第16話 炎狼
その記憶を取り戻した時、優傘は自分の奥底から、憎悪と憤怒が湧いて心を燃やし、壊していくのを感じた。
そしてそれらが心の代わりに一つになろうとしていくのも。
「あ■ぁ?!■ぁ!!に■がが!!」
幻覚の炎から逃れる悲鳴を上げるかのように優傘は叫び始めた。
そして心が入れ替わった時、優傘の体にも変化が起こった。
突如光り輝き始めた腕輪へ向け周囲の炎が引き寄せられたのだ。
そしてその炎は生きているかのように優傘を捕らえると、焼けるような痛みとともに全身に炎は広がって行った。
「な、なんだ!あれは!機動隊!すぐに排除を……」
突然の事態に焦った和繁はすぐに支持を飛ばすが、一足遅かった。
和繁の指示に周りの護衛が我に帰る直前、腕輪から射出された炎球が和繁に激突したのだ。
炎球は和繁にぶつかった衝撃で弾けると粘っこい炎で和繁の全身を覆った。
「ギャアァア‼︎熱い!だ、誰か!助けて!」
炎は和繁がいくら転がっても、死者の怨念のようにしつこく全身に纏わりつき続けている。
恐怖で誰も動けない中、やがて助けを求める声は掠れて消えていく。
そして後に残ったのは、武器と黒く燻んだ死体のみだった。
そしてそれを眺める"モノ"がいた。
それは、顔以外を全て炎で包み込まれた優傘の姿であった。
しかし、最後に残った優傘の表情も満足そうな笑みを浮かべて、炎の中へと沈んでいく。
それと同時に全身は炎に包まれ、炎の勢いはどんどんと上がり、怪物を形作っていく。
ホール中が蒸し暑くなっていく中、ついに炎は怪物へと変化した。
それは全身が炎により燃え盛る、狼の形をしたモノだった。
しかし体長は6mを超え体高も3m近くあり、狼とは比べ物にならない存在感を放っている。
その狼は炎でできた真っ赤な口を開け、その長い刃を見せると、おもむろに近くにいた貴族を食いちぎった。
食いちぎられた貴族の血はぼこぼこと音を立てて沸騰を始める。
それと同時に人の焼ける焦げた匂いがホールを漂う。
「う、うわあぁー‼︎」
一人がそう叫ぶのを皮切りにホール中に悲鳴が走った。
「い、嫌よ!こんな所で死ぬなんて!」
「ど、どけ!邪魔だ!」
ホールにいた貴族達は、周りの人を押し除けながらも我先へとホールの出口に向かって走っていった。
その途中には腰を抜かした者や、倒れた者もいたが、そんな者達をも関係なしに人々は踏みつけていく。
そんな様子を狼は真紅の目と口を愉悦に歪ませてながら見ていた。
優傘を助け出そうと隙を見ていた朧は何かおかしい雰囲気に気づく。
「ま、待って何かおかしい!」
だが、聞く耳を持たない人々は重い扉を押し開けようとしてしまっていた。
「よ、よし。やっと開くぞ!これでやっと!」
ある貴族の男は幸運にも集団の先頭にいるため、真っ先に扉から逃げる事ができそうだった。
『やっとあの怪物から逃げれる!一体あれはなんなのだ!散々な目にあったが生還出来ればなんとでもなる!』
そう男は扉の向こう側の眩しい光が差し込むのを見ながら喜んでいた。
しかし、その瞬間それが間違いだと気づく。
『えっ、ほ、炎?』
それを最後に男の思考は消えた。
開けた部屋の向こう側は存在していなかったのだ。
そこにはただ、こちらへ迫りくる炎の壁が存在していた。
カミサマの仮使徒 @Evynnis19
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