物語のその先
R-???
「それが『原案』よ」
彼女はそう言った。
「どう。この世界の『ミザリィ』が物書きとなった理由がわかった?」
私はあまりに変な顔をしていたんだろう。彼女は一瞬勝ち誇ったような笑みを浮かべた。いつも私をいじめ抜く時のあの笑みだ。けれどもすぐに表情を戻す。
「この手記の上巻の内容を更に物語として発展させたものが、いま流通してる『白薔薇物語』――貴女のいうところの『前作のストーリー』ってところかしら」
彼女は『白薔薇物語』の本をテーブルに縦に置いた。本の上部を指で固定し、ゆらゆらと前後に揺らす。
それじゃあ、と私は尋ねた。
「あとの話は触発されて、他の人物によって書かれたものよ。『白薔薇姫の冒険』や『白薔薇姫と7人目の騎士』、覚えてるでしょ。このへんは作り話の類。たまに『白薔薇物語』も創作だと思ってるのがいるけど」
でも、前作の悪役令嬢が、小説家になってるなんて思いもしなかった。
そんな設定、無かったはずだし。
「ああ、貴女の世界じゃ小説家っていうのね」
こういう物語のことは、小説ともいうから。
「ふうん。でも貴女の――なんて言ったかしら、『シナリオとのずれ』は多分、これが原因ね。この世界はとっくに独自の道を歩き出してるんじゃないかしら」
それで、ストーリーや世界観がずれてたんだ……。
でも、どうして貴女はこのことを知っていたの。
「この事を知っているのはごく一部の人間だけよ。王家の一部と、私のようにミザリィお婆さまの血を引く人間だけ」
……。
「だいたい、この事態を想像できなかったのなら、貴女を転生させた『何か』とやらは相当あんぽんたんに違いないわ。お婆さまも予想しているけど、聖女様に子供が出来なかったのは、その血を一代限りにしたかったからじゃないかしら。あるいはそういう子供を選んだか。だけど、知識というのはそういうものじゃない。その血は奪えても、知識は誰にも奪えない。だから、もしも――」
彼女は悪辣に笑った。
「貴女が、あるいは貴女を転生させた『何か』が。この世界のずれを正そうなどと寝ぼけた事をいうのなら――私がその傲慢を砕くまでよ」
こんな非現実的な話を――攻略キャラじゃなくて、よりによって「ヴァイセローゼ2」の悪役令嬢であるところの彼女に受け容れられるなんて思ってもみなかった。
私の驚きを読み取ったのか、彼女はやっぱり勝ち誇ったように笑った。
「だって私は、由緒正しき悪役令嬢ですもの!」
白薔薇の君に捧ぐ 冬野ゆな @unknown_winter
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