終章 白薔薇の君に捧ぐ

 あれから、オリガ様が王位についた。

 まずはめちゃくちゃになった王宮の中を整理し直すことからはじめている。


 最初こそ過激派からローズが作ったすべてを破棄しようという案まで出たが、それは止めておいた。彼女が作ったものには有用なものもあり、数は少ないが嘆願書が出ていたからだ。特に義手や義足、そしてなどは体を失った者たちにとってはいまや死活問題になってきている。それから治療場の衛生面なども見直されている。

 オリガ様は驚いていた。これほど優秀な発想が出てきていたのに何故、と嘆いていた。

 外だけでなく自分自身からの重圧と、ヴァージル様を失ったことで急激に悪化してしまったのだと思う。心を病む、というのはそういうものではないかと提言しておいた。


 これで終わったわけではない。

 ここからまた始まるのだ。


 そういえば、彼女が子供に恵まれなかったのは何故だろう。

 単純に彼女の体の問題だったのか。これから解剖というものが進めば、わかってくるかもしれないが……。あるいは、彼女を転生させたという何者かがそうしたのか。闇の皇帝を倒すのに必要な知識と意思さえあれば、後は不必要だったということか。

 ……もしそうであるのなら。

 もしそうであるのなら、なんとしてでも彼女が残したものは潰させない。


 医療や、衛生観念や、病との戦い方。

 もしかしたらそれらが発達していれば――ローズは子供を授かっていたかもしれないのだから。


 ところで、ひとつ困っていることがある。


 ……だから私は、この物語をどうやって締めくくるか、いま考えあぐねている。

 この記述をまだネイトに見せることはできない。

 前世や……異世界や……シナリオのことや……彼女から聞いて、皆に言えないことはまだたくさんある。


 だから、私は……。

 私はこれから、彼女の冒険譚を改めて書こうと思う。


 それならきっとネイトも賛同してくれるはずだ。


 そして私は、物語を彼女に捧げよう。

 かつて白薔薇だった彼女に。


 白薔薇の君に。

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