第28話:戴冠
「まさか兄上が国王陛下を殺して王を名乗るとはな。
昔から強欲な人ではあったが、ここまでやるとは思っていなかった」
「父上、どうなされるおつもりですか」
申し訳ありません、父上。
どうなされますかと聞きながら、父上に選択権はないのですよね。
ヘルメスが用意した道しか選びようがないのです。
心優しい民想いの父上に他の選択などできるはずがありません。
「セシリアには申し訳ないが、歌聖女として大陸中に名声を得たセシリアに討伐軍の旗頭になってもらうしかない。
実質の指揮は私が執るから、嫌な役を頼まれて欲しい」
「いえ、私こそ父上に謝らなければいけません。
ヘルメスの謀略で父上に嫌な役を押し付けてしまいました。
領地を捨ててまで兄弟で争う事を避けられた父上に、兄殺しの罪を着せてしまうなど、お詫びのしようがありません」
「いや、かなり薄く遠い傍流とはいえ私にも王族の血が流れている。
これ以上民を苦しめるわけにはいかない。
私がセシリアの名代として討伐軍を率いれば、兵士が民を略奪暴行する事を防ぐことができるだろう。
これは私がやらなければいけない事だ」
「父上、逃げるわけではありませんが、私ではなく母上を旗頭にしてください。
私が旗頭では次期国王問題で将来争いが起こってしまいます。
それにキャッスル王家との関係もあります。
慈母聖女として大陸中に名声を得ている母上がジェイムズ王国の女王となられる。
父上が王配の摂政として実際の政務を執られる。
弟のヘンリーを次期国王にする。
キャッスル王家の家臣となっているブートル辺境伯家は私が継ぐ。
これで色々な問題が解決すると思うのです」
本当に腹立たしい事です。
これも全部ヘルメスの謀略通りに進んでいると思うと腹が立ちます。
腹が立ちますがこれ以外の方法が思い浮かびません。
キャッスル王家を滅ぼして連合王国にするなど絶対に嫌ですからね。
もちろんキャッスル王家から私の婿をもらって、生まれた子供を連合王位につける気もありませんし、ヘンリーにキャッスル王家から正妃を迎えて生まれた子供に連合王位につけるきもありません。
私は好きになった男性を結婚するのです。
政略結婚など絶対に嫌です。
「そう、だな、その方がよさそうだな。
私達が一番苦しかった時に受け入れてくれた、キャッスル王家との関係を悪くするのは信義に欠ける。
かと言って私やルイーズがキャッスル王家に臣下の礼をとれば、ジェイムズ王国の貴族士族が、いや、民までが嫌な気になるだろう。
セシリアを王女にしてやれなくて申し訳ないのだが、そうしてもらえるか」
「はい、よろこんで」
自称聖女の従姉に誑かされた婚約者に婚約破棄追放されました、国が亡ぶ、知った事ではありません。 克全 @dokatu
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