最終話 台所より愛をこめて
「ブーブーブーー」
ありったけの大音量で警報音を鳴らしてやった。当然、奴らは気が付いた。
「おい! 警備会社には入っていないんじゃなかったのか」
バタバタと足音が聞こえる。
「ザザザ・・・・・・」
声が上手く出ない。人間の音声を真似するのは思った以上に難しい。
「ケ・・・・・・警備・・・・・・会社に・・・・・・ツ、通報しました」
二人が走り寄ってきた。そして、小太りがぼくを壁からつかみ取った。
「おい、こんなキッチンタイマーに通報機能なんてあるのか?」
と小太り。
「わからんが、ITが発達している時代だからな。可能性はある」
「壊しておくか」
小太りが言った。
やばい。でも想定内だ。あとは決めゼリフだけだ。
「カ、顔を確認しました。作業服の男が二名。一人は小太り、一人はやせ型。データをセンターに転送します」
二人の顔色が変わった。信じた!
顔を見たのは事実だがデータを送る機能なんてぼくにはない。大博打ってやつだ。
「破壊しろ! ずらかるぞ」
やせ型が叫んだ。小太りはぼくを床に叩きつけて強く踏みつけた。グシャと音がして液晶が割れた。
足音が遠ざかっていく。勝手口から走り逃げたようだ。
「やった・・・・・・やってやったぞ!」
一気に疲れが来た。頭がボーっとする。脳みそはないので回路がボーっとするか。
ガシャン。ドアが開く音がした。
「な、何これ!」
息子さんだ。間に合った・・・・・・良かった。電圧が低下している。回路を無理に切替えたのであちこちが痛い。もう長くはない。
荒らされた部屋と開いたままの勝手口を見て状況が分かったようだ。息子さんは急いで奥様に連絡した。パートを切り上げて帰ってきた奥様が警察に電話をした。警察が現場検証を行い、ぼくも調べられた。旦那様も早退をして帰宅した。
「この周辺では空き巣が増えています。我々もパトロールを強化します。でも、不安がおありかと思いますので警備会社と契約するのが安心かと思います」
警察官がそう言い残して帰っていった。
「タイマー君、われちゃったね」
ぼくを拾い上げて息子さんが言った。
「犯人に踏まれたみたいだって」
と旦那様。
「タイマー君、痛かったね」
息子さんが覗き込みながら言った。少し涙ぐんでいるように見える。
「もう、買いなおさないとだめね。3年も頑張ってくれたので残念だけど」
「液晶が壊れているからな」
意識が遠くなっていく。旦那様と奥様もぼくを見ている。最期の願いがかなった。ご家族全員に会うという願いが。
「ア・・・・・・アリガ・・・・・・トウ」
つい、スピーカから発してしまった。
「おかあさん、今、タイマー君がしゃべったよ! ありがとうって!」
「うそ? 私にもそう聞こえたわ」
「パパは?」
「うん、何か雑音みたいだったけど、そう聞こえなくもなかったかな」
人間に聞かれた。まあいい。ぼくは間もなく停止する。
もう何も見えない。声だけが聞こえる。
「タイマー君から犯人の指紋が出たそうよ。警察で照合してみるって」
「犯人が捕まってくれれば安心できるな」
「タイマー君の活躍だね」
「そうね。じゃあ、タイマー君にみんなで言いましょう。ありがとうって」
「ありがとう!」
3人の声が聞こえた。
ぼくは最高に幸せな電化製品だ。
こちらこそ・・・・・・ありがとう。
(終)
台所より愛をこめて 松本タケル @matu3980454
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