第15話 炎の記憶

真実を知った時、優傘の頭の中に記憶が戻ってきた。

今まではショックで覚えていないだけだと思っていた、引き取られる直前の記憶である。


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それは悲鳴と懇願だった。

それは血と狂笑だった。


体を張ってどうにか優傘を守りながら、和繫に優傘の命を懇願している、血だらけの両親の姿だった。

そしてそんな二人のことを笑いながら銃でなぶっている和繫であった。


「ぐ、ぐぎっ…大丈夫だ。優傘は、父さん、母さんが、守ってやるから。」


そう優傘をかばいながら両足を吹っ飛ばされた父親の良朔の姿だった。


「だ、大丈夫よ。だから、優傘は、目を閉じてなさい。」


そう優傘を気遣いながら全身から血を流す母親の鈴香の姿であった。


そして、それをいたぶる憎い憎い和繫の姿だった。


「ほら!あと一時間だぞ!それまで耐えれたら娘は助けてあげよう!」


 鈴香の足指を吹き飛ばしながら和繫はそう言う。

その言葉に対して息も絶え絶えに和繫を見ながら良朔は尋ねた。


「ほん、本当だな、親父。あと一時間、耐えれば、優傘は、見逃して、くれるのだな」


「ああ、本当だ。驟雨家の名に懸けて誓おう。お前らの娘にはまだ利用価値があるのだ。」


「そう。そ、それなら、いいわ」


 それだけ聞くと二人は優傘を抱きしめ、苦痛に耐えた。


そこは地獄のようだった。

一時間を告げる鐘の音が鳴り響いた時、部屋は飛び出した二人の臓物と血で真っ赤に染まっていた。

二人も見るも無残な姿になり生きているかも怪しかった。


 しかし、そんな姿になろうとも二人は生きていた。

 優傘を抱きしめた手を離すことなかった。


「人間は腹の臓物が空になっても生きていられるのだな。いやあ、勉強になった。」


感心した様に拍手する和繫はこう二人に問いかけた。


「さて、楽しい時間もお開きだ。最後に言い残すことは?」


普通なら死んでいるだろう傷を負っている二人はその言葉を聞き、優傘に微笑みかけた。


「ごめ、んな、ゆ、優傘。い今まで、不じ、ゆうな、生活、さ、せて。ど、どんなに、こ、ころ、細くて、も、わ、わすれ、るな?と、父さん、いつ、も、見、まも、ってる、からな。あ、愛して、るよ。」


「ゆ、優傘。これ、からも、つ辛い、時があ、ると、思、うの。で、でも、あきら、め、ちゃだ、だめよ?優傘、がつ、強い、子なの、はわ、私たち、が、一、一番、知って、いる、からね?愛、してる、わ。」


 そう優傘に語り掛けて二人は、最後に顔を見合わせるとゆっくりと瞼を閉じた。

 

「お、お父さん?お母さん?どうしたの?だ、大丈夫なの?」


記憶の中の優傘は何が起こっているのか混乱してわかっていない様子だった。

冷たくなっていく両親の体に抱かれながら、必死に両親に返事を求め続けていた。

「なんだ餓鬼?わからないのか?お前の両親は死んだんだよ。お前を庇うためにな。まぁ滑稽なものだよな?」

 

二人の事をひとしきり嘲笑うと、和繫はめんどくさそうに部屋を見渡した。


「どうやって片付けてようかねえ?この餓鬼の記憶も抜かないといけないしなぁ。

 ちっ!死んでも面倒な野郎だ。」


 そう悪態をつく和繫は、結局、燃やすと決めたらしく、部屋に炎を放った。


「さて、あとはこの餓鬼を回収すれば終わりだな。」


 最後に優傘の目に写ったのは、燃えていく家と、そこに取り残された両親の死体だった。


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