初めての贈り物③
―――・・・急に疲れが出たな。
極力穏やかな雰囲気を出そうと気を付けていたせいか、体力の消費が激しい。 退院後ということもあり尚更だ。
―――本当に体力落ちちゃったんだな。
―――少しどこかで休もう。
そう思いベンチを探し始める。 だが歩いている途中、突然咳が出始めた。
「ごほッ、こほッ」
軽い咳ではなく酷く重たい咳。 それだけでなく同時に激しい動悸もし始めた。
―――物凄くドキドキする・・・。
―――一体何?
自分の身に何が起きているのか分からない。 だがやはり退院は早過ぎたのではないかと思い始めてしまう。 その場に立ち止まり動悸を落ち着かせることしかできなかった。
だが簡単に止まることはなく、今度は身体中が熱くなっていく。
―――身体が、熱い・・・。
―――火照っている感じがする・・・。
意識が朦朧とし始め、ついにその場に崩れ落ちてしまった。
「う、くッ、は、はぁッ」
―――息も苦しい。
―――呼吸が、まともにできない・・・。
―――まだ死にたくないのに!
―――やりたいことはこれから始まるのに!
更には呼吸することが難しくなり、道端で縮こまっていると駆け寄るような足音が聞こえてきた。
「大丈夫ですか!?」
動悸がする胸を擦りながら軽く見上げると、そこには一人の男性が立っていた。 杏の異変に気付き駆け付けてくれたようだ。 彼は杏の状態を確認し、このままではマズいと判断したらしい。
「今すぐに救急車を呼びますね!」
「・・・」
ボーっとしていて何も答えることができなかった。 だがずっと携帯で119に連絡している男性から目を離すことができない。
―――あ、見つけた・・・。
―――一番最初の、贈り物・・・。
そう思い最後の体力を振り絞って男性に言う。
「あ、あの・・・。 救急車を呼ぶなら、ここにお願いします」
伝えた場所は今日退院したばかりの病院だった。 だがそこで力尽きてしまったのか、杏の意識は途切れてしまう。
「ん・・・」
そして数時間後、杏は見慣れた病院で目覚めていた。 見慣れた天井だが、こんなに早く戻ってくるとは思ってもみなかった。 もちろん、こんな状態になるなら退院なんてさせてもらえるわけがない。
症状をみても別の理由になる。
―――ここは、今朝までいた・・・。
―――あの人、この病院を伝えてくれたんだ。
ゆっくりと起き上がり、よろよろとした足取りで病室を出る。 すると通りすがったナースに支えられた。
「大丈夫ですか!?」
「はい・・・。 あの、先生に会いに行きたくて」
そう言って自分を担当してくれている先生の名を伝えた。
「分かりました、そこまでお連れします。 杏さん、ここへ来る前は大変でしたね。 今は大丈夫ですか?」
「フラフラはしますが、何とか・・・」
「流石にこの病院では対処し切れなかったので、内科へお連れしてからここまで運んだんですよ」
「・・・え?」
ナースの言っている意味が分からず疑問を抱きながら、やっとの思いで先生のもとまで辿り着いた。
「・・・あの、先生」
「杏さん! 駄目ですよ、ちゃんと安静にしていないと。 気を失ったんでしょう?」
「先生。 私、決めました」
「あら、何にしたの?」
その言葉に先生はすぐ察したようだ。 その問いに杏は答える。
「名前は“優弥”にします」
これが杏から赤ちゃんへの一番最初の贈り物だ。 杏は優弥のいる新生児集中治療室を優しい目で見た。
―――これからは優弥と二人で、たくさんの幸せを一緒に築いていくんだ。
―――だから優弥。
―――これからよろしくね。
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