第40話 エピローグ
放課後。
いつも通りの廊下、いつも通りに生徒会室のドアを開け、
「来たか、無敵の皇帝。肯定だけに皇帝、なんてのう。ふふ、上手いじゃろう」
「大して上手くないですからね」
いつも通りの掛け合い。天音先輩は一瞬ふくれっ面をした後、
「しかし、水くさいのう。切り札を隠し持って秘密にするとは、隅に置けぬ」
「……す、すいません。隠していたというか、なんというか、その」
挙動不審であろう僕、天音先輩はそんな僕を不思議そうに見つめながら、
「して、使用条件はなんじゃ?」
「それ、は」
胸を触ることです。
なんて、口が裂けても言えない。言ってしまえば、同じ道を辿る。過去のトラウマが蘇って――、
「胸を揉みしだくことでしょう」
――か、風宮さん?
「今までの情報を分析する限り、共通していることは一つ――胸を揉みしだく、という確率が百パーセントに近いです」
「ほほう。破廉恥な」
ジ・エンドっ!
この二人に隠しごとなんて、不可能に近かったんだ。これで、僕は昔通りのレッテルを貼り付けられて、皆に拒否されて――、
「しかし、面白い『言霊』じゃのう」
――えっ?
ふふん、と鼻息を荒げる天音先輩、いつも通りの風宮さんがいて、
「胸を揉みしだくとは、男子の本懐に尽きるではないか!」
「はい。胸を揉みしだくなんて、変態の名に相応しいです」
「もうちょっとオブラートに! せめて、触るって言ってくださいよっ!」
言いながら、自然と笑みがこぼれる。
この二人だからこそ、そんなことはなかったんだ。この二人だからこそ――思い上がりではなく、僕はこの場所に馴染んできている気がする。場所だけではなく、生徒会の仲間にも。
無意識、全体を見渡す。天音先輩はそんな僕を見つめながら、
「まあ、これからはワシの助力などいらぬ。どんなやつが挑んで来ても安心じゃ。格好よかったから、単独で『論争』してほしい。……とか、思っておらぬぞ?」
「後半に本音が全開ですよ! 勘弁してくださいっ!!」
僕は全力で両手を振る。
僕の『賛否両論』は、あくまで『結論を導くため』のものだ。今回のように、一件が解決すれば『肯定』はリセットされてしまう。
つまるところ、再度使用するということはその都度――オリジナルの胸を触るということになる。今回は偶然だったものの、自発的に触る度胸が僕にあるわけない。
無敵なようで無敵ではなく――『否定』をするのは簡単なれど、相手を知る『肯定』は難しい、と言ったところだろうか。
だからこそ、まだまだ、
「僕には、天音先輩がいないと駄目ですよ」
「……今、なんと言った?」
「天音先輩がいないと駄目です」
僕は力強く頷く。
天音先輩に操られるための拷問にさえ耐え抜けば、操られている間はリスクがないからね。僕の『言霊』は最終手段に取っておきたい、という本音だ。
何故か、天音先輩は頬を真っ赤に染めながら、
「そ、そうか。ワシがいないと駄目かの」
んんっ!
この場面、記憶がある。今朝もあったような――デジャブ?
「放課後もプロポーズですか」
ボソリと、風宮さんが言う。
「えぇっ! だから違いま――」
「……放課後も、ってなに? もって」
気のせいか、計り知れない殺気がする。
「浮気は許さないよ」
「う、浮気? 天音先輩! 口調、口調がっ!! いやあっ!」
これから襲い来るであろう、一方的な理不尽に僕は身を屈め――、
「ふふ。胸を揉みしだく、か」
――んんっ? 吐息が顔に。
「なっ! ち、ちかっ、近いですよ! ……い、今、キスしようとしました?」
「それくらい気にならないくらいに、お主を鍛えてやろうと思ってのう。……前回以上のディープなやつをじゃな、ディープ」
「ディっ!? 急になんですか? ま、まだ心の準備が! というか、そういう問題じゃなくて。明らかに鍛える方向性がおかしいですよ!! 風宮さん、助け――」
「すぅ」
健やかな寝息。
「――なんで寝てるの!? このシチュエーション、見覚えがありますよ!」
「大丈夫じゃ。蓮は寝ながらでも視界はバッチリ」
「大丈夫の意味がわからないですよ! もうただの寝たフリじゃないですか!」
「兎にも角にも、浮気防止のために既成事実をじゃな。……むぅ、暴れるでない。暴れるなら強硬手段にでるぞ!」
天音先輩の指先に、青紫色の光が集中する。
そういえば、入学式の時もこんな感じだったな。状況は全く違えども、一方的に詰め寄られて、懐かし――なんて言っている場合じゃないよね。
「天鳴――雷撃!」
「僕は否定する――雷撃!」
始まりと、これからは同じく――僕の生徒会長としての苦難は続きそうだ。
いきなり生徒会長? この世界の話し合いは一筋縄では通らない件について ともQ @tomokichi0313
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