第3話閑古鳥
18時はもうとっくに過ぎ、もう20時を迎えようとしているのに、この朗読BARにいるのは、バーテンダーとバックヤードに控える本を読む語り手だけ……。
私はここで働くバーテンダーの
入店した頃は、活気に満ちていたこの朗読BARだったが……。最近はめっきり客層も変わり、というかお客自体が滅多に来ない。
今日もこの軽快なBGMを聴きながら閉店までカクテルグラスを磨くだけの清掃員と化して終わるのかな?
しかし、この朗読BARもほんと、出来た当初は、それなりに色んな人間模様があったようだけど、私には関係ないか……。
私はこのBARがオープンしてから3ヶ月目ぐらいに入店した。その頃は結構盛んに色んなお客様が出入りして楽しい日々だったのになぁ……。
今じゃ、ざわめく店内なんて、週末の夜ぐらいなもんだなぁ。
「おーい! みつき!」
不貞腐れるような考え事をしていると、
「なんです? 清掃も、準備も万端ですよ?」
私は、卒なくこなしているように答えると、弾店長も私と同じことを考えていたのか、首を横に倒しながら、ショットグラスを綺麗に磨きながら答えた。
「一人も来ねーな。今時、ビラ撒いてお客取れるわけねーし、どうする? みつき」
「ビラ巻き行った方がいいですか?」
私は弾店長に聞き返したが、弾店長も、予想してのことなのだろう。首を縦には振らずに、呆れ顔でいつものキリッとした対応とは違う。
少しダラけた様子で話し始めた。
「なあ、みつき……。お前、もう一年だっけ?」
「えぇ……」
「そか、お祝いしてあげたいって気もあるんだけど、店がこれじゃなあ……」
そうだ。ここのところ閑古鳥。以前は常連客で、満席になっていたこの朗読BARも、今訪れるのは、一元客がほぼ8割占めている。
そして、どうしてかここのところは、朗読する語り手も暇そうに、清掃するか、バックヤードでトランプして過ごしているようだ。よくこれで、利益が上がっているのかってことだけど、まあ私が知る限りでは、赤をずーっと垂れ流しているみたい……のようだ。
オーナーでBARのマスターでもある
「知ってるか? みつき……」
「えっ? なんですか?」
「ここのオーナー、睦月さんのこと」
「ああ、いい人ですよね?」
「そういうこと言ってんじゃねーよ。最近じゃ、物語を書けないって嘆いているらしい……」
「えっ? 作家さんのことですか?」
「違うよ。お前知らんの? 朗読BARの朗読する物語、オーナーの睦月さんがほぼ全部書いてるの……」
「あぁ、知ってますよ。でも全然めっきりですよね?」
「そう! 最初は結構お客さまにも食いつき良くてさ。どんどん短編を連発していたのにさ? 知ってるか? 何を血迷ったか、公募し出したんだよ?」
弾店長も暇だからか、オーナーの睦月さんを明いっぱい愚痴りだす始末だ。
「へぇ……。そうなんですか? で、戦績は?」
「さあ? 詳しくは知らんが、2次選考までとかって……。ああ、そういやあ、優秀賞取ってた時期あったなあ……」
「えっ? マジっすか?」
「ああ、でもwebだっけな? 数年前の話らしいが……」
ふーん。でも本業がこれじゃあーねぇ……。ああ、ここをどうにかしてほしいよ……。
「そういやぁ、近日公開するとかって話だよ」
「流行るんすかね?」
「わからん……。まあ、長編小説を流し出して、お客さん離れたもんな……」
そうだ。去年の夏からの長編小説を朗読してから、客足が減ったのは確かだ。
声優さんは悪くないんだけど、最初はそこそこ回転数行って、「おっ!?」って思ったものだけど、この電脳空間、語り部朗読BAR。
Youtubeでは、長編ってのは、火がつかない限り、無理だっていう話だ。
しかも、うちのオーナー。似合わずに恋愛小説なんてものを書いてるんだから……。
「しかし、新しい風を入れたくて、新年から、新企画とかって、珍しくオーナーの睦月さん、張り切ってたよ?」
「またなーんかしけてくるんですかね? まあ私たちは、接客して対応するのは楽しいからいいですけど……」
「そうだな? 増えてくれたらなぁ?」
「そうですよ……。あっ……」
そんな愚痴を話してたら、今日の一人目と思われる足音と店のカウベルが鳴った。
「いらっしゃませ! 朗読BARへようこそ!」
ようやく接客につける。
オーナーの睦月さんには失礼かもしれないけど、もうちょっとマニアックさが抜ければ、いいと思うんだけど……。
ホント、繁盛してほしいものだ……。
了
朗読BAR物語 睦月椋 @seiji_mutsuki
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