女と待ち合わせ場所である大学へと向かった。 適当に歩いていると背後から彼女の呼ぶ声が聞こえた。


「優弥」

「・・・」

「優弥!」

「・・・」

「優弥ってば!」


三回呼ばれたところでようやく振り向いた。 そこには少し険しい顔をしている彼女がいる。


「ん? どうしてそんなに怒ってんの?」

「名前を呼んでも、なかなか気付いてくれないから」

「ごめん。 名前を呼ばれるのが好きだから気付かないフリをしてた」

「どうして名前を呼ばれるのが好きなの?」

「名前を呼んでくれると本当の愛情を感じるから」

「ッ・・・」


美咲は分かりやすく赤面した。 その照れを隠すように言う。


「ねぇ、優弥って名前、どういう由来なの?」

「優しさが広く行き渡りますように、っていうことらしいよ」

「へぇ、いい名前! 優弥にピッタリだね」


優弥も自分でこの名前でよかったと思っている。 母である杏が昔倒れた時に助けてくれた人を見て思い付いたのだと聞いた。


「俺の母さんが付けてくれたんだよ。 だけど俺を産んだその数年後に、肺がんが見つかって亡くなったけどな」

「・・・素敵なお母さんだったんだよね。 よかったら聞かせてくれる?」


その言葉に優弥は頷いた。


「母さんは高校の時に俺を産んだ。 元ヤンキーらしくてさ。 彼氏は逃げるし煙草を大量に吸っていたしで、色々とやらかしていたんだって。 

 だけど中退して、シングルマザーでずっと俺のことを大切に育ててくれた。 母さんの母親も一緒に住んでいたから、特に不自由はなかった。 

 まぁ煙草の影響が胎内の俺へ来て、未熟児として産まれたけどな。 でも今は立派な大人になれた。 これも母さんのおかげなんだ」


それを美咲は嬉しそうに聞いていた。


「本当に素敵なお母さんで羨ましい。 優弥を産んでくれたお母さんに感謝だね。 これからもたくさん、優弥の名前を呼ぶからね」

「あぁ、嬉しいよ」






                              -END-



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初めての贈り物 ゆーり。 @koigokoro

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