第4話 禁断の技

 ぼくは工場で組み立て装置の爺さんが話していたことを思い出していた。

「わしら意思のある機械にだけできることがある」

 そこから、ぼくたちのような意思ある機械だけができる裏技を教えてくれた。これは、という技だ。機械には仕様があり、仕様に沿うように設計される。回路のようにハードウェアで作られることもあれば、ソフトウェアで実現されることもある。

 その両方を駆使して機能を拡張するという技だ。拡張するといってもその装置が持っている部品が増えるわけではない。あくまで備えている部品でできる範囲内ということになる。


「覚えておいて欲しいのじゃが、決してこの技は使ってはいけない」

「どうして?」

「その後、待っているのは確実なる死だけだからじゃよ。壊れるってことさ。設計に反して無理やり回路を帰るんじゃ、そうなっても仕方なかろう」

 組み立て装置の爺さんがその技を知ったのは工場に設置された直後だったそうだ。近くに設置されていた別の機械が同じく意思を持った装置だったそうだ。ある日、生産が終了した深夜に出火事件があった。本当は火災報知器が鳴るはずなのに、なぜか鳴らなかった。

 その状況を見て先に設置されていた別の機械が、ネットワークに侵入して火災報知器をならし、スプリンクラーを動作させたところを見たらしい。その機械は間もなく修理が効かないほど壊れたそうだ。最期の言葉が、「こうなるから使ってはいけない技なんだ」だったそうだ。


 それから、爺さんは意思を持った機械と会う度にこの話を伝えることにしたそうだ。「決して使うな」と付け加えることを忘れずに。

 当時は、「決して使うな」の意味が分からなかった。しかし、今ならわかる。爺さんが言いたかったのは本当に使ってはいけないという意味ではなく使ということだったのだ。


 ぼくは早速、作業を開始した。回路の切り替えには時間がかかる。

「絶対、間に合わせる。息子さんが帰る前に」

 自分自身の構造は熟知している。キッチンタイマーにはたいてい安いスピーカーしかついていない。でも、ぼくは高級品。ピピッという音だけではなく、「あと5分です」など音声でお知らせする機能がついている。これは使える。いや、これしか使えないというべきか。残念ながらネットワークにはつながっていない。使えるのは音声だけだ。

「どんな音声がいい? どうやったら追い払える?」

「奴らがぼくを破壊するなんて容易だ。チャンスは多くない」

 回路を切り替えながら考えた。

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